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共産法の体系(連載第39回)

2020-05-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(5)犯則司法②
 前回も触れたように、捜査が終了した後、被疑者が被疑事実を争う意思を表明した場合、事実解明のプロセスは、事実の解明のみに特化した司法機関である真実委員会に託される。
 真実委員会は法律家2名(うち1名は委員長)、法律以外を専攻する有識者1名及び民衆会議の代議員免許を有する一般市民代表2名の計5名で構成される合議体であり、人身保護監の請求に基づきそのつど招集される非常設機関である。
 真実委員会の審議開始前には、証拠関係を整理する予備調査が行なわれる。予備調査員は捜査機関から送致された証拠を検分し、適法性が確認された適格証拠のみを整理して真実委員会に提出する。その際、予備調査員は必要に応じて被疑者・証人等の関係者を召喚聴取することができる。
 真実委員会は罪人を裁く裁判制度ではなく、純粋に事件真相を解明するための制度であるから、訴追専門職としての公訴官(検察官)は存在せず、被疑者も被告発者たる「被告人」とはならず、プロセスの過程を通じて「被疑者」のままである。
 よって真実委員会の審議は刑事裁判に見られるような当事者間での主張立証の応酬にはならず、提出された証拠に基づき事実関係を再構築することに重点が置かれる。そこでは、被疑者も、真実委員会の審議の必要に応じて一個の証人として召喚・聴取されるにすぎない。
 ただし、被疑者を含むすべての証人は真実委員会による召喚・聴取に際して、法曹資格を有する弁務人を付けて、証言の補佐を依頼することができるが、弁務人が代わって証言することはできない。
 真実委員会の審議は原則として公開されるが、少年事件の場合はその親族や被害者のほか、第三者から選ばれる独立傍聴人を含む当事者限定公開とする。
 審議を終了した真実委員会は、解明された事実関係を示す審決を発する。これは刑事裁判の判決に相当するが、「有罪」「無罪」という形式で示されるのではなく、事案の真相を詳述する報告書の体裁で記述的に提示される。従って、被疑者が真犯人と確証できない場合は、「無罪」ではなく、犯行者不詳として記述される。
 真実委員会の審決に不服のある被疑者は人身保護監に対し、再審議を請求することができる。この場合、第一次真実委員会とは全く別個のメンバーによる第二次審議が行われるが、そこでの結論のいかんを問わず、第三審を求めることはできない。
 
 被疑者を真実の犯行者と認定する真実委員会の審決が確定した場合、引き続いて犯則行為者の処遇を決定する矯正保護委員会へ送致される。
 この委員会は矯正保護の専門家のみで構成された常設機関であり、犯行者の犯行内容や犯歴、人格特性、心身の病歴などを科学的に審査した上で、最適の処遇を決定する。少年事件の場合は、少年問題の専門家で構成された矯正保護委員会少年分科会が特別に審査する。
 矯正保護委員会の審議は非公開で行なわれるが、被審人は法律家または矯正保護に関する専門知識を有する有識者を付添人として補佐させることができる。
 矯正保護委員会の決定に不服のある被審人は、矯正保護委員会の控訴審に相当する中央矯正保護委員会に不服審査を請求することができるが、そこでの結論のいかんを問わず、第三審を求めることはできない。
 矯正保護委員会は、決定確定後も犯則行為者に対する処遇の執行から終了までフォローアップする任務を負い、処遇タームの更新の権限を有するほか、処遇の執行状況に対する監督是正の権限も有する。それには、処遇執行中の犯則行為者からの苦情申立てに応じて必要な監督是正措置を取る権限を含む。
 その限りにおいて、矯正保護委員会は犯則司法と同時に、処遇の執行過程での人権擁護を担う護民司法という二つの司法領域にまたがる任務を持つ特殊な司法機関であると言える。

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共産法の体系(連載第38回)

2020-05-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(4)犯則司法①
 犯則司法は、犯則行為の解明及び犯則行為者の処分を目的とする司法の分野を指す。資本主義社会における刑事司法に相当するものであるが、「刑事」と呼ばないのは、共産法には刑罰制度が存在しないからである。
 犯則司法の入り口となるのは、言うまでもなく犯則事実の解明であるが、刑事司法のプロセスでは通常、事実の解明と処罰とが刑事裁判という形で一括的に行われるのに対し、犯則司法においては事実の解明とそれに基づく犯則行為者の処遇のプロセスは明確に区別され、完全に別立てとなる。本来、両プロセスは実質を全く異にするからである。
 犯則事実の解明の端緒は、捜査機関による正式の捜査に始まる。共産主義的捜査は、警察ではなく、専従の捜査機関が遂行する。貨幣経済が廃されることにより、貧富階級差もなく、治安状況が極めて安定に保持されるであろう共産主義社会に警察という強大な治安機関の存在は必要なく、そもそも存在しないからである(参照拙稿)。
 捜査機関は捜査の追行のために必要な場合、市民の人身保護を任務とする司法職の一種である人身保護監に身柄拘束令状や捜索差押令状の発付を請求して強制捜査を行なうことができる。一方、令状によらない現行犯逮捕は防犯を主任務とする準公務員である警防員も行うことができる。
 身柄を拘束された被疑者は、直ちに人身保護監のもとへ召喚され、公開の審問を受ける。その結果、継続的な身柄拘束の必要性がないと判断されれば、人身保護監は釈放を命じなければならない。
 ちなみに、明らかな病死以外の要因による変死体が発見された場合は、捜査機関から独立した公的専門職である検視監による検視が実施される。検視結果は人身保護監が主宰する検視審問会による公開審問を経て最終的に確定される。
 捜査が終了すると、捜査機関が収集した証拠はいったん人身保護監に送致される。人身保護監は改めて被疑者を召喚聴取し、被疑者が全面的に被疑事実を認める場合は、犯則行為者の処遇を決定する矯正保護委員会に事件を送致する。被疑者が被疑事実の全部または一部を否認する場合は、事実を改めて解明するため、真実委員会の招集を決定する。
 ここで改めて伝統的な刑事司法と対比すれば、刑事司法のプロセスにおいて、フランス革命後のナポレオン法典以来、定番となってきた公訴官(検察官)による起訴という手続きは、共産主義的犯則司法においては存在せず、上述のように、人身保護監を介して捜査と事実解明、処遇の各プロセスが有機的につながる体系となる。
 なお、訓戒以上の処分を要しない軽微な犯則行為や少年の非行については、防犯活動の一環として、警防員の正式文書による訓戒限りで処理され、正式の捜査は省略される。

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