原油価格の下落に起因する世界経済の不安要素に加えて、ギリシャの財政破たん懸念もユーロ経済の混乱に拍車をかけている。
山田厚史氏のコラム「世界経済、今年の波乱は欧州から。 ギリシャ、ロシアを皮切りに危機が始まる」はユーロ、ロシアなどの危機状況を、わかりやすく解説してくれている。
欧州諸国が個々の経済力や政治財政状況に大きな差異がありながら、ユーロという通貨まで統合したことに、余りにも理想を追及しすぎたのではないかと、筆者も思っていた。
もともとドイツ・ベネルクス3国等の財政健全な北欧諸国に比べ、南欧のポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインなど若者の失業と格差の拡大、権力者や富裕層の脱税や腐敗がはびこっており、民衆の政府に対する不満も多く不安定な経済が続いていた。
結果として最近はギリシャ、スペイン等で、民衆の不満を集約した左派勢力が勢力を拡大し、現政権の弱体化が進んでしまっている。
そこに追い打ちをかけるのが、国際的な原油価格の下落だ。欧州にエネルギーを供給して財政が潤っていたロシアだが、原油や天然ガスの大幅な価格下落で国家的な収入が大幅に減少してしまった。
米国は欧州やロシアに比較すると、経済力は優勢であるといえるであろうが、シェールオイルが抱える金融不安や、国家財政の緊縮のための米軍配置の縮小などで、テロとの戦いの負担増も予断を許さない。
どう見ても2015年の世界情勢は安定しているとはとても見えない。
(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)
世界経済、今年の波乱は欧州から
ギリシャ、ロシアを皮切りに危機が始まる
山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
2015年1月15日
イスラム過激派による新聞社襲撃は、世界屈指の文化都市パリも、殺戮(さつりく)と破壊に明け暮れる中東やアフリカと隣り合わせ、という現実を見せつけた。「表現の自由」は欧州の常識であっても、イスラムは「預言者を侮辱する自由」は許さない。イスラム国は、先進国が謳歌する近代社会の日陰に生まれた。世界秩序に牙をむく憎悪を力で抑え込むのは容易ではない。命を張った反乱は世界を一段と不安定へと向かわせるだろう。
今年は世界で何が起こるのか。米国、中国が抱える構造危機は、遠雷のような不気味さを秘めるが、目を離せないのが欧州だ。内なるギリシャと外からのロシア。世界を揺るがす懸案に事欠かず、ユーロ体制が動揺する年になりそうだ。
●国家による危ういチキンゲーム
不安の幕開けは1月25日のギリシャ総選挙だ。EUから求められた緊縮財政の是非が争点となっている。「EUの言いなりになるな」「債務の減額を」と主張する急進左翼連合「スィリザ」が第一党になる勢い、という。そうなったら「ちゃぶ台返し」である。EUにとって「身を切る改革」がギリシャ救済の条件だった。
独シュピーゲル誌は3日、「総選挙後にスィリザのツィプラス党首が政権を握り、緊縮財政を放棄し債務返済を拒否すれば、ギリシャのユーロ圏離脱は避けられないと独政府は判断している。メルケル首相、ショイブレ財務相はギリシャがユーロ圏を離脱する影響は限定的と認識するようになった」と伝えた。
タブロイド紙のビルトは7日、「ギリシャがユーロ圏を離脱した場合、預金者が殺到し銀行が破綻に追い込まれる可能性を警戒している。そうなったらEUの銀行同盟が巨額の金融支援をせざるを得ない」という政府関係者の見方を紹介した。ギリシャ国民にすれば、銀行から預金を引き出し、強い通貨ユーロを手元に置いておきたい。
ドイツ政府は公式的には「ギリシャがユーロに留まることを望む。離脱を前提とした検討はしていない」(政府報道官)というが、メルケル首相は、かねてから「ギリシャの加盟を認めたのは社会民主党政権の失敗」と批判的で、側近の政治家は「ギリシャが離脱しても影響は軽微だ」などと主張している。
