「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「退院のご挨拶」

2016-10-16 11:31:13 | 和歌

入退院が重なり、入院病棟の医師や看護師の皆さんとは、いつの間にか気心が通じあえる様になった。本来は入院・加療は最低限であるべきで、したがって医療関係者と仲良しになる様では困るのだが・・・。

退院のご挨拶にチョッとだけ顔を出したら、思わぬ反応に愕いた。


退院のご挨拶は、入院棟ナースセンタのみならず、帰宅の後にも控えていたとは・・・。


           顔出せば看護師・医師らは話やめ

           近くに寄り来て握手を求めぬ


           高熱に堪えたは爺の闘志なりと

           握る力を強める医師かな


           ハイタッチ 若き笑顔の看護師らに

           見送られれば 足取りも軽し


           病院の闘い終えて帰宅して

           明るく「ただいま!」 空元気? かな?


           玄関に立てば庭木の数々は

           「お帰りなさい」のご挨拶かな


           この後の庭木との付き合い如何にせむ

           病を抱えるご老体なれば
 
                             





「枝柿の差し入れ」

2016-10-14 12:51:51 | 和歌

近くの友人が、ご自宅の柿の木になった枝柿を差し入れて下さった。
其のまま大型の花瓶に投げ入れて飾りたかったが、枝が短いのが残念だった。


やがて甘みも増して口に含めば、柿独特の味覚が楽しめるに違いあるまい。そんな思いと共に、「味覚」を忘れむとする自分の環境を、ベッドの中で詠んだ歌が思い出された・・・。


           二ヶ月余 食事を絶たれる日々なれば

           失わむとする味覚に焦がれつ


           我妹子(わぎもこ)が 絞る果汁の一口に

           自然を満喫 妹子の味覚も


           味噌汁やスープのお澄ましごくわずか

           口に含めば 生きた心地す


           キンピラのごぼう一筋 口に入れ

           噛みしだくかな 心ゆくまで


           噛みしだき舌に残したキンピラの

           ごぼうはいとしき ティッシュに捨てるは
 
                             




「散り敷いた金木犀」

2016-10-11 23:39:02 | 和歌

自宅の庭に咲いた金木犀の花と香りを楽しむ間もなく、突如として高熱に襲われて短期の入退院を繰り返した。金木犀の花はあっという間に散って、「入院中のお愉しみに」と、慣れぬカメラで写した写真を家内が差し入れして呉れた。


ベッドの中で、高熱に襲われたあの有様を思い出して詠んだ短歌と、長歌をご紹介する。苦しむ己の姿をご紹介するのは何とも哀れだが、これも闘病記の一頁。何れ明るい歌の詠める日を夢みつつ・・・。


             何気なく寒気がするのを気にしつつ

             不安がつのりぬ 体が震えて


             寒気増し体がガタガタうち震え

             奥歯を噛めばガチガチ鳴るかな


             布団被り体を丸めて堪えども

             体躯の芯から激しく震えぬ


             我妹子(わぎもこ)は氷タオルを頻繁に

             取り換え重ねつ 背中を撫ぜつつ


             検温を重ねる度に体温は

             うなぎ登りに 四十度に到りぬ


             何時やらに体の震え収まりて

             心地よきかな 氷タオルは



             緊急の

             数多の検査・診断で

             抗癌剤の副作用

             白血球の激減が

             抗菌力を低下させ

             肺炎併発 高熱は

             吾が身が闘う 証なれ

             緊急措置の皮下注射

             各種の点滴重ねつつ

               深夜に入院

                ベッドに臥せにし


             付き添いの我妹子ほっと息をつき

             個室を離れぬひとり静かに
 
                             




「生垣の血赤珊瑚」

2016-10-09 16:00:33 | 和歌

胃の全摘出など開腹手術の予後では、腸閉塞を併発するケースが多いようだが、虚庵居士もご多聞に漏れずに体験してしまった。

入院中に詠んだ戯歌「断崖絶壁のジャングルと空を舞うトンビ君」を掲載してから、あっという間に一ヶ月余が経過した。自宅の珊瑚樹の生垣には実房が、主の退院を待ち侘びていたかのような風情で、見事な血赤珊瑚ぶりを誇っていた。



 しかしながら、この一ヶ月の間にあろうことか虚庵居士は、体力の衰えと共に抗菌力が減退して肺炎を併発し、短期の入退院を二回も繰り返してしまった。こんな虚庵居士にあきれ果てたのであろうか、血赤珊瑚は瞬く間に変身し、枝には新芽を伸ばして何時もの逞しさを発揮し始めた。


