「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「赤丹に染まる」

2005-12-23 21:45:01 | 和歌

 「うつろ庵」の狭い庭には、二株の薔薇がある。

 一株は五月から六月にかけて、真紅の花を沢山咲かせてくれる優れものである。この薔薇についてはブログを開設して間もなく、旧ブログ『「千年の友」と「枯葉」』の中で、「薔薇を娶らむ」に恋歌を紹介した。

 もう一株は、大輪の四季咲である。莟のころから咲き始めは冴えた「赤紫色」が緑に映え、程なく「薄紅梅色」に変り、大輪の散り際は「鴇色」になる。花数は少ないが、その移ろい行く花の色が何ともおくゆかしい。咲き始めの写真を「嫁ぎ来し」に掲載し、大輪に開いた姿を旧ブログに「苦の種を」で紹介した。

 四季咲きの今年最後の莟が、一つだけ「ひっそり」としかし「逞しく」、己の役割を果たそうとしている。



 



             朝日受け寒気もものかわ凛と立つ

             冬至の薔薇の莟は逞し



             薔薇の葉は緑に「蘇芳」の色重ね

             荒ぶる冬至の風に耐え居り



             陽に透かす鋭き棘も葉のへりも

             「赤丹」に染まる冬の薔薇かな



             陽にひかる産毛の莟は初ういし

             年の初めの開花を夢見て





「名残の一枝」

2005-12-23 21:44:23 | 和歌

 「うつろ庵」の庭先にある「もみじ」は、すっかり落葉してしまったが、小さな一枝だけが紅葉した葉をシカと付けたまま寒風に耐えている。薄曇の寒い朝だったが、いっときだけ、雲の切れ目から朝日が差し込んできた。朝日に葉をかざして、精一杯に陽を浴びている様が、何ともいとおしい。


 


             いと細き小枝に残るもみじ葉は

             荒ぶる風にひたすら耐えいて



             あやにしき庭に誇れるもみじ葉の

             ただ一枝の名残り侘しき



 



             いっときの朝日射し来てもみじ葉は

             ひとむら残りて華かと見紛う



             やがて散る己の定めを知るもみじ

             秋の名残を朝日にかざして  



「すべてを呑み来て」

2005-12-23 21:43:06 | 和歌

 市民講座に出席する道すがら、赤門を経て三四郎池を訪れた。池には、舞い落ちた枯葉を避けて、番いの鴨がゆったりと餌を啄んでいた。池に流れ込んでいる小さな滝では、東京のど真ん中に居ることを忘れ、暫しながれの音に聴き入った。加賀藩主に嫁いだ将軍家の息女のこと、小説の小川三四郎と美禰子のこと、息子と娘の孫の行く末などに思いを馳せつつ・・・。



 



             深き森 深き念を 映し来て

             昔を今に伝ふる池かな



             池の水はすべてを呑み来て静まれり

             浅葱に染まる空をもとどめて



             岩間より落ち来る水の音を聴けば

             あまたの 憶の 胸に去来す



             湧きいずる泉の小さき滝見つつ

             幾世隔てぬ 息吹を 聴くかな





「ウコンと語らむ」

2005-12-23 21:42:31 | 和歌

 今年の二月末、伊豆に河津桜を観に出掛けた。河津川の堤防の道は、桜見物の観光客で賑わっていたが、道路沿いには沢山の出店が商魂逞しく並んでいた。とある店先に、なにやら生姜根のようなものを発見した。尋ねると「生ウコン」だという。

 沖縄では、ウコンの粉末や錠剤に加工したものを、到る所で売っていたが、生のウコンを見るのは初めてであった。専ら沖縄の産物との先入観があったが、伺えば伊豆でも関東でも栽培しているらしい。店のオバチャンによれば、生姜のようにオロシテ、茶さじ一杯程度を毎日服用すれば、肝臓機能の増進には特に効果があるという。物珍しさもあって一袋を土産にした。虚庵夫人は、何も口を挟まなかったが、「またゲテモノをお買いになって」という目付きであった。

 それから暫らくの間は、自ら下ろし金でウコンをオロシ、服用する毎日が続いた。ウコンは漢方薬或いはサプリメントとして、昔から高い評価を受けているが、近年になって抗がん作用が高いとの研究成果が発表されて以来、とみに人気が高いようだ。残りのウコンが数個になって、試みに庭にウコン根を植えた。

 十月の半ば過ぎにアメリカから帰国したら、ウコンが白い群花をつけて迎えてくれたことは、「留守中の花」に書いたので、ここでは省略する。



 



