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“一億総活躍社会緊急対策”のどれもが、結局家計支援だけ。GDP600兆円なんて可能か?

2015年11月30日 00時14分43秒 | 日記
 安倍内閣の、いわゆる新・第三の矢として、一億総活躍社会を打ち出しているが、筆者もこのブログで殆んど評価しない内容を書いてきた。

 この程出された“一億総活躍社会緊急対策”についての、メディアにも時々顔を出す慶応大の岸 博幸教授のコラムを読ませてもらった。

 岸教授の言うとおり、一億総活躍社会は中期的な目標であり、緊急対策とは短期的な対策である。

 論理の矛盾があるにもかかわらず、平気で並べているところに、安倍政権がどこまで本気で取り組むのか疑問の残るところである。

 緊急対策の政策の中身は、色々の項目が羅列されているが、殆んどは家計支援である。

 筆者も主張している通り、GDPの伸び悩みは間違いなく消費支出の低迷が原因であり、家計支出を増やす政策は、もちろん必要だ。

 しかし、その効果は1~2年続けば良いところで、本来の成長政策を実施できなければ、GDP600兆円の達成などは不可能だろう。

 岸教授はTPPの経済効果も評価しているようであるが、筆者は日本経済にとっては、TPPはどこまで効果があるのか疑問を持っている。 既に現段階でも大幅に関税も低くなっており、特に日米間の貿易のメリットは余りなく、貿易よりも日本の制度や仕組みの変化が与える影響の方が、本当に国民の為に有利になるのか、今でも疑問点が多い。

 一億活躍社会の実現のためには、雇用環境の再見直しも必要で、正規社員に比較し、余りにも経済格差が大きい非正規社員の存在も、大幅に改善しなければならないだろう。

 その辺りの見直しは緊急対策には入っておらず、このコラムに付随している読者に対する世論調査を行っているが、なんと75%の読者は緊急対策の効果はないに投票しているのだ。


(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)

「一億総活躍緊急対策」は問題ばかり
岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
2015年11月27日

 11月26日(木)に内閣改造後の安倍政権の初の経済対策である“一億総活躍社会緊急対策”が発表されました。原稿の締め切りとの関係で、まだ本体を入手して詳細を分析した訳ではありませんが、対策に関する報道を読む限りでも多くの問題点が目についてしまいます。

●「家計支援」がメインの対策に抱く不安

“一億総活躍社会緊急対策”という名称にもかかわらず、中身は家計支援がメインに…

 まず違和感を持つのは、“一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策”というタイトルです。“一億総活躍”というのは、その意味からして中長期的に実現すべき課題です。一方、“緊急対策”というのは、通常は喫緊の課題に対応する短期的な政策を意味するはずです。

 つまり、このタイトルは中長期を意味する言葉と短期を意味する言葉を安直に並べただけで、厳密には論理矛盾です。まあ、対策の中身もタイトルどおりに短期的な政策と中長期的な政策がごっちゃまぜになっていますので、名は体を表していると言えますが、しかし、この手の文書のタイトルは、本来は政策が目指す方向性や政権の意思が反映されるべきなのに、それもできていないのでは最初から不安になってしまいます。

 そして、対策の中身を見ても、その不安どおりの中身と言わざるを得ません。まず感じるのは、列挙されている政策メニューが、

・低年金受給者への給付金の支給
・住宅購入負担の軽減
・最低賃金の引き上げ
・保育所の整備
・産後の女性の国民年金保険料免除
・特養ホームなどの整備
・介護休業給付金の引き上げ

 と、結局は家計支援がメインになっているということです。

 もちろん、これらの政策が新・三本の矢の目指す方向に即しているのは事実ですし、何より昨年4月の消費税増税から1年半が経過しても弱いままとなっている消費へのテコ入れという観点からは評価できます。

●家計支援だけでは
名目GDP600兆円も一億総活躍も無理

 しかし、それでもやはりこの対策はあまり高く評価できません。その理由として2つの点を指摘できます。

 第一は、家計を支援して消費をテコ入れすればそれで第一の矢が目指す名目GDP600兆円を実現できるのかということです。短期的に経済成長率を高めるには需要を増やせばいいので、家計支援はまさにその役割を果たしますが、その効果は1~2年しか続きません。高い成長率を長期にわたって続けてこそ、名目GDP600兆円が初めて視野に入るのです。

 長期的に経済成長率(潜在成長率)を高めるには、特に人口が減少している日本では、それでなくても国際比較すると高くはない日本経済の生産性を高めることが不可欠となります。そして、そのために必要な政策は、規制改革、地方分権、自由貿易を一層進める改革的な政策になります。

 もちろん、自由貿易についてはTPPという大きな成果があります。しかし、安倍政権の過去3年を振り返ると、規制改革については国家戦略特区など評価できる成果はあるものの、全体的にはあまり進んだとは言えません。地方分権に至っては成果ゼロです。

