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続・持続可能的計画経済論(連載第33回)

2022-06-05 | 〆続・持続可能的計画経済論

第3部 持続可能的計画経済への移行過程

第6章 経済移行計画

(4)「貨幣観念」からの解放
 貨幣経済を廃する持続可能的計画経済への移行過程にあっては、円滑な移行を担保する技術的な諸政策も重要であるが、人々がほとんど無意識のうちに前提としている貨幣という観念から意識的に解放されるというある種の意識革命を促進することも不可欠である。
 現代世界では、あらゆる物やサービスを貨幣と交換で取得するという貨幣交換システムが強固に定着しており、人々は呼吸する空気とほぼ同等レベルで貨幣を無意識の前提としているため、貨幣交換に基づかず、無償または物々交換で回っていく経済システムを想定することができなくなっており、そうした提案を聞いても一笑に付するであろう。
 その点、生物としてのヒトが誕生してからいかにして貨幣交換の観念を習得していくのかは十分解明されておらず、誕生後の母語言語習得のプロセスと同様に謎である。家庭や学校で系統的に貨幣教育を実施しているといった事実はないから、母語言語と同レベルの無意識的な習得過程を経て、ある程度の年齢に達すれば自然に簡単な買い物はできるようになっているというのが大半のヒトの成長過程である。
 そのようにして自然に習得された貨幣観念から人々を解放することは容易でなく、貨幣観念の習得は無意識的に行われるとしても、それからの解放は逆に意識的かつ習練的に行われる必要がある。その過程や方法の考察は、これまでのところほぼ未開拓の行動経済学的な課題である。
 ここでも、ショック療法的に貨幣経済の廃止を即行する策を採るならば、一部の人々は反動から独り占めを狙った大量取得に走り、深刻な物資不足に陥る恐れがある。人間の物欲は貨幣経済下では貨幣の持ち高によって不平等に規制されているが、非貨幣経済下では別のより公平な方法で規制される必要がある。
 物欲が後天的に習得された欲望なのか、生物としてのヒトが生得的に備える欲求なのかは別としても、そうした物欲コントロールも、持続可能的計画経済にあってはその成否に直接関わる重要な課題であり、貨幣観念からの解放と表裏一体の行動経済学的な課題となる。
 それらの課題を負いつつ、貨幣観念からの解放も経済移行計画に組み込んで進めていく必要があるが、大枠として、出発点は情報提供と啓発、次いで限定的な非貨幣経済の試行、最終的には非貨幣経済の完全施行という段階を経過することが最も円滑な移行を保証することになるだろう(詳細後述)。

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