             試みにいとけきウコンを植えたるに

             清しく応えて群花咲かせぬ



             重ね咲くウコンの小花に湛えしは

             乙女の化身の泪にあらずや



             白妙の気高きうこんは化身にや

             とうとき際の息女にあらまし



 年の瀬も押し迫って、ウコンの葉は黄色に枯れ始めたが、寒波が来襲して一気に萎れた。
 根を掘り起こして驚いた。大収穫である。



 



             重ね咲くウコンは小花に泪湛え

             かくもあまたの根を宿すとは



             鬱金に染めにし衣を纏ひなば

             うこんの華の化身にまみえな



             相見なば小花に湛えし涙壺の

             ふかき想いを汲みて語らむ




「銀杏と紅葉」

2005-12-23 21:41:44 | 和歌

 これまで長年携わってきた仕事に関連して、多少なりとも世の中のお役に立ちたいとの思いから、退職後も色々な機会を活かして、世間との接点を保つように心掛けている。一般市民皆さんが敬遠しがちな「エネルギーと環境問題」は、ともすると市民の感覚・視点から乖離し易いので、専門領域のテーマではあるが、改めて市民の立場で勉強しようかと、出来る限り講演会などにも出掛けているこの頃ではある。たまたま六回シリーズの市民講座が、東大・武田先端知ビルで開催されているので、第五回目「技術倫理を考える」に参加した。


 


 マスコミを賑している「マンションの耐震強度の偽装」、「JR福知山線の脱線事故」、「東海村JCOの臨界事故」、「三菱車のリコール隠し」等など、技術に関連した倫理問題は、企業の社会的責任(CSR)としても真剣に考えねばならない、現代社会の大きな課題でもある。世間を騒がせた「雪印の食中毒事件」の事例、東大の技術倫理の講義概況など、それぞれ興味深いお話を伺った。東大の講義のなかで、学生達に具体的な問題解決に向けて考えさせ、グループ討議をさせていると伺い、ある意味では救われる思いがあった。重く難しいテーマではあるが、「様々な視点から本質を掘り下げ、対策を考えさせる」試みは、現代の学生の欠陥を補って余りある。

 最近になって、「シニアと学生との対話」を何回か経験した虚庵居士は、学生が自ら物事を真剣に考え、友人と激論を交わす機会が極端に少ないことを聞かされて、愕然とした。友人との会話は、当たり障りの無い内容で、真剣に議論をしようとすれば、「マジ?」とのパンチで一蹴されるのが、当たり前の風潮だという。

 この様な学生達に、例え演習とは言え、「技術の倫理」・「企業の社会的責任」について考えさせ、真剣に議論させることの意義は、計り知れないものがあろう。



             金色の銀杏の散りしくキャンパスに

             技術倫理の重きを議論す
  


             人のため 世のため誠意を 重ねるは

             倫理のもとの ものにあらずや



             世の中に 相容れられる 判断の

             基準となるもの それが倫理か



 



             ものおもい落葉踏みしめ歩み来れば

             もゆる紅葉の迎えなりけり



             木漏れ日の射し来てもみじ葉浮き出づる

             深き林の奥の細道





「爺様の意気と 小さな花束」

2005-12-23 21:40:58 | 和歌

 久方ぶりに、かつて勤めていた古巣を訪れた。
 
 会議室をお借りして、年明けに企画しているエネルギーと環境問題に関する、三回シリーズの講演会に向けて、講演のリハーサルを兼ね、意見交換会をするのが目的であったが、現役社員の皆さんの温かなご支援には、何時もながら感謝の念で一杯である。ビジネスマンとしても一流の地歩を固め、然るべき地位に上り詰めた面々とは申せ、自ら蓄積した知識を披瀝して、一般社会の皆様に、エネルギーと環境問題を分かり易く「お話し」することは、誠に不慣れで、ついつい業界の言葉、専門用語が飛び出してしまう。

 市民の目線、市民の言葉で語りかける訓練が出来ていないことを反省し、我々のシリーズ講演会に先立っては、話しの主旨やストーリーは元より、殊に言葉の表現と、使用するスライドの分かり易さについて、忌憚の無い議論が集中する。お借りした会議室の制限時間の範囲では収まり切れずに、近くの大衆酒場にまでそれが延長されるのが、いつもの事になっている。議論を肴に酒を酌み交わすのは、二十時を目途に切り上げることにしているが、耳順・古希を越えた爺様たちの、益々意気軒昂ぶりに拍手を送りたい。



