「うつろ庵」の「擬宝珠・ぎぼうし」が咲いた。
植木の根方に鉢を置いていたので、日光が不足気味だったのだろう、気の毒にも花付が悪かったようだ。
元来が林の中など、木陰でも生き生きと成長する野草だから、それをよいことに庭の隅に冷遇してあった。莟が色付いたので、急遽表舞台にご登場願った次第だが、生き物は誠に正直で、花数が少なめなのは莟みを付けるまでの環境が左右するのであろう。
虚庵居士が育った田舎の生家には、湧水を湛えた大きな池があったが、池の端の水苔と共に、大葉ぎぼうしの一種であろう「コオレ」が植えられていた。
葡萄棚が池とその周辺を覆っていたが、存分な水を吸ってコオレの成長は早かった。若葉を摘み取って、お浸しや味噌汁に入れて、よく食べたものだった。爽やかな緑葉の味が忘れられない。
擬宝珠は野生種も含めると、三十余種もの種類があると云う。 食用の
「コオレ」と花を楽しむ園芸種とは別物かもしれない。 或いはコオレは信州・
諏訪の山菜の呼び名かもしれない。
霧雨の晴れ間の庭に降り立てば
ぎぼうし咲きぬしずくを湛えて
鴇色を帯びし莟のぎぼうしが
化粧を凝らすやしろたえに咲くかな
幼き日池の端にて母さまと
コオレを摘みにし昔を思ほゆ
お浸しや味噌汁に浮かぶコオレかな
あの味懐かし 緑の色をも