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共産論(連載第26回)

2019-04-11 | 〆共産論[増訂版]

第4章 共産主義社会の実際(三):施政

(5)警察制度は必要なくなる

◇犯罪の激減
 近世以降の国家制度においては、日常的な治安維持に専従する警察という制度が定番となった。警察=policeはまさに都市国家ポリスと同語源であり、直接にはフランス語で統治を意味する言葉であった。つまり国家統治を担保する強制権力が警察権であり、それを組織的に行使するのが警察機関である。
 その意味で国家と警察は相即不離の関係にあり、国家ある限り警察制度の需要もなくならないだろう。実際、警察は国家の護持そのものを存在理由としており、反国家的犯罪者の検挙を重要な任務としていることも世界共通である。
 とはいえ、国家という制度そのものが廃される共産主義社会では論理必然的に警察制度も必要なくなる、と短絡できるわけではない。警察機関の最も大きな役割が日常の犯罪取り締まりにあることも世界共通だからである。犯罪現象ある限り、警察制度の廃止は夢想として失笑されるであろう。
 しかし、共産主義社会では事情を大きく異にする。これまでにも述べてきたように、貨幣経済が廃される共産主義社会においては、少なくとも金にまつわる犯罪は絶滅する。そして、犯罪の大半に金が絡んでいるという事実を考えれば、金にまつわる犯罪の絶滅は治安情勢のまさしく革命的な向上を保証するであろうことは確実である。
 とすれば従来、ほとんど人類的常識となってきた警察制度の必要性にも疑問が呈されるであろう。少なくとも、重厚な物理力を備えた警察制度は必要なくなる。とはいえ、人間の哀しいさがとして、他人の権利を侵害する行為は共産主義社会でも根絶される見込みはなさそうである。
 しかし、そうした権利侵害行為はもはや道徳的な罪悪としての犯罪というよりは、反社会的な犯則行為として把握されることになるだろう。そうした犯則行為を取り締まる機関の必要性は否定されないが、それがもはや伝統的な警察制度である必要はなくなるのである。以下、そうした非警察的な取り締まりのあり方の一端を示してみよう。

◇警防団と捜査委員会
 犯罪の取り締まりは、多くの諸国で防犯から捜査まで警察が包括的に所管する体制が確立されつつつあるが、それにより警察が強大化し、程度差はあれ、警察国家化が進行している。これに対して、共産主義的な犯則の取り締りは、防犯と捜査を明確に分離する。
 そのために、地域社会の最前線で主として防犯活動に当たる民間組織として、警防団が設立される。警防団は市町村ごとに組織される民間の防犯組織であるが、単なる啓発団体ではなく、その要員は基幹職員を除き基本的に非常勤ながら警備任務に必要な技能を訓練された準専門職である。  
 警防団の活動は交番を通じて行なわれるが、警防団はあくまでも民間団体であるので、正式な捜査権限は持たず、基本的には巡回警邏活動と通報を受けての犯行現場への初動(即応対処を含む)、現行犯人の逮捕が任務となる。ただし、ごく軽微な犯則については事案調査と犯行者に対する訓戒の権限を持たせることは合理的であろう。
 一方、警防団からの連絡・通報を受けて正式捜査に従事する機関として、捜査委員会が設置される。これも警察という形態ではなく、非警察的かつコンパクトな専門捜査機関である。
 委員会という名称のとおり、捜査官から昇進した委員と外部委員から構成される合議機関である。委員会は個々の事案の捜査を指揮することはないが、捜査員の執務規準となる捜査規範の制定・改廃を主要任務とし、組織の改廃・新設や人事・懲戒を統括する。
 捜査委員会の本体は科学捜査や緊急介入を含む捜査活動に係る専門知識を持つ専任捜査員が主体となる捜査機関であり、警防団限りで処理される軽微事案を除く事件が発生した場合、上記警防団の初動を引き継いで正式捜査に当たることになる。この機関は、ある程度広域を所管すべく、地方圏(連合型の場合は準領域圏)の単位で設置されることが望ましい。(※)

※捜査委員会は、小さな領域圏では領域圏の単位で設置することが合理的である。連合領域圏では、連合と準領域圏のレベルに二重に設置することになるだろう。また統合領域圏でも、中央に全土レベルの捜査や指名手配を管理する捜査共助機関を設置することは有益である。いずれの形態でも、地区ごとに支部が設置される。

◇交通安全本部と海上保安本部 
 多くの諸国で警察の権限となっている交通取り締りについては、交通秩序を維持し、自動車事故の処理・捜査を専門的に行なう機関として、地方圏(または準領域圏)の単位で交通警邏隊を統括する交通安全本部が設立される。
 また交通安全本部の海洋版と言える機関が、沿岸警備隊を統括する海上保安本部である。この機関は、海洋の一体性に鑑み、領域圏の単位で設置することが効率的であろう。(※)

※すでに見たように、共産化された世界において排他的な領海を有する主権国家は存在せず、地球上の全海域は基本的に世界共同体(世共)が管理権を持つが、各領域圏は世共との間で協定された所管海域を保持し、その海域の優先航行及び漁業権を保障される。

◇特殊捜査機関
 捜査委員会とは別に、特定の犯則事件の捜査に限局された専門捜査機関として、いくつかの特殊捜査機関が設置される。交通安全本部と海上保安本部も交通事犯に関してはそうした特殊捜査機関の一つであるが、それ以外に―
 例えば、無主物である土地に対する不法占拠や不法取引の摘発を専門的に行なう一種の経済捜査機関として、土地管理機構捜査部がある。これは、名称どおり土地管理機構という全土機関の一部門である(第13回を参照)。
 さらに、次回見るように、主として公務員の汚職行為を審理する一群の弾劾裁判の制度があり、この弾劾裁判にかかる事案を集中的に捜査し、弾劾法廷に訴追する機関としての弾劾検事団も特殊捜査機関の一環に包含される。これは事案ごとにそのつど設置される非常設型の捜査・訴追機関であり、弾劾検事は全員その都度任命された法律家で構成される。
 その他、各領域圏の実情に応じて、その他の特殊捜査機関を設置することは裁量の範囲内であるが、特殊捜査機関の数が増大しすぎることは、捜査機関同士での管轄争いなど無用の混乱の元となることが留意される。


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