 そして、今回の対策を見ても、規制改革や地方分権での新たな政策は何も入っていません。これでは、結局は経済対策と補正予算で需要を増やしてその場しのぎをするという、90年代の自民党がやったことと同じに見えかねません。

 第二は、家計を支援すれば、それだけで“一億総活躍社会”が実現できるのかということです。もちろん家計支援は不可欠ですが、逆にいえばそれだけでは活躍したくてもできない人、つまり思いっきり働きたくても働けない人がたくさんいるのではないでしょうか。

 そうした状態を改善するために必要なのは、働く人がスキルアップできる機会を増やすことです。実際、企業が従業員一人あたりにかける教育訓練費は2008年度3.3万円だったものが2014年度は2万円にまで減少しています。パート、アルバイトなどの非正規雇用はその恩恵にさえ預かれません。更に、公共職業訓練が提供するスキルアップの機会はものづくりの技能向上がメインで、サービス産業やICT関連は全然充実していません。

 こうした部分に対策で本格的に取り組んでこそ、“一億総活躍社会”の実現に向けた本気度が分かるのではないでしょうか。ちなみに、こうした部分を強化することは、日本経済の生産性の向上にも資するのです。

 加えて言えば、本当に“一億総活躍”を目指すのならば、雇用制度の抜本的な改革を通じて正規雇用と非正規雇用の区別をなくすことも必要なはずです。でも、この問題は安倍政権発足直後に一度取り上げられたものの、労使双方からの猛烈な反発に遭って以来お蔵入りしたままで、当然ながら今回の対策にはそうした方向は何も入っていません。

●今回の対策はまだ“総理主導”ではない

 このように考えると、確かに家計支援は短期的に必要であり、それに取り組んだことは評価できるものの、逆に言えばそれに終始してしまい、経済の生産性の向上や、スキルアップや雇用制度といった働く人の環境の改善のための政策が目につかないというのは、残念と言わざるを得ません。

 実際、海外の投資家は今回の対策にはそもそもあまり関心を示していませんでした。彼らが現状関心あるのは、補正予算の規模がどれ位になり、どの分野に重点的に予算が投入されるかというだけです。ファンドの連中には既に見透かされてしまっているのです。

 現実的に考えると、官僚主導、官僚に優しい政治家主導では今回の対策が限界です。そろそろ、安倍首相が真剣に安全保障から経済に重点を移し、また自ら経済運営を主導すべきではないでしょうか。

(貼り付け終わり)

米国でも、中国でも、オンライン販売が顕著に伸びている。食われる実店舗の販売戦略は果たして?

2015年11月28日 17時25分17秒 | 日記
 米国は、感謝祭の週末が、年末商戦の最大の売り上げ規模になるという。

 例年、この日に備えて、全米の小売店が販売のための趣向を凝らすのだ。

 しかし、最近はネットのオンライン取引が着実に増加し、実店舗の売り上げを奪っている形になっているようだ。

 日本でも、ヨーカドーやイオンが大型スーパーの売り上げ低迷で、いかにネットの利便性を、実店舗販売で取り込むかに腐心しているという。

 中国でも、アリババが2009年から続けている「独身の日(11.11)」のオンラインセールの総売上高は昨年比54%増の912億元(約1兆7億5000万円)と過去最高を更新したという。 一日に1兆7千億円も売り上げるというのだから、ネット販売だからできる技だともいえるし、改めて中国のネット人口の巨大さに驚かされる。

 筆者も、ちょっとした買い物でもアマゾンで商品検索して、ほんの数千円の商品でもオーダーを出す時代なのだ。 しかもプライム会員であると運送費はかからず、翌日には自宅に商品が届く。

 この利便性と商品の特徴や使用感なども読むことができ、実店舗の店員さんも少ない今時、商品の選択をする場合も、ネットの販売サイトは非常に助かる存在だ。

 まあもっとも、配送に携わる運送業者には、過度の負担がかかっているであろうことは、容易に推測できるが。

 筆者の個人的な経験からいっても、新鮮度を直接見て買い物をしたい生鮮食料品スーパーは、これからも客は減らないであろうが、日持ちのする加工食品や雑貨などは、ネットでの買い物に移行するのではないだろうかと思う。

 しかし、衣料品や履物などでは、フィットする商品は試着して試したいものであり、衣料品の質感や微妙な柄や色合いは、現物を見る必要があり、小生の家内が、衣料品を通販で買っては、返品をしているのを見ると、現物を見極められる実店舗に行けば良いのにと、いつも喧嘩している次第だ。

 このあたりがオンライン販売では、まだネックになっている分野だろう。しかし、急速にフィット感や色調を実物に近く表現する技術は可能になるかもしれない。

 あと一つ、実店舗では100円ショップの存在だ。 100円ショップの客足は増えていると筆者には見える。 筆者もちょっとした雑貨(特に文具や身の回りの雑貨)などは100円ショップでまず探してみるのが、最近の買い物スタイルだ。