ドイツの冷ややかな対応は「ギリシャの放漫財政のツケを我々の税金に回すな」という国民の声を背にしている。
離脱が現実に起こればEUの混乱は避けられない。ドイツの強硬姿勢は、欧州経済を人質にとって譲歩を引き出そうとするギリシャの急進左翼への牽制だろう。国家による危ういチキンゲームが年明けとともに始まった。
●貧困にあえぐギリシャ国民の怒り
ギリシャの財政粉飾は2009年の政権交代で露見した。赤字をごまかしてEUに加盟し、アテネ五輪で借金を増やした前政権の放漫財政を新政権が暴いた。国債は暴落、長期金利が跳ね上がり、外国から資金が途絶え、債務返済が行き詰まった。EU委員会が救済に動き国際通貨基金(IMF)と共同で2400億ユーロを融資することで国家の破たんは回避された。
ユーロ体制を守るためギリシャを破たんさせないというEUの結束が示されたが、救済と引き換えに、ギリシャ国民は財政支出の大幅カットと景気悪化を通じて窮乏生活を迫られた。増税、年金切り下げ、公務員削減、給与カット。消費は縮み、失業率は跳ね上がり、若者の二人に一人は職がない。
国民は怒っている。富裕層とつながる保守政権が勝手にやった国家粉飾の責め苦を、なぜ貧困にあえぐ国民が受けるのかと。
ギリシャは格差社会だ。2000ほどのファミリーが資産の80%を占め、脱税や汚職、コネによる利益誘導など日常化している。国民は耐乏生活を強いられるが富裕層は国外のタックスヘイブン(租税租界)に資産を移し痛痒はない。庶民の怒りをバネに伸びた進左翼は、エコロジストから共産主義者まで寄り合う。危機前は泡沫政党のように扱われていたが2012年の総選挙で第二党に躍進した。
この選挙ではEUと協調をはかる新民主主義党が第一党になり、かろうじて連立政権にこぎつけた。しかし昨年末、連立内閣は大統領の選出が出来ず、国会は12月31日に解散した。年が明けギリシャは騒然としている。急進左翼は「ギリシャの誇りを取り戻そう」「ユーロ離脱も辞さず」という強硬姿勢で、EUとりわけドイツとの対決を鮮明にしている。
ユーロから離脱し、かつての通貨であるドラクマに復帰しても問題は解決しない。ドラクマでは融資や投資が集まらない。債務返済が出来なくなるだろう。ギリシャ経済は立ち行かず、返済が止まれば債権を持つドイツやフランスの銀行が困る。
金融不安を逆手にとった債務削減交渉となれば、欧州経済は混乱するばかりだ。
●スペインでも「反緊縮財政」左翼が台頭
問題はギリシャだけでない。不安は連鎖する。前回ギリシャで危機が表面化した時「PIIGSが危ない」といわれた。ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインだ。債務問題と財政不安を抱え、どこも「痛みを伴う改革」を迫られた。
南欧は国家のガバナンスが緩く、脱税や腐敗がはびこる。犯罪組織が経済を浸食することも珍しくない。近年はアフリカからの不法移民の流入が激しく、失業と格差拡大が社会問題になっている。
堅実な経済運営を行う北欧・ドイツ・ベネルクス3国に比べラテン系の南欧は危うい。4年前はEU分裂がささやかれた。北が南を抱え込んでEUはやっていけるのか、という不安だった。絆はユーロでも、それぞれに国柄があり、世論が国政を決める。
「景気鈍化で欧州政治は負の循環に入った」といわれる。債務問題を抱える国は身を切る改革を迫られ、デフレが襲い、失業が広がり、緊縮政策が恨まれる。国民の多くは緊縮に耐えられず、政策の逆回転を望む。
選挙をすれば、財政の拡大や不人気政策の撤廃が勝利する。市場は混乱し、経済は不安定になる。政府は支持を失い、政治は混乱し、改革は遅れ、経済はますます混乱……。ギリシャで起こっていることだ。
総選挙で急進左派が第一党になっても、単独で政権を取ることは容易でない。「ユーロ離脱」の政権が出来るかどうかは未知数だが、経済再生路線にブレーキが掛かることは避けられまい。
