『日はまた沈む』で、日本のバブル崩壊を予測し、『日はまた昇る』では、日本経済の復活を予測した、英国のエコノミストとして有名なビルエモット氏が、日経ビジネス電子版に「“イタリア化”する日本、アベノミクスは失敗する。構造改革なき消費増税で景気拡大に終止符」という題で、アベノミクスの経済政策を批判している。
彼が指摘するのは、超金融緩和などの金融政策だけで、アベノミクスが成功したように見えるが、構造改革や自由化改革を伴わなければ、雇用創出や所得拡大、新規の事業投資を促す本当のインセンティブは働かない。
欧州での、イタリアとスウェーデンの経済危機からの立ち直りの政策事例を引き合いに出して、分り易い解説をされている。
イタリアが自国通貨のリラからユーロに切り替えて、金利負担などの改善が進んで、一見大きく立ち直るとみえたが、経済政策の改革が出来ずにいた為に、未だに経済の低迷が続いている。
一方のスウェーデンは、政府が大規模な自由化改革プログラムを導入することで危機に対応した。そしてスウェーデンが95年に欧州連合(EU)に加入したことが、この改革を後押しした。
これはアベノミクスで言う第三の矢で、既存勢力の構造改革や、自由化の風穴が開けられなければ、失敗すると言う警告だ。
各地での経済特区設定等で、既存勢力に風穴が開く政策と言えるのか筆者には疑問であるが、根本的な経済構造を変えずに財政、金融政策を調整したところで、長期的な経済の方向性を転換することはできない。
農業、医療機関などの自民党と関係の強い利益団体に、改革のドリルをねじ込む事が出来るのか、安倍首相の言葉では勢いが良いが、実績がどう花開くかエモット氏に言われるまでもなく、筆者も疑問を感じている。
そして4月からの消費税の増税が始まる。せっかくの家計支出が拡大せずにしぼんでしまって、アベノミクスが消えうせると言う事態にならないように望むばかりだ。
(日経ビジネスより貼り付け)
“イタリア化”する日本、アベノミクスは失敗する
構造改革なき消費増税で景気拡大に終止符
ビル エモット
2014年3月26日(水)
世界の国や地域は、お互いに学び合うことはできるのだろうか。もちろん、そうすべきだろう。なぜなら、国際的なデータや経験は、政策担当者たちにとって豊富な潜在的情報源になっているからだ。今、欧州と日本の間には、共有されるべき、大きく重要な教訓がいくつかある。それは、お互いにメリットをもたらすものだ。ただし、政治家たちがそれに関心を払うかどうかは、定かではない。
政治家は、政治的に都合が良いときにだけお互いの歴史を利用し合うものだ。それゆえ、今年1月、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで、安倍晋三首相は1914年の欧州の悲劇的な歴史を引き合いに出した。東シナ海における中国の自己主張が引き起こす脅威について、世界に警鐘を鳴らすためだ。そして欧州の政策立案者たちは今、日本が近年に経験したデフレを例に挙げて、欧州でその歴史を繰り返さないようにすることの必要性を頻繁に話している。
政府は痛みを伴う教訓を学ぼうとしない
しかし、問題なのは、歴史やほかの国からの教訓はしばしば、民主主義国の政府が無視したい政治的に厄介で痛みを伴う特徴を含んでいることだ。
欧州の各国政府が日本から学ぶべき主な教訓は、デフレは、執拗に続く低成長率という形で、長期的な経済の脆弱性を生み出すということだ。それは、家計所得と政府借り入れという需要の主な牽引役が、いずれも弱い状態のままでいることが許される状況で起こり得る。
1997年以降、日本は公的債務の上昇を抑制しようと財政再建策に舵を切った。それと同時に企業に対しては、正社員よりもパートタイムや非正規社員の雇用を促す労働市場改革を実施した。
その結果、賃金は低下し、家計支出も横ばいか減少した。そして財政政策は基本的に緊縮的だったにもかかわらず、公的債務は増え続けた。もう1つの潜在的な需要の牽引役は事業投資だが、これも常に期待外れだった。企業は大きな新規投資をするよりも、現金を積み上げ債務を減らすことを優先した。
欧州の教訓無視する「アベノミクス」
欧州は今、日本と同じ状況に陥るリスクを冒している。ドイツに導かれ、ユーロ加盟国は財政再建を目指している。大きな債務を抱える南欧諸国では、労働市場改革によって所得は低下。希望があるとすれば、いつの日か、事業投資の増加が欧州を窮地から救ってくれることだが、企業が投資を増やすべき明確な理由も見当たらない。
欧州は今後数年間にわたり、デフレと期待外れの経済成長に耐えることになる。そして、最終的には、誰かがアベノミクスに似た政策を導入することで、欧州を救済する――。合理的に欧州経済の先行きを予測すれば、そうなる。