 100円ショップで、これがどうして100円だという商品を探し出すのも楽しい時間つぶしだ。

 例えば、筆者が感心した商品では、3色ボールペン+シャープペンの一体型、しかもこれが2本で100円?。 老眼鏡もレンズにゆがみは見られず、フレームもカッコ良い出来で100円だ。 筆者の古い自転車についている発電ランプはペダルが重たくなるので、電池式のLEDライトに交換した。電池は別売だが、3本使用するので、電池代込みで150円で明るいランプに変身した。 最近購入したiPhone6sのケースカバーも100円で、ぴったりフィットする。

 そして、これらの製品はすべて中国製だ。しかも最近の製品の仕上がりは立派なものだ。改めて中国の製造コストには恐れ入った。

 なんだか話がそれてしまったが、今日はネット販売が今後も加速し、実店舗はどういう策で対抗するかという話で纏めるつもりでした。


(ブルームバーグより貼り付け)

米感謝祭の週末、実店舗販売は振るわず-ネットに客奪われる公算
2015/11/28

(ブルームバーグ):米感謝祭後の週末、小売業者の実店舗での販売は振るわないもようだ。より多くの買い物客がショッピングモールには行かず、インターネットでの購入を選択しているとアナリストは指摘する。

アドビ・システムズによれば、感謝祭の日(26日)のオンライン取引を通じた売上高は約17億3000万ドル(約2100億円)と、前年比25%増加した。27日の「ブラックフライデー」は午前11時までの集計で前年比15%増の約8億2200万ドルだった。

小売業界ウオッチャーによると、ネットでの購入が実店舗の売り上げを奪う形となっている。小売業者にとっては配送コストが増し、店舗を訪れる買い物客による衝動買いも見込めなくなる。デロイト・コンサルティングのディレクター、ジェフ・シンプソン氏がブラックフライデーに調査したノースカロライナ州のショッピングセンターでは訪問客が予想を下回った。

「全体的に客足は予想よりかなり少ない」とシンプソン氏は語った。具体的な数字には言及しなかった。

米国の小売業界団体で最大の組織である全米小売業協会(NRF)によると、感謝祭を含む週末4日間に店頭やオンライン販売で買い物する米国の消費者は約1億3580万人に上る見通し。これは前年比1.6%増に相当する数字だが、過去の例を見ると、NRFの予測は楽観的過ぎる傾向がある。昨年の予測は実際の数字より4.8%高かった。

原題:Holiday Weekend Store Sales Seen Ailing as Shoppers Buy Online(抜粋)

(貼り付け終わり)

なんだか安倍政権の打ち出す政策は、なんとも珍妙だ。

2015年11月27日 22時35分21秒 | 日記
 最近の安倍政権の打ち出す政策は、なんとも珍妙だ。

 まず「1億総活躍社会」には、なんだか戦前の「欲しがりません勝つまでは」というような、各種のスローガン目白押しの社会を、彷彿とさせ、筆者などは背筋が寒くなったよ。

 おいおい、高齢化に突き進んでいる今の日本で、多くの老人も全員力の限り働けというのかよ。 

 まあ尤も、筆者は後期高齢者(何とも嫌な呼称だが)直前だが、自己の健康管理も兼ねて、今も元気に働いていますがね。 ただ国から、あーせい、こーせいと言われるのは、ごめんこうむりたい。 つい、ほっといてくれよと言いたくなるねえ。

 そして、次には携帯電話の料金を、値下げしろときたよ。消費支出が一向に伸びないのは、スマホの通信料金が高いせいだという理屈らしい。

 おいおい、ケータイ料金が高いといっても、これも立派な消費支出だよ。 もっとも国にいわれなくても、筆者なども何とか利用料金を下げたいと、格安ケータイの検討もしているが、ケータイ料金が高いのは、電波の認可権を国が握っているのだから、結果的には行政のお粗末さの結果で、消費者にメリットが享受されていないのではないのかねえ。

 そして政府は、次には蛍光灯照明をLED照明に変えろという。 全くもって、大きなお世話だよ。

 白熱電球の照明をLEDに変えると、確かに劇的に電気代は下がるかも知れない。 しかし蛍光灯と比較した場合は、せいぜい20~30%下がるだけだ。

 しかもLEDの青白い光は、なんとも居心地が悪い。 もっとも調光色タイプは電球色に近づけることもできるが、器具の価格も高い。 ただ、白熱電球の照明は、心落ち着く温かさがあり、ただ効率一点張りで、政府がLED照明にせよというのも乱暴だねえ。

 しかし、家庭の照明の節電を押しつけながら、一方、発電分野では太陽光や風力などの自然エネルギー発電事業には、なんだかんだと押さえつけ気味だ。 電力会社には政府は頭が上がらないのだねえ。

