ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

擬態するファシズム

2022-09-28 | 時評

25日のイタリアの総選挙で、戦前の独裁者ベニト・ムッソリーニが率いた旧国家ファシスト党の直系に当たる政党「イタリアの兄弟」―「同胞」と訳すのが定訳のようであるが、イタリア語党名Fratelli d'Italiaのfratelli(複数形)は男性の兄弟というニュアンスが強いので(意味的には兄弟姉妹を包括する)、あえて「兄弟」と訳す―が第一党に躍進した(以下、「兄弟」と略記)。

欧州でファシスト政党に直接源流を持つ政党が第一党となるのは戦後初めてのことであり、衝撃的と言える事態である。その点、イタリアでは、つとに2018年の総選挙でポピュリスト系の右派政党「五つ星運動」(以下、「五つ星」と略記)が躍進し、同党を柱とする右翼連立政権が成立したが(拙稿)、連立内の内紛から短命に終わった。

その後、コロナ・パンデミックとロシアのウクライナ侵略戦争に伴う経済危機の中、不安定な連立政権が続いた末の結果が、ファシストの躍進である。「五つ星」はファシスト党とは別筋から出たイタリア・ファーストを旗印とするファースティスト政党であったが、今度はファシスト直系政党の躍進であり、イタリアの右傾化が一層明瞭となった。

もっとも、「兄弟」は現在では単なる保守系右派を標榜し、実際、今般も他の保守系政党と連合を組んでの勝利である。といっても、下院400議席中119議席、上院200議席中65議席を押さえる躍進であり、連立政権の首相に同党の女性党首ジョルジア・メローニが任命される公算が高い。

問題は、同党の現在標榜が真実かどうかである。メローニ氏はファシズムの過去との絶縁を強調しているが、党は反移民政策の強化(海上封鎖)や反同性愛などの差別政策を公然掲げ、「五つ星」のファースティズムを超えた強硬路線を示している。

その点、現代ファシズムについて論じた以前の拙稿でも指摘したように、ファシスト党の後継政党であった「イタリア社会運動」が公式にファシズム路線を放棄し、「国民同盟」に「党名を変更、最終的に新保守系政党「頑張れイタリア」へ合流・吸収されたところ、こうした保守系への吸収に反発するメローニ氏らが2012年に再結成した党が「兄弟」である。

そうした経緯から見て、「兄弟」は今なおファシズムの理念に忠実であり、単なる保守系右派の標榜は世間を欺く擬態に過ぎないという厳しい評価が導かれる。言わば、「擬態ファシズム」である。その意味で、内外のメディアが「兄弟」を形容する極右政党という指称はミスリーディングである。

その点、筆者は、戦後のファシズムの特徴として、議会制を利用して隠れ蓑に隠れた状態で存続する態様を「不真正ファシズム」と呼び、次のように記した(拙稿)。

不真正ファシズムは民主主義を偽装する隠れ蓑として議会制を利用し、議会制の外観を維持したり、完全に適応化することさえもあるため、外部の観察者やメディアからは議会制の枠内での超保守的政権(極右政権)と認識されやすい。実際、単なる超保守的体制と不真正ファシズム体制との区別はしばしば困難であり、超保守的政権が政権交代なしに長期化すれば、何らかの点で不真正ファシズムの特徴を帯びてくることが多い。

ファシストが議会制を隠れ蓑として有効に利用するには、単なる保守系右派に擬態するという戦略が必要となる。「兄弟」の躍進は、そうした戦略を巧みに展開した結果であろう。

実際のところ、「兄弟」の祖党である戦前の旧ファシスト党も総選挙で第一党に躍進して独裁への足掛かりを得たし、史上最凶ファシズムであったドイツのナチスも総選挙で第一党に躍進し、当初は保守系政党との連立政権からスタートしており、選挙はファシスト政党にとって戦前から大きな武器である。

といっても「兄弟」の議席は単独過半数には遠い数字であり、イタリア人の大半が同党になびいたわけではない。イタリアの不安定な連立政治の慣習からして、組閣しても短命で終わる可能性もあるが、これが突破口となって欧州各国で同類政党の躍進が続けば、欧州連合というファシズムの防壁(拙稿)が倒壊することが懸念される。


コメント    この記事についてブログを書く
« 近代革命の社会力学(連載補... | トップ | 近代革命の社会力学(連載補... »