だが、この予測にも問題がある。それは、アベノミクスそれ自体が、失敗しそうだからだ。なぜか?それは、安倍政権が、欧州の教訓を無視しているからにほかならない。
イタリアが示唆するアベノミクスの顛末
欧州の教訓とは、構造改革や自由化改革を伴わなければ、雇用創出や所得拡大、新規の事業投資を促す本当のインセンティブは働かないということだ。経済構造を変えずに財政、金融政策を調整したところで、長期的な経済の方向性を転換することはできない。
このことを理解するには、イタリアとスウェーデンを見比べてみるのが一番良いだろう。両国とも90年代初頭に大規模な金融危機に直面した。イタリアの場合、その危機は90年代中頃以降の大きな財政再建プログラムにつながった。99年に自国通貨リラを欧州統一通貨ユーロに切り替えることで、政策金利は大幅に下落した。それはいわば、“アベノミクス”型の景気拡大を促す大きな力となるはずのものだった。しかし、そのような拡大は全く起こらず、経済の低迷は続いた。
対照的にスウェーデンでは、政府は大規模な自由化改革プログラムを導入することで危機に対応した。スウェーデンが95年に欧州連合(EU)に加入したことが、この改革を後押しした。つまり、EUの単一市場に参加したことで、貿易と投資に対する障壁が少なくなったのである。
日本にはスウェーデン流の自由化改革が必要
それは、米国と日本、そしてアジア各国が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結によって、今後10年に成し遂げようとしていることと重なる。今やスウェーデンの公的債務は低水準で、過去10年において最も高い経済成長を達成した国の1つとなった。
日本が学ぶべき欧州の教訓は、今やもう明らかなはずだ。自由化改革を軸とした、アベノミクスの3本目の矢を放つことだ。それは、政治的には痛みを伴う。自由民主党を何十年も支持してきた利益団体と衝突し、打ち負かさなければならないからだ。しかも、すべての成果が表れるまで長い年月がかかるために、実行しにくい。
今のところ、農家や製薬会社、医師会など様々な利益団体に対する姿勢やTPP参加交渉への対応の仕方を見る限り、安倍政権は日本がスウェーデンよりもイタリアのようになることを望んでいるように見える。
日本は今、消費増税を間近に控えている。それによって、最近の家計支出の拡大は終わりそうだ。それは、あまり喜ばしい見通しではないが、第3の矢を放ち損なうことによって安倍首相が、自ら選択した結果だろう。
(貼り付け終わり)
彼が指摘するのは、超金融緩和などの金融政策だけで、アベノミクスが成功したように見えるが、構造改革や自由化改革を伴わなければ、雇用創出や所得拡大、新規の事業投資を促す本当のインセンティブは働かない。
欧州での、イタリアとスウェーデンの経済危機からの立ち直りの政策事例を引き合いに出して、分り易い解説をされている。
イタリアが自国通貨のリラからユーロに切り替えて、金利負担などの改善が進んで、一見大きく立ち直るとみえたが、経済政策の改革が出来ずにいた為に、未だに経済の低迷が続いている。
一方のスウェーデンは、政府が大規模な自由化改革プログラムを導入することで危機に対応した。そしてスウェーデンが95年に欧州連合(EU)に加入したことが、この改革を後押しした。
これはアベノミクスで言う第三の矢で、既存勢力の構造改革や、自由化の風穴が開けられなければ、失敗すると言う警告だ。
各地での経済特区設定等で、既存勢力に風穴が開く政策と言えるのか筆者には疑問であるが、根本的な経済構造を変えずに財政、金融政策を調整したところで、長期的な経済の方向性を転換することはできない。
農業、医療機関などの自民党と関係の強い利益団体に、改革のドリルをねじ込む事が出来るのか、安倍首相の言葉では勢いが良いが、実績がどう花開くかエモット氏に言われるまでもなく、筆者も疑問を感じている。
そして4月からの消費税の増税が始まる。せっかくの家計支出が拡大せずにしぼんでしまって、アベノミクスが消えうせると言う事態にならないように望むばかりだ。
(日経ビジネスより貼り付け)
“イタリア化”する日本、アベノミクスは失敗する
構造改革なき消費増税で景気拡大に終止符
ビル エモット
2014年3月26日(水)
世界の国や地域は、お互いに学び合うことはできるのだろうか。もちろん、そうすべきだろう。なぜなら、国際的なデータや経験は、政策担当者たちにとって豊富な潜在的情報源になっているからだ。今、欧州と日本の間には、共有されるべき、大きく重要な教訓がいくつかある。それは、お互いにメリットをもたらすものだ。ただし、政治家たちがそれに関心を払うかどうかは、定かではない。