 どうもアベノミクスが破綻をきたしている為なのか、およそ、次々と打ち出す政策が珍妙に見えてくる。

 もっと政治の基本は、国民の生活を良くすることが第一だという、原点を直視すべきではないのか。 あー、これは小沢一郎さんの言葉だったかな。(笑)

野口悠紀雄氏も、景気停滞の真の原因は企業の人件費削減の結果だと、統計分析から喝破。

2015年11月26日 22時04分53秒 | 日記
 数量経済学の野口悠紀雄氏が、内閣府などの発表した統計数字から、ものの見事に、今の日本経済の景気停滞は、人件費削減にあると喝破しておられる。

 最近はさすがに、安倍政権も景気が浮揚しないのは、賃金の伸び悩みにあると、経団連などにボーナスの増加や最低賃金の見直しが必要だと言い出している。

 経営者が企業の経営内容から見て、賃金アップなどを決断すべき事項であり、政府が横槍を入れるのはどうかと思うやり方で、筆者などは、まるで社会主義国家の政治だと思ってしまう。

 しかし、野口氏が統計数字を分析して、今の企業業績が良くなっているのは、明らかに人件費の削減効果だと証明している。

 日本のGDPの60%を占める消費支出と設備投資の伸び悩みだ。賃金が減少傾向にあるため、当然、消費支出は減少する。 国内消費が伸びないため、企業は設備投資は海外に求める。

 このような状態が続く限り、日本経済の先行きに明るさが見いだせない。

 特に多くのウエイトを占める中小企業では、非正規社員に頼る傾向が強く、人件費の削減で利益を出しているのが現状だ。

 野口氏も、「企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
 こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。」

 そして「 企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。 製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。」と提言している。

 確かに、今のアメリカはアップルやGoogle,Facebookなど巨大に成長したIT産業や遺伝子関係の医薬品、種子産業などが次世代産業として力を持ち、米国の収益源になりつつある。


(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)

景気停滞の真の原因は企業の人件費削減
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
2015年11月26日

●企業業績は総じて好調なのに、なぜ賃金は伸びない?

 企業利益が歴史的な高水準になっている。それにもかかわらず、経済が停滞しているのはなぜか?

 その原因は、利益増加のメカニズムそのものの中にある。企業利益が増加するのは、人件費が抑圧されるからなのである。このため消費支出が伸び悩み、それが経済成長の足を引っ張っているのだ。

●連続マイナス成長の本当の問題は
消費支出が伸びないこと

 2015年7~9月期のGDP(国内総生産)は、2期連続のマイナス成長になった。これをもたらした原因は、表面的には、設備投資と在庫投資の伸びがマイナスになったことだ。しかし、本当の問題は、消費が伸びないことだ。

 消費支出は、GDPの中で最大のウエイトを占める。したがって、経済成長や景気動向に最も大きな影響与えるのは、消費支出である。

 7~9月期で実質消費が増えたのは、原油価格の下落によって消費者物価の上昇率が低下したためである。消費者の選択というよりは、結果としてそうなったという側面が強い。消費者の選択が反映されるのは、名目消費である。また、景気実感により強い影響を与えるのも、名目の消費である。ところが、それが伸び悩んでいるのだ。

 これまでは、実質消費が伸びないことが問題だった。例えば、13年頃には、実質消費はそれほど増えておらず、マイナス成長になることもあった。それが問題だったのである。しかし、この期間においては、(消費税増税の影響を除けば)名目消費は増加していた。ところが最近になって、名目消費そのものが増えないという問題が生じているのである。例えば、15年1~3月期には、実質では対前期比プラス成長だったが、名目ではマイナス成長になった。

 消費がこのように伸び悩んでいる原因として考えられるのは、第1は、消費税増税前の駆け込み需要が消滅したことだ。その影響は確かにあるだろう。しかし、それだけとは考えられない。

 図表1に見られるように、消費支出がGDPに占める比率は、14年1~3月期をピークとして傾向的に低下を続けているのである。家計最終消費支出がGDPに占める比率は、そのときに比べて3.2%ポイントも低下している。これはかなり大きな変化だ。現在の比率は、10年頃よりも低い。

   ◆図表1 家計最終消費支出がGDPに占める比率 (表示できないため省略)


●消費伸び悩みの原因は
企業の人件費削減

 消費が伸び悩むのは、雇用者所得が伸びないからである。

 図表2に示すのは、GDP統計算出されている雇用者報酬の動向だ(名目季節調整値)。2014年7~9月期から15年1~3月期の間に、1.2%ポイントも落ち込んでいる。11、12年頃の水準に比べても、かなり低い。

 これは消費税の影響でも円安の影響でもない。賃金収入が減ったからだ(なお、分配状況を正確に見るには国民経済計算の分配勘定が必要であるが、現在のところ13年度までしか分からない)。

   ◆図表2 雇用者報酬がGDPに占める比率  (表示できないため省略) 