欧州の金融界は、リーマンショックからいまだ抜け出していない。債務削減にしろユーロ離脱にしろ、脆弱な金融市場は新たなギリシャショックに見舞われるだろう。
スペインでも今年は選挙がある。新左翼が第一党になる、といわれている。2011年から始まった緊縮財政に国民から怨嗟の声が上がっている。ギリシャで躍進した急進左翼連合に倣い、昨年1月「反緊縮財政」を掲げる勢力「ポデモス」が誕生。ネットを中心に若者が結集し、昨年5月の欧州議会選挙で第4の勢力になった。
スペインは保守の人民党と社会労働党による二大政党制になっているが、ポデモスは「二大政党は特権階層を形成し、政治から市民を排除している」と批判。「政治を市民の手に」と訴え、無力感に陥っていた有権者を奮い立たせた。書記長は36歳の大学教授パブロ・イグレシアス氏。若い大学教授たちが中心メンバーで政界に新風を起こしている。
●原油急落が招くロシア不安
欧州を揺さぶる更なる波乱はロシアだ。ウクライナ問題で対立が鮮明になり、クリミア併合、東ウクライナの内戦で経済制裁の応酬となった。冷戦と違い相互依存の経済で、制裁は自らの利益をも捨てることにつながる。互いに疲弊したところで原油安に見舞われた。
昨年6月には指標銘柄であるWTIは1バレル=100ドルを超えていたが、直近は46ドルまで下がっている。ロシアは原油・ガスからの収入が輸出の約65%、国家予算の半分を占める。バレル100ドルを超える油価がプーチン大統領の強権を支えてきたが、ロシアの国際収支の悪化は政権の足元を不安定にしている。
ロシアの通貨ルーブルは売られ、1ドル30ドル台だった対ドルレートは60ルーブル台に下落した。100ドル原油が覆い隠していたロシアの危うさに市場は目を向けている。
かつての国営企業を財閥が私物化したエネルギー企業や銀行は、海外からドル資金を調達し、国家と一体になって事業を拡大してきた。原油・ガスの値崩れは株価下落だけでなく、債務の返済をも困難にする。
昨年6月時点で民間の対外長期債務は4200億ドル。対外債権は1370億ドルで、差し引き2800億ドル規模の「長期の借金」がある。ルーブルが暴落しドルで借金を返すのは苦しい。
1998年の債務危機に比べれば、ロシア経済は体力をつけた。当時130億ドルしかなかった外貨準備は4000億ドル近くまで増え、数字の上では資金ショートは起きないことになっている。しかし外貨準備はルーブル防衛で目減りしており、原油安が長引けば予断を許さない。
通貨の下落で輸入に頼る日常品の値は跳ね上がり、通貨防衛のため引き上げた金利は生産を委縮させた。原油安で減った国家の収入は国民に耐乏を強いる。プーチン大統領は「回復に2年はかかるだろう」と国民に覚悟を訴える。ロシア人は辛抱強いというが、欧州の各地で吹き荒れている現状へのいら立ちが、ロシアに飛び火しないとは限らない。
プーチン大統領は国際社会の異端児だ。苦境は対峙する欧米にとって、政治的な譲歩を引き出す好機ではあるが、国境を越え資金が流れるグローバル社会では他人事ではない。危機は連鎖する。マネー経済の命である資金循環の梗塞(こうそく)は、別物のように見えるギリシャとロシアを連動させる恐れさえある。
政治的な緊張をよそに成熟社会のEUは、ロシアを経済圏の裾野として取り込もうとしてきた。ここで追い詰めれば、ロシアの眼は東に向かい、勃興する中国との結束を強めるだろう。現状に不満を抱く新興国を中ロが取り込む動きは、中央アジアを引き込んだ上海協力機構などで表面化している。
戦争疲れの米国に覇権の陰りが見える。成熟社会の見本である欧州にほころびが目立つ。繁栄がまき散らす貧困をエサとして広がるテロ。マネー経済が煽る格差。米国・EUの主導で国際秩序を維持するのが難しい時代となった。
世界が抱える矛盾を煮詰めたような中東・アフリカと接するかつての宗主国に何が起こるか。今年は欧州に注目したい。