             入退院 繰り返す間に生垣の

             実房は真似るや主の姿を


             生垣の血赤珊瑚は黒ずみて

             あわれ萎びる実房を惜しみぬ


             惜しみつつ姿を変えにし実房をば

             袋に収めぬ妹子に頼みて 


             留守すれば珊瑚樹の生垣 枝のびて            

             主の手入れを待ちにけらしも 
 
                             




「断崖絶壁のジャングルと空を舞うトンビ君」 その3

2016-09-10 12:13:02 | 和歌

苦闘の続く中で、断崖絶壁のジャングルとトンビ君に慰められつつ詠んだ、
長歌と反歌の「続き・完結編」です。

「断崖絶壁のジャングルと空を舞うトンビ君」をスケッチしたが、所詮は素人の悲しさ、「断崖絶壁」の景色も「ジャングル」らしさも写し取れなかった。しかしながら、看護師さんにコピー用紙を頂戴し鉛筆でスケッチする間は、不思議にもお腹の痛みも感じられなかった。夢中になることで、痛みも気にならなかったということであろうか? 

一ヶ月に亙る入院治療でお世話になった皆さんへの「ささやかなお礼」に、戯歌とスケッチをセットにして、看護師長さん経由で関係者の皆さんへコピーをお配り頂いた。ここに掲載するスケッチは、退院後に記憶を頼りに水彩で色を添えてみた。


翌日になって、看護師さんの一人がベッドの横に膝をつき、横たわった侭の虚庵居士の手を握りながらお礼の言葉を頂いた。「医療看護に当たる私たちにとって最も大切なのは、患者さんの苦しみや悩みを理解し、寄り添い、少しでもお力になりたいと念じて毎日を努めております。

「ジャングルとトンビ君のお歌を読ませて頂き、涙が止まりませんでした。お心の内側を赤裸々にお示しいただき、私たちにとって極めて大切な
ことを改めて訓えて頂きました。有難うございました・・・。」 看護師さんの純真な心に打たれて、虚庵居士の目もいつしか潤んでいた。





「断崖絶壁のジャングルと空を舞うトンビ君」 その1

2016-09-01 18:43:44 | 和歌

ブログを再開したものの、再び長いお休みをしてしまった。今回も同じ轍を踏みかねないが、予めご容赦願いたい。入院中に外出許可を頂き、若干の時間的余裕が持てたので、取り急ぎ現状報告を兼ねて掲載を再開する。 

喜寿を迎えた虚庵居士だが、あろうことか今年になって三回もの入院が重なった。「七夕に譜す」の冒頭でご紹介したが、胃の全摘出手術を正月に受け、食事の痞えにより6月下旬に入院し、7月半に退院した後は高カロリー輸液の点滴が24時間欠かせぬ状態になった。

平穏な半月ほど後には、腹部膨満が発生、腸閉塞との診断で再入院、閉塞部をバイパスする手術を受けた。
毎日が、痛みと痞えに悶々とした闘いであるが、唯一の救いは、窓際のベッドに臥したまま、終日眼に入る天然の緑と、空高く舞ふトンビ君達が慰めだ。

心の癒しになった「断崖絶壁のジャングルと空を舞うトンビ君」だが、来る日も来る日も眺めるうちに、何時しか好き勝手な空想が生まれたので、お遊びの長歌と反歌を読んだ。ご笑覧頂きたい。





「あっぱれカラス君」 (5)

2016-07-29 00:53:12 | 和歌

退院の日程が決まり、自宅での療養生活を支援して下さる皆さんが集まって、「退院カンファレンス」が開催された。
通常の退院と異なるのは、食事に代えて、点滴が24時間連続で自宅でも続くことだ。輸液パックは毎日2回交換し、点滴注射針と点滴チューブは毎週定期的に交換する必要があるので、明確な支援体制と緊密な連携が求められるのだ。

点滴の継続と共に、抗がん剤投与も外来にて継続されるので、主治医・入院病棟の専任看護師・訪問看護のケアマネージャ・訪問看護師及び退院支援看護師の皆さんと、虚庵夫妻を合わせて9名が出席して、きめ細かな支援計画と支援体制が確認された。更に、本人及び家族による点滴パック交換の訓練も、併せて開始された。