 企業は、人件費を減らしているのである。

 この状況をもう少し詳しく見るために、法人企業統計によって、営業利益と人件費の対売上高比率を示すと、図表3、4のとおりである(全産業、全規模)。

 13年頃から営業利益の対売上高比率が上昇する一方で、人件費の対売上高比率が低下していることが分かる。したがって、人件費を抑えたために利益が増加したと推測することができる。

   ◆図表3 営業利益の対売上高比率(全産業、全規模) (表示できないため省略)
   ◆図表4 人件費の対売上高比率(全産業、全規模)  (表示できないため省略)

 この点を確かめるため、11、12年度平均と14年度を比較すると、図表5のとおりだ。

 売上高はこの間に約1.5%増加している。売上原価も、それに合わせて、約1.5%増加している。しかし、人件費は3.9%ほど減少しているのである。

 もし、人件費が売上増加率と同率で伸びたのなら、14年度において175.6兆円となったはずだ。しかし、実際には166.3兆円なので、差は9.3兆円だ。これは利益増の72.7%に当たる。つまり、企業の利益増の約4分の3は、人件費の圧迫によって実現されたと考えることができる。

   ◆図表5 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(全産業、全規模) (表示できないため省略)


●輸出企業は円安で売り上げ増
一方人件費は抑制で利益が増加

 先に見たように、営業利益の対売上高比率は上昇しているが、人件費の対売上高比率は低下している。

 こうなる原因は2つある。

 第1は輸出の増加だ。これは主として製造業の大企業(資本金10億円以上)において生じている現象である。これは、図表6に示されている。

 2011、12年度平均と14年度を比べると、売上高が2.1%増加したにもかかわらず、売上原価はほとんど不変に留まった。人件費は、減少はしているものの、さほど大きな変化ではない。

  ◆図表6 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(製造業、10億円以上) (表示できないため省略)

 この場合の売上高増は、輸出売上の円評価額が円安によって増加したという計算上のものである。そのため生産は変化しておらず、原価が変わらないのだ。そして、売上増加額5.2兆円が、ほぼそのまま利益増加額になっている。

 売上高の増加率は2.2%にすぎないのだが、増加分のすべてが利益増になり、しかも、売上高営業利益率が11、12年度平均で2.9%という低い値なので、利益が75.3%も増加するのである。

 この結果、売上高に対する人件費の比率は、11年4~6月には11.9%だったが、14年11~12月には9.9%に低下した。

●中小の製造業や非製造業では
非正規労働者の増加により人件費削減

 人件費の対売上高比率が低下する第2の理由は、非正規労働者の増加等による人件費の削減である。これは非製造業や、大企業以外の製造業で生じている。

 非製造業(全規模)の場合について示すと、図表7のとおりだ。

 この場合、売上原価の増加率は3.5%であり、売上高の増加率2.6%より若干高めの値になっている。売上高の中に輸入は含まれておらず、他方、円安によって原材料価格が上昇したために、売上原価が増加しているのだ。

   ◆図表7 売上高、売上原価、営業利益、人件費の変化(非製造業、全規模) (表示できないため省略)

 ところが、人件費が5.0兆円、率では4.2%も削減されたため、利益が増えた。人件費削減額は、利益増加額7.2兆円の68.3%を占める。

 この場合には、人件費削減が利益を増加させていることになる。

 企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。

 こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。

●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要

 以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。

 図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。

 これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。

 第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。

 政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。

 しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。

 企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。

 こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。

●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要

 以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。

 図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。

 これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。

 第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。

 政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。

 しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。

 企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。

(貼り付け終わり)

IS(イスラム国)とシリア・アサド政権、西欧、ロシアの各国のかかわりなど、明快な田岡俊次氏の解説

2015年11月25日 12時06分07秒 | 日記
 IS(イスラム国)のパリでのテロ行為で、フランスは軍事攻撃を行っているが、今のテロはまさに戦争といってもよい状態だ。

 しかし、テロ事件は発生場所の予測は現実問題として難しく、国家間の戦争とは異質の戦争であり、テロの根絶は武力対決だけでは絶対に解決しないであろう。

 テロのそもそもの発生は、市民の生活の困窮や政治体制に対する不満などが原因であり、今回のシリア問題も部外者である日本人には非常に理解が困難だ。

 軍事ジャーナリストの田岡俊次氏の解説は判りやすく、筆者にも非常に参考になりました。

 一読の価値がありますから掲載しました。


(ダイヤモンド オンラインより貼り付け)

IS殲滅には地上戦が不可欠
日本は報復の標的となりそうか?

