ザ・コミュニスト

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比較:影の警察国家(連載補遺)

2022-06-26 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐1‐5:機動隊―事実上の警察軍

 機動隊は、治安警備及び災害警備を担当する集団警備警察である。このうち、治安警備とは「国の公安又は利益に係る犯罪及び政治運動に伴う犯罪が発生した場合において、部隊活動により犯罪を未然に防止し、又は犯罪が発生した場合の違法状態を収拾する警備実施活動」とされ、まさに機動隊の筆頭任務である。
 戦後の機動隊の沿革は、占領下での集団警備の必要性から、1948年に警視庁に設置された警視庁予備隊を嚆矢とするが、占領終了後、1954年の現行警察制度の創設以来、1962年までに全都道府県警察の集団警備部隊として順次設置されたものである。
 中でも、警視庁機動隊は最も強力であり、現時点で10隊を擁し、自己完結的に警備力を行使する能力を持つが、地方の多くの警察本部では1個隊態勢のため、広域応援部隊として、管区警察局ごとに管区機動隊連隊や管区機動隊、また北海独自の制度として道警察警備隊が配備されている。
 また予備部隊として、必要時にだけ召集される特別編成の第二機動隊も存在するが、この点でも警視庁は特別機動隊と方面機動隊という二重の予備部隊を備えている。
 近年は、一般の機動隊とは別途、専門機能別に対テロ対策に当たる特殊急襲部隊(SAT)や銃器対策部隊、NBCテロ対応専門部隊及びNBCテロ対策部隊 原発特別警備部隊などの専門別部隊の創設も相次いでおり、一般の機動隊が出動する大規模騒乱事案の減少の反面で、「テロとの戦い」テーゼにも対応した機動隊の専門分化が見られる。
 このように、機動隊は基本的に都道府県警察に属しながら、軍隊に類した構制で配備される戦闘警察であり、基幹隊と管区機動隊を併せて1万人を超える要員を擁し、言わば警察軍と呼ぶべき特殊な部門である。
 機動隊の全国指令部に当たるのは警察庁警備局であるが、2019年の制度改正で、同局内に機動隊の運用を主要任務とする警備運用部が設置されたのは、機動隊が言わば国家警察軍のような統合的警備警察組織としての性格を強める第一歩と言え、政治警察としての公安警察と並び、警備警察機能の強化が図られている。

1‐1‐5‐x:特殊警備警察組織

 機動隊とは別途、テロ対策を専門とする特集急襲部隊、空港や官邸など特定の施設を警備する特殊な組織がある。中でも、成田と東京の二大国際空港の警備に関わる部隊である。
 その最大のものは、千葉県警察成田国際空港警備隊である。これは組織上成田国際空港を管轄する千葉県警に属しながら、県警の定員枠外として、全国の都道府県警察から選抜された要員で構成された1500人規模から成る特別警備隊であり、その任務には政治警察としての公安活動も含まれるなど、独自の国家警察に近い性格がある。
 もう一つは、東京国際空港警備に特化した警視庁東京国際空港テロ対処部隊であり、これは東京国際空港の拡張に伴い、2014年に設置されたものである。テロ対処と銘打たれているが、基本的には成田空港警備隊と同様の空港警備組織である。なお、警視庁では如上のSATが機動隊から独立して組織されているため、これも特殊警備組織に相当する。
 ちなみに、警視庁総理大臣官邸警備隊は9.11事件後の2002年に発足した特殊警備組織であり、総理大臣の身辺警護とは別途、官邸施設警備に特化した任務を持つ。

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比較:影の警察国家(連載第62回)

2022-06-26 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐1‐4:サイバー警察の創設

 警察庁の組織構制に関連する近年の重要な改正として、まさに本年2022年4月に新設されたサイバー警察局がある。これは全国都道府県警察によるサイバー犯罪の取締りを統括する警察庁の中央部局であり、1994年に創設されていた情報通信局を改廃したものである。
 従来の情報通信局が警察通信や所管行政の情報管理といった内部業務に対応する部署であったことを改め、近年深刻化するサイバー犯罪への対策に特化した新部局として創設されたのが、サイバー警察局である。
 この新制の特徴として、警察庁の地方機関である関東管区警察局に全国の重大サイバー事案を直接捜査する「サイバー特別捜査隊」を設置したことである。これは中央の警察庁が自ら捜査するものではないが、同庁地方機関が全国を管轄するという変則を通じて、事実上警察庁が直接捜査するに等しく、警察庁が統括管理機関にとどまっていた従来の制度を改変する重要な一歩となる。
 これにより、警察庁が従来にも増して中央統制を強めることになり、都道府県警察の国家警察化が進行することになるという効果の他にも、サイバー警察が中央で統合されることにより、インターネットに対する警察監視が強化されることが想定される。
 その点、つとに情報通信局時代の1999年から同局内にサイバー監視のナショナルセンターとなる情報技術解析課が設置されており、2001年には同課内にサイバーテロ対策技術室が設置され、インターネットを常時監視し、関連情報の集約や分析を行う態勢が整備されてきた。この態勢はそのままサイバー警察局に移管されている。
 さらに、これまた本年成立した侮辱罪の刑法罰則強化とも関連して、政治的な情報統制が強化される可能性も秘めている。その点、侮辱罪は私人のみならず、政治家その他の公人に対しても当然成立する犯罪であるから、政治的な言論が侮辱罪に問われる可能性を拡大し、従来からの公安警察の活動強化と連動することで、「サイバー公安警察」のような影の警察活動が出現することも想定される。
 現時点では発足したばかりであり、国際的関心事でもあるサイバー犯罪対策の一元的強化という趣旨にも対外説明として一理あることは確かだが、今後、サイバー警察が如上の広がりを見せれば、刑事警察と政治警察が複合したより広汎な「情報警察」へと進展する可能性もあり、注視される。

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