リハビリの専任トレーナに付き添われて、歩行訓練も毎日継続すると共に、自由時間を使って院内散歩が推奨された。入院棟の10階まで遠征して、東京湾に浮かぶ猿島をカメラに収めたのが、この写真だ。

これまでは自室の窓からの景色を眺める丈だったが、カラス君達とお友達になって、虚庵居士の入院生活は明るさを取り戻した。虚庵居士の退院の後も、願わくば一人でも多くの患者さんたちを、カラス君達が励ましてやって欲しいものだ。


             人の世の

             諸々(もろもろ)のこと 如何に見む

             EU離脱の 投票に

             戸惑う国々 南海の

             浅瀬を埋める 中国や

             知事の乱行 大統領

             候補の発言 何ならむ

             愚かなことよ 人間は

               地上の尊厳

                 負うにあらずや


             空を飛び

             地上を馳せる カラスかな

             声はり上げて 歌うたい

             心の奥底 察知して

             時には茶目っ気 たっぷりに

             朋(とも)と遊ぶや 群なして

             或いは厭わぬ 激闘も

             全てに一心 不乱なり

               お見事あっぱれ

                 カラスの君はも


             於 横須賀共済病院
             A棟四階より市街を眺めつつ 
                 虚庵居士 戯詠 
 
                             




「あっぱれカラス君」 (4)

2016-07-28 00:06:47 | 和歌

病室の窓から観る街並みは、朝夕の変化はあるものの10日を超えて入院が続くと、来る日も来る日も変わり映えの無い景色に色褪せる。

そんな事情をカラス君が察したとはとても思えないが、窓越しの突然のお見舞には胸にトキメキを覚えた。


カラス君との思いもかけぬ交歓があった後は、ありふれた街並みの景色が一変した。カラス君達が自由闊達に飛び交う街並みを、何時しか彼等の視線で眺め、彼等と一緒に楽しめる街並みに変化したのだった。


             ひと時の

             思いもかけぬ 交歓に

             しびれる心を 如何にせむ

             飛び立つ君に 舞い添うは

             夫婦(めおと)ならむか 和やかで

             雄叫び挙げる カラスとは

             余りに違う 気色かな

             窓越しなれども じじ見舞う

               カラスの君の

                 天与の才かな


             街に棲み

             ごみを漁るも 争うも

             たつぎの為と 達観し

             見下すトンビの 尊大な

             姿勢は彼等の 矜持(きょうじ)をば

             傷つけるらし 敢然と

             闘う様(さま)は すがすがし

             カラスの生きざま 哲学は

               彼等が築いた

                 カラスの城かな
 
                             ( つづく ) 




「あっぱれカラス君」 (3)

2016-07-26 11:02:24 | 和歌

ビルの屋上に建つ電波塔を眺めていたら、何匹かのカラス君達がこの電波塔に向かって飛び、高い電波塔から舞い下りる姿が目に映った。
カラス君達でなくば出来ない、雄大なお遊だ。巨大な電波塔をお遊びの場として楽しむ彼らには、脱帽だ。

電波塔からずっと下に目を移すと、カラス達がわが物顔で街並みを激しく飛び交っていた。ごみを漁り、餌を奪い合っているのだろうか。

そんな彼らに目を奪われていたが、ふと気が付くと、一匹のカラス君が病室の窓近くの手すりに、ひょいと飛んで来て止った。



最初は虚庵じじからかなり離れた場所だったが、ピョンピョンと身軽に跳んで来て、虚庵じじの顔をそっとのぞき込むカラス君であった。


             天かける

             羽根と喙(くちばし) 足の爪

             ただそれ丈を 武器として

             闘う姿は 雄々しけれ

             眼(まなこ)は鋭く 敵味方

             識別たがはず 間をおかず

             番(つがい)の子育て 如何ならむ      

             見まほしきかな いそしむを    

               人目にさらさぬ

                 まことの姿を


             いつもなら

             羽ばたき激しき 君なれど

             窓辺に飛び来て 静かにも

             小首をかしげて のぞくかな

             開く喙(くちばし) お話しを 

             せむと願うや その仕種(しぐさ)

             じじは瞬(まばた)き コンニチワ

             思いを込めての 挨拶に

               咽(のど)を鳴らして

                 応える君かな
 
                             ( つづく ) 




「あっぱれカラス君」 (2)