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
2015年11月25日

 パリでの同時多発テロ事件にフランス人は報復の雄叫びをあげ、フランスの空母、ロシアの戦略爆撃機もIS(自称・イスラム国)攻撃に加わった。だがアメリカなどが1年以上爆撃を続けてもISは倒れない。ゲリラ討伐には地上戦が不可欠だ。従来米国と西欧諸国はシリアのアサド政権打倒を目指し、反政府勢力を支援してきたが、いまやその主力はISとアルカイダに属する「ヌスラ戦線」となり、「テロとの戦い」にはシリア政府軍との協力が必要となっている。シリア内戦による難民流入に悩む欧州諸国は内戦の早期終結のため、当面アサド政権の存続を認める方に傾き、親シリアのロシアの発言力が高まって、アメリカはジレンマに陥っている。


「武器を取れ市民達よ、戦列を組め、進め、進め、敵の血が野に満つるまで」――フランス国歌「ラ・マルセィエーズ」はフランス革命時の軍歌だっただけに酷く血生臭い。

「国歌としてふさわしくない。歌詞を変えるべきだ」との識者からの提言は、これが国歌に採用された1795年以来何度も出たが、フランス国民の一見文弱に見えて実は勇猛な国民性(例えば第1次世界大戦では人口3960万人のうち、死者136万人、負傷者427万人を出しつつ敢闘、ドイツを倒した)に支持されて、そのまま歌い継がれてきた。

 11月13日、死者129人以上、負傷者約350人(うち重態約100人)が出たパリでのテロ事件の直後から、サッカー場、各地の広場、そして議会でも全員が大合唱したこの歌はまさに怒り狂うフランス人の雄叫びに聞こえた。

 これに応えてオランド大統領は議会で「戦争行為だ、容赦なき攻撃を加える」と演説し、ヴァルス首相はIS(自称「イスラム国」)の「全滅を目指す」とテレビで述べた。

 だがISに対し決定的な打撃を与えるのは容易ではない。9人と見られる実行犯のうち現場で6人が自爆、1人が射殺され、18日の拠点への警官隊の突入で首謀者ら3人を射殺、9人を逮捕したから、刑事事件としては幇助犯の追及を除き、ほぼ解決したとも言えようが、これは個々の犯人だけでなく、犯行声明を出したISとの“戦争”であり、次にもテロが起こる危険があるから、フランス政府としてはISに対する軍事行動による報復と全滅を目標とせざるをえない。

●空爆を継続するだけでは
ISを殲滅するのは難しい

 フランス空軍は米国の要請を受けて昨年9月19日からイラク領内のIS拠点の航空攻撃に参加し、今年9月27日からはシリア領内での攻撃にも加わっていたが、出撃機数は1度に6機程度で形ばかりの参加だった。当時仏空軍はアラブ首長国連邦のアブダビに戦闘機「ラファール」9機を置いていた。

 今回のテロ事件後の11月15日、仏空軍は米空軍が駐屯しているヨルダンの基地から戦闘機10機を出撃させ、ISの“首都”ラッカに爆弾20発を投下、「2目標を破壊」と発表した。これまで米軍、ロシア軍などが何度もラッカを叩いても決定的効果はなかったから、10機で20発程度では大打撃を与えられそうにはない。

 米空軍はアブダビ、カタール、ヨルダンにF15E、F16Cなど戦闘機40機余、B1B爆撃機6機を配備し、アラビア海の第5艦隊、地中海の第6艦隊が原子力空母各1隻を展開し、IS攻撃を行ってきた。

 だが出撃した戦闘機などが攻撃目標を発見できず、爆弾、空対地ミサイルなどを付けたまま基地に戻ることが多いようだ。パキスタン北西部やアフガニスタン、イラクなどで、結婚式の群集をゲリラの集団と誤認して爆撃したり「国境なき医師団」の病院をゲリラの拠点と信じて攻撃したなど、民間人誤爆の例が少なくないため、パイロットは確実に敵と分かった目標を攻撃するよう命じられている。だが空からIS兵か一般人かを見分けるのは不可能に近く、爆弾を投下できずに戻ることになりがちだ。

 地上基地の戦闘機などは爆弾、ミサイルを付けたまま着陸できるが、空母の艦載機は着艦に失敗して飛行甲板に激突、炎上した場合、爆弾などを付けていれば空母が大損害を受けかねない。このため着艦前に残っている爆弾やミサイルを全て海中に投棄する規則になっている。昔とちがい爆弾もレザーやGPSなどによる誘導装置が付いた「スマート爆弾」だから1発約300万円もするし、空対地ミサイルなら値段はその10倍にもなるから、出撃ごとに余った爆弾、ミサイルを海に捨てられては海軍当局もたまらない。

 今後フランス空軍はシリア周辺での配備機数を増やしたいところだが、戦闘機、攻撃機の総数は約210機、航空自衛隊の350機より少ないから大規模な展開は困難だ。唯一の空母(原子力推進)の「シャルル・ドゴール」(43000t)もシリア沖の地中海に派遣され、11月23日から攻撃に加わったが搭載する戦闘機、攻撃機は26機で米空母(93000t級)の約半数だ。

