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共産法の体系(連載第38回)

2020-05-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(4)犯則司法①
 犯則司法は、犯則行為の解明及び犯則行為者の処分を目的とする司法の分野を指す。資本主義社会における刑事司法に相当するものであるが、「刑事」と呼ばないのは、共産法には刑罰制度が存在しないからである。
 犯則司法の入り口となるのは、言うまでもなく犯則事実の解明であるが、刑事司法のプロセスでは通常、事実の解明と処罰とが刑事裁判という形で一括的に行われるのに対し、犯則司法においては事実の解明とそれに基づく犯則行為者の処遇のプロセスは明確に区別され、完全に別立てとなる。本来、両プロセスは実質を全く異にするからである。
 犯則事実の解明の端緒は、捜査機関による正式の捜査に始まる。共産主義的捜査は、警察ではなく、専従の捜査機関が遂行する。貨幣経済が廃されることにより、貧富階級差もなく、治安状況が極めて安定に保持されるであろう共産主義社会に警察という強大な治安機関の存在は必要なく、そもそも存在しないからである(参照拙稿)。
 捜査機関は捜査の追行のために必要な場合、市民の人身保護を任務とする司法職の一種である人身保護監に身柄拘束令状や捜索差押令状の発付を請求して強制捜査を行なうことができる。一方、令状によらない現行犯逮捕は防犯を主任務とする準公務員である警防員も行うことができる。
 身柄を拘束された被疑者は、直ちに人身保護監のもとへ召喚され、公開の審問を受ける。その結果、継続的な身柄拘束の必要性がないと判断されれば、人身保護監は釈放を命じなければならない。
 ちなみに、明らかな病死以外の要因による変死体が発見された場合は、捜査機関から独立した公的専門職である検視監による検視が実施される。検視結果は人身保護監が主宰する検視審問会による公開審問を経て最終的に確定される。
 捜査が終了すると、捜査機関が収集した証拠はいったん人身保護監に送致される。人身保護監は改めて被疑者を召喚聴取し、被疑者が全面的に被疑事実を認める場合は、犯則行為者の処遇を決定する矯正保護委員会に事件を送致する。被疑者が被疑事実の全部または一部を否認する場合は、事実を改めて解明するため、真実委員会の招集を決定する。
 ここで改めて伝統的な刑事司法と対比すれば、刑事司法のプロセスにおいて、フランス革命後のナポレオン法典以来、定番となってきた公訴官(検察官)による起訴という手続きは、共産主義的犯則司法においては存在せず、上述のように、人身保護監を介して捜査と事実解明、処遇の各プロセスが有機的につながる体系となる。
 なお、訓戒以上の処分を要しない軽微な犯則行為や少年の非行については、防犯活動の一環として、警防員の正式文書による訓戒限りで処理され、正式の捜査は省略される。


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