2016-07-24 13:57:17 | 和歌

点滴に繋がれた虚庵居士は、頻繁に尿意をもよおすので、深夜・早暁を問わず目覚めるのが習慣になった。


カーテンの仄かな明かりに誘われて窓を覗けば、高層マンションは朝もやに抱かれたまま安らかに眠っている気配だったが、街並には既に多くのカラス君達が活発に飛び回っていた。

病室に閉じ込められ身動きならぬ身には、そんなカラス君達の早暁の活動が羨ましく、眩しくすら見えるのだった。


             夕陽さす

             ビルの山々 谷抜けて     

             カラスも家路を 急ぐらし

             幼き頃の あの歌を

             思わずしらず 口ずさむ

             「オテテツナイデ カエリマショ

             カラストイッショニ カエリマショ」      

             点滴つながる 身にしあれば    

               如何にや帰らむ 

                 妻待つ我が家へ


             泣き伏すに

             あらねど睡気(ねむけ)の なすがまま

             まどろむ翁は 点滴の

             なせる小水 度(たび)重ね

             眼(まなこ)をこすり のぞく窓

             まだ明けやらぬ 街並みに

             飛び交う数多(あまた)の カラスかな 

             杜のねぐらを 夙に出て

               はげむ姿に

                 訓えを得るかも
 
                             ( つづく ) 




「あっぱれカラス君」 (1) 

2016-07-22 13:37:48 | 和歌
 
  冬眠中だった間の皆様のご来訪と、多くの閲覧に感謝します。
  正月以来のご来訪者は11,000人を超え、50,000頁余を閲覧頂き、
  冬眠中にも拘わらず、皆様の斯くも篤いご支援に感激しました。
                          虚庵居士 拝 


  先に掲載した長歌「七夕に譜す」は、立体短冊にして七夕飾りに吊したが、看護師さんや医師の皆様からのご要望もあって、お世話になった方々にコピーを差し上げて喜んで頂いた。

入院以来、窓からの街並みを眺めていたら、市街地にも拘わらず多くのカラス達の姿が目に入った。何時しか彼らの活発な姿に親しみを覚え、彼らを目で追う自分に気が付いた。


そんなある日、窓辺に一羽のカラスが飛んできた。小首を傾けたカラス君は、虚庵じじを見舞うかの様な眼差しだった。
街並みの景色、カラス君達との交流、或いは彼らへの憬れ(?)を戯れに詠んで書き留めた。10編の長歌を5回に分けてご紹介する。


             病院の

             ベットに臥して 悶々と     

             思いを廻らす 日々なれど     

             がんの治療の その予後の

             あまたの闘い 相共(あいとも)に

             援け給ふぞ 我妹子(わぎもこ)は

             あがらふ言葉の ひと言も      

             無くて尽くすに この輩(やから)     

               如何にや応えむ 

                 萎びた腹(おなか)で


             カーテンの

             帳(とばり)を開きぬ 閉ざされた

             心にそよ風 受けまほしく

             ビルのかなたの 山の端に

             懸かる群雲 鮮やかに

             夕陽を受けて 映えるかも

             情けも心も 無き雲が 

             落ち行く夕陽の 名残とて

               斯くも見事に

                 応えて映えるに
 
                             ( つづく ) 




「七夕に譜す」

2016-07-20 00:21:38 | 和歌

   「冬眠」が思わず長引いて、やっと穴倉から這い出しました。
  長い冬眠で、皆様にはご心配をお掛けして済みませんでした。
  戸惑いと朦朧が伴いスローペースですが、ブログを再開します。
  どうぞご支援を、よろしくお願い申し上げます。
                    7月20日    虚庵居士拝 


皆さま、暑さにも負けず元気にお過ごしのことと存じます。

昨年末から体調が優れませんでしたが、正月早々に胃の全摘出手術を受け、予後の療養を続けて参りました。ところが食事の閊えが再発、6月末に入院し7月14日に退院しましたが、食事は低残渣流動食に切替り、栄養補給としては高カロリー輸液の点滴を続けて居ります。
また、抗がん剤投与が本日再開し、今後継続する予定です。

斯様な次第にて、学会など対外活動の要職は辞任させて頂きましたが、ボランティア活動やゴルフ等もお預けです。自宅近くの海岸の、椰子並木プロムナードのミニ散歩を楽しみつつ、気長にがんとの闘いを続ける心算でおります。 ブログ「虚庵居士のお遊び」再開に際し、これまでの冬眠のお詫びかたがた、近況をお知らせしました。
猛暑の季節を迎える折から、皆様のご自愛を念じ上げます。