 ロシアは9月30日シリアのIS拠点などの攻撃を始めた際には戦闘機、攻撃機30余機をシリアに派遣していたが、10月31日にエジプトのシナイ半島上空で224人が乗ったロシア旅客機が爆発して墜落したのはISの犯行、と11月16日に断定し、ロシア本国からTu160など戦略爆撃機23機を出動させ、地中海の潜水艦などから巡航ミサイル34発による攻撃を行った。ロシアは今後も多数の爆撃機を本国の基地から出して攻撃を続ける構えだ。

 ロシア政府は当初この墜落がテロによることを認めたがらなかったが、多分これは国内で「シリア爆撃をしたから報復を受けた」と批判されるのを警戒したためで、パリでのテロ事件でISの凶悪さが証明され、安心して姿勢を変えたと考えられる。

 だが、航空攻撃が効果をあげ、誤爆を防ぐためには目標の選定が不可欠だ。米国は昨年9月23日からシリアのIS拠点を爆撃したが、地上部隊は派遣しない方針だった。だが、今年10月30日に特殊部隊約50人を潜入させる決定をした。攻撃目標を発見するにはそれが不可欠だったからだ。だが一度それを始めると、隊員の安全確保や偵察の徹底のため、徐々に投入兵力が増えることになりがちだ。

●ロシアは地上軍を派兵できても
米国が行えば国際法違反

 イラクでは米国は昨年6月からISの進出に対抗するため軍事顧問団約300人を送ったが、いまでは約3000人に拡大した。また爆撃だけではゲリラを討伐できないのはほぼ自明のことだ。トルコ国境に近いクルド人の町・コバニの大部分が昨年9月にISに占拠された際に米空軍などが連日猛爆撃を加えたがISは退去せず、イラク北部のクルド自治区からクルド兵をトルコ経由で投入し、今年1月に奪回した。元の人口4万人余のコバニでも4ヵ月を要したのだから、ISが“首都”としているシリア北部のラッカ(内戦前の人口22万人)の奪還を目指せば激しい地上戦になりそうだ。

 シリア政府は米軍などによるISへの航空攻撃は内心歓迎だから黙認しているが、「アサド政権打倒」を公言してきた米国などの地上部隊がシリア政府に無断で同国領内で行動するのは明白な国際法違反だ。

 一方ロシアはアサド政権を支持してきたから、地上部隊の派遣はシリア政府の了解を得やすい。フランスが本気で「IS全滅」を目指すなら、まずアサド政権と和解し、シリア政府軍(陸軍11万人など総兵力18万人)、ロシア軍と協力して、シリアの2大反政府勢力であるIS(イラク領内を含め兵力推定3万人)と、アルカイダに属する「ヌスラ戦線」(それに同調する雑多な武装勢力を含め1.2万人)を主体とする「ファトフ軍」を相手に地上戦(主として市街戦)を行い、内乱の鎮定を目指すしかあるまい。

 内戦が終結すれば難民の流出は止まり、その後各国が復興を助ければ、国内に逃れた難民400万人と国内の避難者760万人も帰郷できる。だがもしアサド政権が倒れれば、次にはいまも互いに対立抗争を続けているISとヌスラ戦線がシリアの支配権を争って第2の内戦になる公算が大だ。ISかヌスラ戦線のいずれが勝っても難民は安心して帰れず、シリアは混乱を続けてテロ集団の本拠となりそうだ。

 だからロシアだけでなく、米、英、独などもシリア停戦のために、少なくとも当面アサド政権の存続を容認する方向に傾いている。その中でシリアの旧宗主国であるフランスは利権回復の思惑もあってか「アサド退陣」を強硬に主張してきた。だが今回のテロ事件後の16日、オランド仏大統領は議会で「フランスはシリア問題でアサド大統領抜きの平和的解決を目指すが、シリアにおける眼前の敵はISだ」と優先順位を変えた。

 14日ウィーンでの関係17ヵ国の外相級会合ではロシアの和平案を土台として「年内にアサド政権と反体制派の協議を国連主催で行う、6ヵ月以内にアサド政権と反体制派が参加する移行政権を発足させる、18ヵ月以内に国連監視下で選挙を実施し新政権を作る」ことで合意した。

 反政府組織の主力であるISとヌスラ戦線は「テロ組織」として排除することも決めているから、シリア政府を相手に弱小の雑多な反政府勢力が交渉すれば政府側が優位に立つのは明らかだ。一方、米国が支援する「穏健反体制勢力」と称するものの多くはヌスラ戦線と共闘していて、アルカイダとつながっていると見られ、当事国のシリアが参加せず、他国の外相たちが決めた和平へのプロセスが順調に実現するか否か怪しげだ。