政治家は、政治的に都合が良いときにだけお互いの歴史を利用し合うものだ。それゆえ、今年1月、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムで、安倍晋三首相は1914年の欧州の悲劇的な歴史を引き合いに出した。東シナ海における中国の自己主張が引き起こす脅威について、世界に警鐘を鳴らすためだ。そして欧州の政策立案者たちは今、日本が近年に経験したデフレを例に挙げて、欧州でその歴史を繰り返さないようにすることの必要性を頻繁に話している。
政府は痛みを伴う教訓を学ぼうとしない
しかし、問題なのは、歴史やほかの国からの教訓はしばしば、民主主義国の政府が無視したい政治的に厄介で痛みを伴う特徴を含んでいることだ。
欧州の各国政府が日本から学ぶべき主な教訓は、デフレは、執拗に続く低成長率という形で、長期的な経済の脆弱性を生み出すということだ。それは、家計所得と政府借り入れという需要の主な牽引役が、いずれも弱い状態のままでいることが許される状況で起こり得る。
1997年以降、日本は公的債務の上昇を抑制しようと財政再建策に舵を切った。それと同時に企業に対しては、正社員よりもパートタイムや非正規社員の雇用を促す労働市場改革を実施した。
その結果、賃金は低下し、家計支出も横ばいか減少した。そして財政政策は基本的に緊縮的だったにもかかわらず、公的債務は増え続けた。もう1つの潜在的な需要の牽引役は事業投資だが、これも常に期待外れだった。企業は大きな新規投資をするよりも、現金を積み上げ債務を減らすことを優先した。
欧州の教訓無視する「アベノミクス」
欧州は今、日本と同じ状況に陥るリスクを冒している。ドイツに導かれ、ユーロ加盟国は財政再建を目指している。大きな債務を抱える南欧諸国では、労働市場改革によって所得は低下。希望があるとすれば、いつの日か、事業投資の増加が欧州を窮地から救ってくれることだが、企業が投資を増やすべき明確な理由も見当たらない。
欧州は今後数年間にわたり、デフレと期待外れの経済成長に耐えることになる。そして、最終的には、誰かがアベノミクスに似た政策を導入することで、欧州を救済する――。合理的に欧州経済の先行きを予測すれば、そうなる。
だが、この予測にも問題がある。それは、アベノミクスそれ自体が、失敗しそうだからだ。なぜか?それは、安倍政権が、欧州の教訓を無視しているからにほかならない。
イタリアが示唆するアベノミクスの顛末
欧州の教訓とは、構造改革や自由化改革を伴わなければ、雇用創出や所得拡大、新規の事業投資を促す本当のインセンティブは働かないということだ。経済構造を変えずに財政、金融政策を調整したところで、長期的な経済の方向性を転換することはできない。
このことを理解するには、イタリアとスウェーデンを見比べてみるのが一番良いだろう。両国とも90年代初頭に大規模な金融危機に直面した。イタリアの場合、その危機は90年代中頃以降の大きな財政再建プログラムにつながった。99年に自国通貨リラを欧州統一通貨ユーロに切り替えることで、政策金利は大幅に下落した。それはいわば、“アベノミクス”型の景気拡大を促す大きな力となるはずのものだった。しかし、そのような拡大は全く起こらず、経済の低迷は続いた。
対照的にスウェーデンでは、政府は大規模な自由化改革プログラムを導入することで危機に対応した。スウェーデンが95年に欧州連合(EU)に加入したことが、この改革を後押しした。つまり、EUの単一市場に参加したことで、貿易と投資に対する障壁が少なくなったのである。
日本にはスウェーデン流の自由化改革が必要
それは、米国と日本、そしてアジア各国が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結によって、今後10年に成し遂げようとしていることと重なる。今やスウェーデンの公的債務は低水準で、過去10年において最も高い経済成長を達成した国の1つとなった。
日本が学ぶべき欧州の教訓は、今やもう明らかなはずだ。自由化改革を軸とした、アベノミクスの3本目の矢を放つことだ。それは、政治的には痛みを伴う。自由民主党を何十年も支持してきた利益団体と衝突し、打ち負かさなければならないからだ。しかも、すべての成果が表れるまで長い年月がかかるために、実行しにくい。
今のところ、農家や製薬会社、医師会など様々な利益団体に対する姿勢やTPP参加交渉への対応の仕方を見る限り、安倍政権は日本がスウェーデンよりもイタリアのようになることを望んでいるように見える。
日本は今、消費増税を間近に控えている。それによって、最近の家計支出の拡大は終わりそうだ。それは、あまり喜ばしい見通しではないが、第3の矢を放ち損なうことによって安倍首相が、自ら選択した結果だろう。
(貼り付け終わり)