(貼り付け終わり)
山田厚史氏のコラム「世界経済、今年の波乱は欧州から。 ギリシャ、ロシアを皮切りに危機が始まる」はユーロ、ロシアなどの危機状況を、わかりやすく解説してくれている。
欧州諸国が個々の経済力や政治財政状況に大きな差異がありながら、ユーロという通貨まで統合したことに、余りにも理想を追及しすぎたのではないかと、筆者も思っていた。
もともとドイツ・ベネルクス3国等の財政健全な北欧諸国に比べ、南欧のポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインなど若者の失業と格差の拡大、権力者や富裕層の脱税や腐敗がはびこっており、民衆の政府に対する不満も多く不安定な経済が続いていた。
結果として最近はギリシャ、スペイン等で、民衆の不満を集約した左派勢力が勢力を拡大し、現政権の弱体化が進んでしまっている。
そこに追い打ちをかけるのが、国際的な原油価格の下落だ。欧州にエネルギーを供給して財政が潤っていたロシアだが、原油や天然ガスの大幅な価格下落で国家的な収入が大幅に減少してしまった。
米国は欧州やロシアに比較すると、経済力は優勢であるといえるであろうが、シェールオイルが抱える金融不安や、国家財政の緊縮のための米軍配置の縮小などで、テロとの戦いの負担増も予断を許さない。
どう見ても2015年の世界情勢は安定しているとはとても見えない。
(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)
世界経済、今年の波乱は欧州から
ギリシャ、ロシアを皮切りに危機が始まる
山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
2015年1月15日
イスラム過激派による新聞社襲撃は、世界屈指の文化都市パリも、殺戮(さつりく)と破壊に明け暮れる中東やアフリカと隣り合わせ、という現実を見せつけた。「表現の自由」は欧州の常識であっても、イスラムは「預言者を侮辱する自由」は許さない。イスラム国は、先進国が謳歌する近代社会の日陰に生まれた。世界秩序に牙をむく憎悪を力で抑え込むのは容易ではない。命を張った反乱は世界を一段と不安定へと向かわせるだろう。
今年は世界で何が起こるのか。米国、中国が抱える構造危機は、遠雷のような不気味さを秘めるが、目を離せないのが欧州だ。内なるギリシャと外からのロシア。世界を揺るがす懸案に事欠かず、ユーロ体制が動揺する年になりそうだ。
●国家による危ういチキンゲーム
不安の幕開けは1月25日のギリシャ総選挙だ。EUから求められた緊縮財政の是非が争点となっている。「EUの言いなりになるな」「債務の減額を」と主張する急進左翼連合「スィリザ」が第一党になる勢い、という。そうなったら「ちゃぶ台返し」である。EUにとって「身を切る改革」がギリシャ救済の条件だった。
独シュピーゲル誌は3日、「総選挙後にスィリザのツィプラス党首が政権を握り、緊縮財政を放棄し債務返済を拒否すれば、ギリシャのユーロ圏離脱は避けられないと独政府は判断している。メルケル首相、ショイブレ財務相はギリシャがユーロ圏を離脱する影響は限定的と認識するようになった」と伝えた。
タブロイド紙のビルトは7日、「ギリシャがユーロ圏を離脱した場合、預金者が殺到し銀行が破綻に追い込まれる可能性を警戒している。そうなったらEUの銀行同盟が巨額の金融支援をせざるを得ない」という政府関係者の見方を紹介した。ギリシャ国民にすれば、銀行から預金を引き出し、強い通貨ユーロを手元に置いておきたい。
ドイツ政府は公式的には「ギリシャがユーロに留まることを望む。離脱を前提とした検討はしていない」(政府報道官)というが、メルケル首相は、かねてから「ギリシャの加盟を認めたのは社会民主党政権の失敗」と批判的で、側近の政治家は「ギリシャが離脱しても影響は軽微だ」などと主張している。