●米国はアサド打倒のカギを
宗派対立と読み間違えた

 停戦が実現せず、もしロシアと、それがいま「同盟国」と呼ぶフランスがシリアに地上部隊を派遣し、シリア軍への武器、弾薬、車輛などの援助も増大させて、ISなど反政府軍の拠点を次々に制圧、奪回して行けば米国は窮地に立つ。航空攻撃を続けるだけでは米軍はISを弱らせて、地上部隊の進撃を助けた脇役にすぎず、シリア問題解決の主役は露、仏、シリア軍になり、米国は中東での指導権を奪われる形になりかねない。

 だが米軍の地上部隊を大挙シリアに投入することに対しては、直接ISのテロの被害者となったフランス、ロシアと違い、米国では反対が76%もあるし、派兵の前にシリア政府の同意を得て、シリア軍と連携して戦う必要がある。これまで「アサドは自国民20万人以上を殺した暴虐な独裁者」と宣伝してきた手前、米国がアサド政権と完全に和解し、その味方となってテロ集団と戦うのは政治的に困難だろう。

 アメリカの失敗のそもそもの原因は「アサド家の属するアラウィ派は人口の12%で、74%を占めるスンニ派は抑圧され不満が高まっている。騒乱が起こればスンニ派将兵が大半を占める軍は離反し、アサド政権はすぐ倒れる」との亡命シリア人らの説を信じたことだろう。

 実際にはシリア軍から離反して「自由シリア軍」に加わったのは、総兵力約30万人中、ピーク時で2万人程にとどまり、スンニ派の将兵が多い軍の中核部隊は政府に忠誠を保った。混乱による兵の脱走や徴兵逃れからシリア軍の総兵力は18万人程に減ったが、再編成で陣容を整え2013年から反攻に出て、最重要な西部の都市を次々と奪回した。一方、イスラエルを支持している米国が背後にいることが明らかな自由シリア軍にはシリア国民の支持は乏しく、士気は振るわず、いまではほぼ消滅状態になっている。

 アサド政権の基盤はアラウィ派ではなく、世俗(非宗教)的で近代化を志向し、社会主義的傾向を持つバース党であり、軍の幹部の多くは党員だったから、宗派を問わず政府側に付くのは自然だった。

「アサドは自国民20万人以上を殺した」というのも少し考えれば変だと分かるプロパガンダだ。「自由シリア軍」が反乱を起こし、内戦になり、他国が反徒を支援して長期化したから多数の死者や難民が出た。内乱が起こればそれを鎮圧し治安と国の統一を回復するのは政府の責任だ。南北戦争では62万人の死者が出たし、西南戦争では1.3万人が死亡したが、リンカーンや明治天皇が自国民を殺害した、とは言えないだろう。

 内戦による混乱と自由シリア軍の弱体化に乗じ、アルカイダに属するヌスラ戦線と、人質を取って金を要求するなどの凶悪さからアルカイダにも破門されたISが反政府勢力の主体となったが、ISは「反アルカイダ」で、かつ「反体制派」だから、米国は一時それを支援したが、2014年前半にイラクでISが急速に勢力圏を拡大したため、米国と敵対することになった。

 自由シリア軍はあてにならないため、米国は「新シリア軍」の編成を計画、2016年5月までに5400人の反政府軍を作ろうとしたが、応募したのは100人余で、トルコで訓練した約120人もシリアに戻すと逃亡したり、ヌスラ戦線に投降して武器、車輛を渡すありさまで、米国もその計画はあきらめた。

 米国はいま「穏健な反体制勢力」を支援している、と言うが、その多くはヌスラ戦線と共闘する雑多な徒党だ。「ロシアはIS以外の反政府勢力も航空攻撃をしている」と米国は非難するが、これは「アルカイダを攻撃するのはけしからん」と言うも同然で支離滅裂「テロとの戦いはどうなったのか」とあきれる外ない。そもそも内乱の際、政府側の反乱鎮圧を助けるのは合法だが、反徒を支援するのは「間接侵略」なのだ。

●「新幹線」は日本が抱える
極めて脆弱なテロ標的

 これらの情勢から考えると米国が地上部隊をシリアに出し、IS討伐をする可能性は低く、日本がそれに協力を求められることも考えにくい。ただ、シリアのテロ集団が駆逐され、残党が世界各地に拡散して報復活動をする場合、何らかの形で日本も対処への協力をすることは無いとも断定できない。

 その場合には、日本には新幹線というテロに対し極めて脆弱な目標があることを十分に計算に入れて判断することが必要となる。航空便なら出発地の空港で手荷物などの検査を厳重に行うことでテロを相当阻止できるが、新幹線は停車駅が多く、便数、乗客数もケタ違いに多いから手荷物検査は行いにくい。テロリストが爆薬を詰めたスーツケースを持ち込み、次の駅で降りれば自爆の必要もない。爆発でもし脱線すれば反対方向の列車と衝突し被害が倍増することも起こりうる。

 これに対する有効な策が見当たらない以上、日本が恨みを受けず、狙われないようにすることも重要なテロ対策、と考えざるをえない。

(貼り付け終わり)