             年経てもなお情熱を失わぬ
  
             彼らの思いの根源はなに
  


             半世紀を賭けて積み来た思いをば
  
             世のため人のために活かさむ
  


             お話を聞く人々の胸のうちに
  
             想いを致して話すや否や
  


 爺様の会へ、快く送り出してくれたカミサンへの小さな感謝の気持ちを表すべく、電車に乗る前に五百円の小さな花束を買った。横須賀は米軍基地の街であるが、電車に乗り合わせた肌の色に異なる若者が、小さな花束を見て話しかけてきた。


 



  「その花束は、ガールフレンドへのプレゼントなるやや? ワイフへのプレゼントなるや?」
  「何れと思うや?」
  「小さなガールフレンドにあらずや?」
  「否、わが妻へ、なり」
  「相分かった。ガールフレンドへのプレゼントなりせば、百本の薔薇ならむ!」
  「洋の東西を問わず、ガールフレンドを射落とさむと欲せば、百万本の薔薇が要り申す!」
  「イエス! イエス!」 爆笑・・・。



             小さくも思いを託して贈らむか

             じじからばばへの 小さな花束



             寒空に花売る乙女の言葉には

             小さな花束に 無限の想いを !




「白玉の 菜の葉の盃」

2005-12-23 21:39:38 | 和歌
 
 十月に更新されて間もないブログがある。「居待ち月の家」と、優雅な名前のブログで、エッセーを執筆されているりらん様のお人柄であろうか、ほのぼのとした雰囲気に惹かれて、訪問されコメントを残される方も多い。虚庵居士も時々お訪ねしては、時にはコメントなども落書きして、お付き合い願っている。


 


 過日、「迷子?の仔猫」という写真入のエッセーが掲載された。迷子の仔猫ちゃんのお話も、この先如何にとの思いで拝読したが、猫ちゃんと一緒に写っている白菜のオシリが、余りにも見事なので、ついつい不躾なコメントを書き残した。二日ほどして再訪したら、丁寧なご返事が掲載された。

 「この白菜、無農薬有機栽培で母が作ったのですが、いったいこんなに作ってどうするの?と、問われても・・・云々。もしよろしければ、ご一報頂ければ、お送りいたしますが・・・。ご遠慮なさらずにどうぞ・・・ほんとに・・・。」

 丁重なお申し出に、虚庵居士は不躾なコメントを残したことに恥じ入って、又もシドロモドロのコメントを書き残した。その後、「かえってご迷惑になっても・・・」などと、躊躇している虚庵居士を気遣って、ご親切にも再々のご返事を頂いた。



             ありがたき仰せの言の葉は身に沁めば

             葉肉のあつき白菜おもほゆ



             降り積もる雪かき分けて白菜を

             掘る指先は冷たく凍えむ



             我ために赤く凍える指先を

             いかにや温む遠くにあれば



 急に冷え込んだ早朝、クール宅急便の配達があった。
りらん様から、かの「白菜」が届いた。丁寧に新聞紙で包まれた白菜は、旅の疲れも見せずに白く匂いたち、根菜も添えられていて、りらん様のこころ配りが偲ばれる。



             白菜はかおり立つかな雪深き

             郷の思ひを一気に放ちて



             降り積もる雪に晒すか白菜の

             豊かなオシリは結びて固し



             厚き葉を一枚いちまい剥ぎゆけば

             秘めにし内の思いは薫れり



 



             白菜の厚き葉肉の煌めくに

             注ぎし酒は薫りたつかな


             白玉の菜の葉の盃かおりたち
 
             酌みたる酒と和して酔ひたり




「鷹の爪」

2005-12-23 21:35:23 | 和歌
 
 寒さがつのると、寒がり屋の虚庵居士は温かなものが恋しくなる。殊に晩酌では何故か頑な拘りがあるが、これも体を温めてくれる大切な助っ人だ。下戸の酒好きとでも言うのであろうか、酒量はそれ程でもないが、清酒・焼酎・ワインなど等アルコールであれば何れもOKであるが、何時の間にか無類の酒好きになった。冬の晩酌の拘りは、ここ数年、「鷹の爪」である。小ぶりの鷹の爪であれば二つ三つ、大きなものであれば一つが、毎晩の晩酌のお相手である。