ドイツの冷ややかな対応は「ギリシャの放漫財政のツケを我々の税金に回すな」という国民の声を背にしている。
離脱が現実に起こればEUの混乱は避けられない。ドイツの強硬姿勢は、欧州経済を人質にとって譲歩を引き出そうとするギリシャの急進左翼への牽制だろう。国家による危ういチキンゲームが年明けとともに始まった。
●貧困にあえぐギリシャ国民の怒り
ギリシャの財政粉飾は2009年の政権交代で露見した。赤字をごまかしてEUに加盟し、アテネ五輪で借金を増やした前政権の放漫財政を新政権が暴いた。国債は暴落、長期金利が跳ね上がり、外国から資金が途絶え、債務返済が行き詰まった。EU委員会が救済に動き国際通貨基金(IMF)と共同で2400億ユーロを融資することで国家の破たんは回避された。
ユーロ体制を守るためギリシャを破たんさせないというEUの結束が示されたが、救済と引き換えに、ギリシャ国民は財政支出の大幅カットと景気悪化を通じて窮乏生活を迫られた。増税、年金切り下げ、公務員削減、給与カット。消費は縮み、失業率は跳ね上がり、若者の二人に一人は職がない。
国民は怒っている。富裕層とつながる保守政権が勝手にやった国家粉飾の責め苦を、なぜ貧困にあえぐ国民が受けるのかと。
ギリシャは格差社会だ。2000ほどのファミリーが資産の80%を占め、脱税や汚職、コネによる利益誘導など日常化している。国民は耐乏生活を強いられるが富裕層は国外のタックスヘイブン(租税租界)に資産を移し痛痒はない。庶民の怒りをバネに伸びた進左翼は、エコロジストから共産主義者まで寄り合う。危機前は泡沫政党のように扱われていたが2012年の総選挙で第二党に躍進した。
この選挙ではEUと協調をはかる新民主主義党が第一党になり、かろうじて連立政権にこぎつけた。しかし昨年末、連立内閣は大統領の選出が出来ず、国会は12月31日に解散した。年が明けギリシャは騒然としている。急進左翼は「ギリシャの誇りを取り戻そう」「ユーロ離脱も辞さず」という強硬姿勢で、EUとりわけドイツとの対決を鮮明にしている。
ユーロから離脱し、かつての通貨であるドラクマに復帰しても問題は解決しない。ドラクマでは融資や投資が集まらない。債務返済が出来なくなるだろう。ギリシャ経済は立ち行かず、返済が止まれば債権を持つドイツやフランスの銀行が困る。
金融不安を逆手にとった債務削減交渉となれば、欧州経済は混乱するばかりだ。
●スペインでも「反緊縮財政」左翼が台頭
問題はギリシャだけでない。不安は連鎖する。前回ギリシャで危機が表面化した時「PIIGSが危ない」といわれた。ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインだ。債務問題と財政不安を抱え、どこも「痛みを伴う改革」を迫られた。
南欧は国家のガバナンスが緩く、脱税や腐敗がはびこる。犯罪組織が経済を浸食することも珍しくない。近年はアフリカからの不法移民の流入が激しく、失業と格差拡大が社会問題になっている。
堅実な経済運営を行う北欧・ドイツ・ベネルクス3国に比べラテン系の南欧は危うい。4年前はEU分裂がささやかれた。北が南を抱え込んでEUはやっていけるのか、という不安だった。絆はユーロでも、それぞれに国柄があり、世論が国政を決める。
「景気鈍化で欧州政治は負の循環に入った」といわれる。債務問題を抱える国は身を切る改革を迫られ、デフレが襲い、失業が広がり、緊縮政策が恨まれる。国民の多くは緊縮に耐えられず、政策の逆回転を望む。
選挙をすれば、財政の拡大や不人気政策の撤廃が勝利する。市場は混乱し、経済は不安定になる。政府は支持を失い、政治は混乱し、改革は遅れ、経済はますます混乱……。ギリシャで起こっていることだ。
総選挙で急進左派が第一党になっても、単独で政権を取ることは容易でない。「ユーロ離脱」の政権が出来るかどうかは未知数だが、経済再生路線にブレーキが掛かることは避けられまい。
