熊谷 達也 著 「漂泊の牙」を読みました。
雪深い東北の山奥で、主婦が野犬とおぼしき野獣に喰い殺されるという凄惨な事件が起きた。
現場付近では、絶滅したはずのオオカミを目撃したという噂が流れる。
果たして「犯人」は生きのびたニホンオオカミなのか?
やがて、次次と血に飢えた謎の獣による犠牲者が…。
愛妻を殺された動物学者・城島の必死の追跡が始まる。
熊谷達也の作品を読むのは「邂逅の森」、「まほろばの疾風(かぜ)」、「ウエンカムイの爪」に続いて4作目。
熊谷達也作品にはずれなし!
本作も、日本では絶滅したといわれるオオカミの不思議を縦軸に、山と動物とそれにたずさわる人間達との濃厚なドラマが描かれています。
冒険小説の要素、ミステリーの要素もふんだんに盛り込まれ、動物文学としても面白い。
さらに民俗学的な視点では、「サンカ」と呼ばれた山の民についても触れられていています。
単なる冒険物にとどまらずに、登場人物の生い立ちや背景などをうまく絡め、謎解きも含みつつテンポよく進むストーリー。
調整のとれたサスペンス仕立ての作品です。
第19回新田次郎文学賞 受賞。