元伊藤忠商事の会長職にあって、中国大使も務められた丹羽宇一郎氏が、日経新聞に毎水曜日にブログを書いておられるが、今回はやはりイスラム国の人質問題を取り上げておられる。
丹羽氏は非常に静かな口調で、日本の社会がこの事件をきっかけにして、イスラム社会に対して誤った認識を持たないように懸念されている。
丹羽氏の商社時代は、中東には商売の関係で多くの知人がおられた。それだけにイスラムの世界にも深い知識を蓄えられている。
日本は欧米諸国とは異なり、キリスト教の影響も少なく、ましてやイスラム教は本当にかかわる関係が少ない宗教であった為、宗教的な利害関係もなく、イスラム諸国の人々も石油を大量に買ってくれるお客として、日本を好意的にみる人たちが多かった。
また家電製品や自動車などの優れた製品を生産する国としても、敬意を持って見られていたと思う。
フランスの風刺マンガ週刊誌のあり方にも、さすがに丹羽氏はフランス革命で自由を勝ち取った国だからこその風刺であり、日本の生まれ育ちからすると、あの風刺画のコピーを単純に取り上げなかった、国内メディアが少なかった事にも、その見識を評価しておられます。
安倍政権が集団的自衛権を始め、次々と戦争状態を前提にした国を目指す事で、「平和国家・日本」のイメージはだいぶ変わってきている現実も懸念されている。
どちらにしても日本の歴史は当然であるが、世界の歴史も各人がそれなりに深く勉強し、知識を蓄える必要があると、筆者も思っている次第だ。、
(日本経済新聞 電子版より貼り付け)
宗教によって割れる世界 日本の立ち位置
丹羽宇一郎氏の経営者ブログ
2015/1/28
フランスの風刺週刊紙「シャルリエブド」へのアルカイダ系組織のテロ、いわゆる「イスラム国」によるとみられる日本人の拘束と、イスラム過激派が相次ぎ世界を震撼(しんかん)させる事件を起こしました。このような極端なテロに走る過激派は、イスラムの中でも一部にすぎないのですが、世界はイスラム対反イスラムという単純な構図に引き込まれそうな危険性を覚えます。
2邦人を拘束したイスラム国のビデオ声明は、「日本の立ち位置」の変化を感じさせるものでした。「日本はイスラム国から8500キロも離れていながら進んで十字軍に参加した」――。冒頭で彼らはこう指摘しました。日本はイスラム国との戦いに2億ドルを支払う決定をしたのだから、2人の日本人の命を救うのには同額かかるとして72時間以内に2億ドルを支払うよう要求。さらには日本政府が要求通りに実行しなかったとして、拘束された邦人の一人を殺害したとみられる画像をインターネット上に公開しました。同胞を助けられなかったことは痛恨の極みです。
商社時代にイスラム圏の人々と話をする機会は多々ありました。日本のことを全く知らないという人もいましたが、「英米と血みどろの戦いをした国」と認識し、日本に一目置く人も少なくありませんでした。日本には、イスラム教への偏見があまりないことも、比較的親近感を持たれる理由なのかもしれません。イスラムの世界から見れば明らかな欧米陣営ではなかった日本は、イスラムにもキリスト教にも宗教的には等距離という独特のポジションを確保し、外交上のメリットもありました。
しかし、イスラム国の2邦人拘束・殺害によって、この立ち位置が揺さぶられています。イスラム対反イスラムの単純な図式の中に、日本が組み込まれてしまうかどうかのターニングポイントに立たされているのではないかと思います。そもそも、自衛隊の海外派遣、集団的自衛権の行使などで、海外から見ると「平和国家・日本」のイメージはだいぶ変わってきています。
このような局面で、私は日本人の感性を大事にすべきだと考えます。例えば、イスラム教に対する風刺画問題について、日本のメディアはイスラム教徒の感情に配慮して、掲載しないケースが多く見られ、欧米のメディアとは異なる対応をしました。特にフランスは18世紀のフランス革命で獲得した「自由」が信教からの自由という意味合いもあるので、キリスト教であろうと、イスラム教であろうと例外なく風刺するとされています。
フランスの風刺にはこのような歴史や伝統に裏打ちされた一面があり、それはまさにフランス独特の文化といえますが、日本にはそのような文化はありません。宗教を俎上(そじょう)にのせることで、相手を傷つけるようなことはやめようと慮(おもんぱか)るのが多くの日本人の感性ではないかと思います。
日本は石油や天然ガスで中東とのビジネス上の関係は深く、イスラム世界に対して欧米とは異なるアプローチがとれる可能性があるのですが、問題は中東にどれだけ日本独自の人脈を構築できているかです。言い方をかえると、中東世界に知日派をどれだけ育てているか。今回のような人質をとられる事件では、日本のことをよく知っているイスラム系の人物を仲介に立てないと、過激派との交渉は難しいものになるでしょう。
対米、対中関係で、知日派のパイプが先細っていることは過去にも何度か指摘したことがあります。イスラムとの関係についても、長い目で日本独自の人脈づくりに取り組む必要があります。