 鷹の爪は中に種を宿しているが、表皮も種も辛味成分をタップリとふくんでいるので、この辛味成分の助けを借りて、晩酌を愉しみながら身も心も温まろうというのが、虚庵居士の欲の深いところだ。この頃は芋焼酎のお湯割りが定番で、先ず鷹の爪のマニキュアから始まる。爪の中には空気を含んでいるので、そのままお湯割りに投げ込んでも、プッカリと浮いてしまって、辛味成分の滲出が足りない。鷹の爪のアチコチに鋏で切り込みを入れるが、種が出て来ない程度の切り込みにするのがコツである。グラスにマニキュア済みの鷹の爪を入れ、熱湯を適量注ぐ。このとき鷹の爪は内外に熱湯が注がれるので、半生状態に還元され、カプサイチンが程好く滲出する。然る後に芋焼酎を注いで、好みのアルコール濃度を確保するというのが、手順だ。

 食事のときは、大概ワインに切り替えるが、鷹の爪入りのグラスはそのまま使用し、食後のコニャックもまた然り。不思議なことに、ここまでくればカプサイチンはスッカリ滲出しつくしている筈であるが、コニャックの強いアルコールが、最後に残ったカプサイチンを余す所なく搾り出すようだ。

 かくして、虚庵居士は酒と「鷹の爪」の助っ人を得て、至極ご満悦と相成る。



 



             かくばかり見事な鷹の爪見れば

             飾りを越えてよだれを垂らしぬ



             奥様はパスタのアルデンテ ほどの良き

             辛味とトマトの味を誇りぬ


 
             傾けるグラスの赤き 鷹の爪の

             激しき口づけ 夜毎に酔ひけり



             激しくも赤き炎の鷹の爪の

             カプサイチンに燃えたつクチビル





「小菊と猫じゃらし」

2005-12-23 21:34:39 | 和歌

 いつもの散歩よりチョッとだけ足を伸ばした。

 東京湾を見下ろす景観が売り物であった、隣の住宅街まで行ってきた。小高い山を宅地造成した、整然とした街並みで、分譲販売されて十数年は経つであろうか、その一画に空き家になって久しいお宅がある。庭先には、いつも綺麗に花卉が栽培されていたが、住人が不在になると、庭にも雑草がはびこり、捨て置かれても律儀に秋を感じて咲く小菊と絡み合って、もののあわれを一際かきたてる。



 



             住人の事情は知らず如何なるや

             庭の小菊は律儀に咲くも


             住み人のなくて久しき庭先に

             猫じゃらし枯れ小菊に凭るる


             人の世の移り変りは儚くも

             ことわり違えぬ自然なるかな



「蔦のもみじ葉」

2005-12-23 21:33:00 | 和歌
 
 「うつろ庵」の庭の片隅には、庭木には不釣合いの檜の大木がある。建売住宅として売り出されたこの街並みでは、殆どの植木は建屋の高さの半分にも満たないが、この檜はずば抜けて高いので、街のシンボルツリーにもなっている。

 海岸に近い住宅街は、時によると激しい烈風が吹き荒れることがあって、何軒かのお宅では植木が風を受けて倒れた。この背丈の高い檜は、二階家の屋根を凌ぐので、枝を切り詰め、極力風通しを良くするのが、風神の怒りを被らない精一杯の対策で、この剪定は至難の業である。安全帯を身に付け、落下防止に万全の備えをして檜の頂までよじ登り、二年に一度は枝払いをし、風に対する抵抗を減らす作業は、将に命がけである。枝が密であった頃は、鳥も寄り付かなかったが、枝ぶりにゆとりが出来たら、何時しか鳥たちの憩いの樹になって、沢山の鳥たちが羽を休めにやってくるようになった。



 



             鳥たちの憩いの檜の枝なれば

             蔦は土産か何時しか生え来て


             むくつけき檜の幹に絡みつき

             彩り添える蔦のもみじ葉



             土産とて置きたる蔦にはあらねども

             いずこを旅する鳥のもみじ葉





「ルージュで装う」

2005-12-23 21:30:33 | 和歌

 「うつろ庵」の庭の片隅に、金木犀がかなりの大きさになったが、この金木犀と檜の大木に挟まれて、「千両」が何時の間にか赤い実をつけていた。これだけ鮮やかな実をつけているからには、然るべき花がさいたであろうに・・・。迂闊にも虚庵居士は、自宅の庭に植えてある千両の花を、これまで見たことがない。

 虚庵夫人は、大胆にも千両の枝をバッサリと切って、窓際の低いカウンターに豪華に飾った。深緋色の焼物の花器と千両の葉が程好く呼応して、レースのカーテン越しの陽に浮き出す千両の姿は、気品が漂っている。



 



             鮮やかな赤丹の小粒を頂くは

             萌黄に緑の千両葉を寄せ



             大木の檜の陰で「千両」は

             赤丹で装い出番を待ちおり



             千両は細身のモデルか切れ長の

             葉のコレクションとルージュで装い