入院中に詠みました長歌を、ベッドの上で半紙に書き留め立体短冊に仕立て、病棟の七夕飾りに吊しましたので、ご紹介します。

 
             ただ独り                

             病院に臥し あれやこれ     

             想いを廻らす 日々なれど     

             千々に乱れる 心かな       

             眼をつむれば いつしかに

             奈落の底に まどろみぬ        

             双手を伸ばして 何探す      

             救いを求めて すがらむと     

               もがく姿は 

                 哀れなるかな 


             気がつけば

             仄かな明かりに 誘(いざ)なわれ

             窓辺に寄れば 明けやらぬ

             街並みいまだ 眠るらし

             ビルの頂き 包み込む 

             朝もや我をも 抱(いだ)かむか

             おぼろなもやは 朝日受けて 

             街をも我をも 現世(うつつよ)に

               誘(いざ)ない給ふや

                 元気になれよと 
 

             七夕の

             竹の飾りは 雅(みやび)なれ

             そえる詞(ことば)は 「願をば

             お書きなされ」 と 促して

             その気配りに 心しびれ

             誘(さそ)いに応えて 短冊に

             拙き歌の 二つ三つ

             詠みて吊しぬ 恥しのび

               わらにもすがる

                 思いをこめて 





「春酒介壽」

2016-07-15 10:52:59 | 和歌

  「冬眠」明けが近くなりなりました。
  眠い目をこすり乍ら、穴倉から外に出る準備中です。
                           5月1日 虚庵居士。




 
                山づとの

                葡萄をわれが醸さむと

                甕に仕込めば朋猿は

                抱きてやまずも その甕を

                共に酌まむか初春に

                  春日を浴びつつ 心ゆくまで


                  平成丙申 歳旦   虚庵居士

 


  お断り:
  虚庵居士は朋猿と共に、雪山にて春日を浴びつつ、甕の葡萄酒を
  酌み交わすつもりでしたが、事情合って二・三週間ほど「冬籠り」し、
  「虚庵居士のお遊び」もその間、お休みさせて頂きます。
  「冬籠り」からの復帰後は、変わらぬご愛読をお願い申し上げます。



「庭木・街路樹の実 - もちの木」

2015-12-30 01:02:26 | 和歌

 「うつろ庵」の近くには、桜や銀杏・欅などの大木が沢山植えられた公園があって、子供達も住民も四季それぞれの風情を堪能している。公園脇の道路の両側の歩道には、「もちの木」の粋な並木が連なり、この季節には赤い実が住民のご自慢だ。



 小粒の赤い実は、小鳥たちの恰好なご馳走だが、皮肉なことに「もちの木」の樹皮が、鳥を捉える「鳥黐(とりもち)」の原料だと知ったのはこの頃だ。ゴム状の「鳥黐」は粘着力が強力で、かつては野山の小鳥を捕えるのによく使われたものだ。

 最近では野鳥保護の観点から、古来からの「鳥黐」も、近代的なカスミ網も使用禁止だと聞き及んでいるが、虚庵居士の子供の頃の原始的なお遊びが、懐かしく想い出される。

 「とりもち」を塗った竹竿を手に持ち、トンボやセミなどが簡単に捕れた。
時には近くの雀を狙って、息をころして棹先をそっと近づけるのだが・・・。 間一髪のところで、「パッ」と雀に逃げられるのが常だった。子供の頃のことゆえ、「もちの木」の存在そのものも、「とりもち」は「もちの木」の樹皮から造ること等も、知らなかったのは云うまでもないことだが。

 粋な「もちの木」の赤い実のご紹介が、「とりもち」のご紹介になり、遠い昔の子供のお遊びの話に切り替わったが、「遊びをせんとや生れけむ」とは、子供の頃から変わらぬ虚庵じじの姿そのものである。


               お散歩の初めは何時ものゴアイサツ

               「もちの並木」の紅の実に


               植木屋の大胆極まる剪定に

               赤い実房は 諦めにしが


               逞しき「もちの並木」ぞ枝葉伸ばし

               たわわの実房で期待に応えぬ


               紅の実は小鳥たちのおゴチソウよ            

               やがて賑やかな並木にならむか    


               竹竿に「鳥もち」塗ってのお遊びを

               懐かしむかな「もちの木」見上げて


               鳥達が好んで啄ばむ「もちの木」ゆ

               小鳥を捕える「鳥もち」造るとは