(貼り付け終わり
丹羽氏は非常に静かな口調で、日本の社会がこの事件をきっかけにして、イスラム社会に対して誤った認識を持たないように懸念されている。
丹羽氏の商社時代は、中東には商売の関係で多くの知人がおられた。それだけにイスラムの世界にも深い知識を蓄えられている。
日本は欧米諸国とは異なり、キリスト教の影響も少なく、ましてやイスラム教は本当にかかわる関係が少ない宗教であった為、宗教的な利害関係もなく、イスラム諸国の人々も石油を大量に買ってくれるお客として、日本を好意的にみる人たちが多かった。
また家電製品や自動車などの優れた製品を生産する国としても、敬意を持って見られていたと思う。
フランスの風刺マンガ週刊誌のあり方にも、さすがに丹羽氏はフランス革命で自由を勝ち取った国だからこその風刺であり、日本の生まれ育ちからすると、あの風刺画のコピーを単純に取り上げなかった、国内メディアが少なかった事にも、その見識を評価しておられます。
安倍政権が集団的自衛権を始め、次々と戦争状態を前提にした国を目指す事で、「平和国家・日本」のイメージはだいぶ変わってきている現実も懸念されている。
どちらにしても日本の歴史は当然であるが、世界の歴史も各人がそれなりに深く勉強し、知識を蓄える必要があると、筆者も思っている次第だ。、
(日本経済新聞 電子版より貼り付け)
宗教によって割れる世界 日本の立ち位置
丹羽宇一郎氏の経営者ブログ
2015/1/28
フランスの風刺週刊紙「シャルリエブド」へのアルカイダ系組織のテロ、いわゆる「イスラム国」によるとみられる日本人の拘束と、イスラム過激派が相次ぎ世界を震撼(しんかん)させる事件を起こしました。このような極端なテロに走る過激派は、イスラムの中でも一部にすぎないのですが、世界はイスラム対反イスラムという単純な構図に引き込まれそうな危険性を覚えます。
2邦人を拘束したイスラム国のビデオ声明は、「日本の立ち位置」の変化を感じさせるものでした。「日本はイスラム国から8500キロも離れていながら進んで十字軍に参加した」――。冒頭で彼らはこう指摘しました。日本はイスラム国との戦いに2億ドルを支払う決定をしたのだから、2人の日本人の命を救うのには同額かかるとして72時間以内に2億ドルを支払うよう要求。さらには日本政府が要求通りに実行しなかったとして、拘束された邦人の一人を殺害したとみられる画像をインターネット上に公開しました。同胞を助けられなかったことは痛恨の極みです。
商社時代にイスラム圏の人々と話をする機会は多々ありました。日本のことを全く知らないという人もいましたが、「英米と血みどろの戦いをした国」と認識し、日本に一目置く人も少なくありませんでした。日本には、イスラム教への偏見があまりないことも、比較的親近感を持たれる理由なのかもしれません。イスラムの世界から見れば明らかな欧米陣営ではなかった日本は、イスラムにもキリスト教にも宗教的には等距離という独特のポジションを確保し、外交上のメリットもありました。
しかし、イスラム国の2邦人拘束・殺害によって、この立ち位置が揺さぶられています。イスラム対反イスラムの単純な図式の中に、日本が組み込まれてしまうかどうかのターニングポイントに立たされているのではないかと思います。そもそも、自衛隊の海外派遣、集団的自衛権の行使などで、海外から見ると「平和国家・日本」のイメージはだいぶ変わってきています。
このような局面で、私は日本人の感性を大事にすべきだと考えます。例えば、イスラム教に対する風刺画問題について、日本のメディアはイスラム教徒の感情に配慮して、掲載しないケースが多く見られ、欧米のメディアとは異なる対応をしました。特にフランスは18世紀のフランス革命で獲得した「自由」が信教からの自由という意味合いもあるので、キリスト教であろうと、イスラム教であろうと例外なく風刺するとされています。
フランスの風刺にはこのような歴史や伝統に裏打ちされた一面があり、それはまさにフランス独特の文化といえますが、日本にはそのような文化はありません。宗教を俎上(そじょう)にのせることで、相手を傷つけるようなことはやめようと慮(おもんぱか)るのが多くの日本人の感性ではないかと思います。
日本は石油や天然ガスで中東とのビジネス上の関係は深く、イスラム世界に対して欧米とは異なるアプローチがとれる可能性があるのですが、問題は中東にどれだけ日本独自の人脈を構築できているかです。言い方をかえると、中東世界に知日派をどれだけ育てているか。今回のような人質をとられる事件では、日本のことをよく知っているイスラム系の人物を仲介に立てないと、過激派との交渉は難しいものになるでしょう。
対米、対中関係で、知日派のパイプが先細っていることは過去にも何度か指摘したことがあります。イスラムとの関係についても、長い目で日本独自の人脈づくりに取り組む必要があります。
(貼り付け終わり