欧州の金融界は、リーマンショックからいまだ抜け出していない。債務削減にしろユーロ離脱にしろ、脆弱な金融市場は新たなギリシャショックに見舞われるだろう。
スペインでも今年は選挙がある。新左翼が第一党になる、といわれている。2011年から始まった緊縮財政に国民から怨嗟の声が上がっている。ギリシャで躍進した急進左翼連合に倣い、昨年1月「反緊縮財政」を掲げる勢力「ポデモス」が誕生。ネットを中心に若者が結集し、昨年5月の欧州議会選挙で第4の勢力になった。
スペインは保守の人民党と社会労働党による二大政党制になっているが、ポデモスは「二大政党は特権階層を形成し、政治から市民を排除している」と批判。「政治を市民の手に」と訴え、無力感に陥っていた有権者を奮い立たせた。書記長は36歳の大学教授パブロ・イグレシアス氏。若い大学教授たちが中心メンバーで政界に新風を起こしている。
●原油急落が招くロシア不安
欧州を揺さぶる更なる波乱はロシアだ。ウクライナ問題で対立が鮮明になり、クリミア併合、東ウクライナの内戦で経済制裁の応酬となった。冷戦と違い相互依存の経済で、制裁は自らの利益をも捨てることにつながる。互いに疲弊したところで原油安に見舞われた。
昨年6月には指標銘柄であるWTIは1バレル=100ドルを超えていたが、直近は46ドルまで下がっている。ロシアは原油・ガスからの収入が輸出の約65%、国家予算の半分を占める。バレル100ドルを超える油価がプーチン大統領の強権を支えてきたが、ロシアの国際収支の悪化は政権の足元を不安定にしている。
ロシアの通貨ルーブルは売られ、1ドル30ドル台だった対ドルレートは60ルーブル台に下落した。100ドル原油が覆い隠していたロシアの危うさに市場は目を向けている。
かつての国営企業を財閥が私物化したエネルギー企業や銀行は、海外からドル資金を調達し、国家と一体になって事業を拡大してきた。原油・ガスの値崩れは株価下落だけでなく、債務の返済をも困難にする。
昨年6月時点で民間の対外長期債務は4200億ドル。対外債権は1370億ドルで、差し引き2800億ドル規模の「長期の借金」がある。ルーブルが暴落しドルで借金を返すのは苦しい。
1998年の債務危機に比べれば、ロシア経済は体力をつけた。当時130億ドルしかなかった外貨準備は4000億ドル近くまで増え、数字の上では資金ショートは起きないことになっている。しかし外貨準備はルーブル防衛で目減りしており、原油安が長引けば予断を許さない。
通貨の下落で輸入に頼る日常品の値は跳ね上がり、通貨防衛のため引き上げた金利は生産を委縮させた。原油安で減った国家の収入は国民に耐乏を強いる。プーチン大統領は「回復に2年はかかるだろう」と国民に覚悟を訴える。ロシア人は辛抱強いというが、欧州の各地で吹き荒れている現状へのいら立ちが、ロシアに飛び火しないとは限らない。
プーチン大統領は国際社会の異端児だ。苦境は対峙する欧米にとって、政治的な譲歩を引き出す好機ではあるが、国境を越え資金が流れるグローバル社会では他人事ではない。危機は連鎖する。マネー経済の命である資金循環の梗塞(こうそく)は、別物のように見えるギリシャとロシアを連動させる恐れさえある。
政治的な緊張をよそに成熟社会のEUは、ロシアを経済圏の裾野として取り込もうとしてきた。ここで追い詰めれば、ロシアの眼は東に向かい、勃興する中国との結束を強めるだろう。現状に不満を抱く新興国を中ロが取り込む動きは、中央アジアを引き込んだ上海協力機構などで表面化している。
戦争疲れの米国に覇権の陰りが見える。成熟社会の見本である欧州にほころびが目立つ。繁栄がまき散らす貧困をエサとして広がるテロ。マネー経済が煽る格差。米国・EUの主導で国際秩序を維持するのが難しい時代となった。
世界が抱える矛盾を煮詰めたような中東・アフリカと接するかつての宗主国に何が起こるか。今年は欧州に注目したい。
(貼り付け終わり)