オフィスの机の上に鎮座ましましているノートPC。これ一台で表計算から大規模なデータベース処理まで何でも出来る、汎用計算機です。そんな物があるにもかかわらず、何故かキーボードの脇には当然のように電卓が置かれており、簡単な計算はもっぱらそれを叩いて行うのが常です。簡単な計算をするためにわざわざExcelに計算式を入れたり、スタートメニューから電卓を立ち上げるより、机に放り出してあるリアル電卓を叩いた方が楽ですよね。
その電卓も、今でこそ100円ショップで買えるくらいにぞんざいな存在になってしまい、種々雑多なメーカーが生産する当たり前すぎて価値が暴落した電子機器ですが、1960年代から1970年代にかけては、電機メーカーが社運を賭けて低価格化、小型化を推し進めてきた、今で言うPCや携帯電話みたいな存在でした。当時、電卓と言えば、革命的な価格を実現した「カシオミニ」のCASIOや、世界初の市販液晶電卓「EL-805」のシャープが名を馳せていました。現在でもこの二社は電卓を作り続けています。(今、手元にあった電卓3種が全部CASIO製だった・・・)
PCや携帯電話みたいな存在、と表現しましたが、その方向性にはもちろん「多機能化」というものもあります。多種多様な演算が行える関数電卓や、BASIC言語でプログラムが打ち込めるポケットコンピューターなど、様々な種類の電卓が生まれています。ポケコンはすっかり過去の遺物になってしまった感がありますが、関数電卓に関しては、理数系の人間にとってはなじみ深い物でしょう。ちなみに、私も学生時代はだいぶんお世話になりました・・・卒検がちょっとアレだったので、最後の一年はほとんど使わなかったですけれど。
その関数電卓ですが、日本メーカーの製品ですと、CASIO、SHARPに加えてCANONがメインストリーム・・・というよりも、ほとんどこの三社の独占市場ですが、海外に目を向けるとhpことヒューレットパッカードの電卓が存在感を放っています。
そのhpの電卓でもっとも特徴的なのは、やはり逆ポーランド記法(RPN)入力方式でしょう。RPNとはとは、「1+2=」を「1 2 +」と書くとってもマニアックな計算方式。プログラミングの世界では割と一般的な「スタック」という概念を使って計算します。この方式だと、「(1+2)×(3+4)=」が「1 2 + 3 4 + ×」と書けるので、通常の電卓だとメモリーを使わなくてはならないところでも、直感的に計算できるのが大きな利点です。・・・あくまで慣れれば、ですけれど。
私は、SONYのCLIEというPlamOS機を使っていた時、この逆ポーランド記法の電卓アプリを長い間使っていまして、いつかhp電卓の実機を手に入れようと目論んでいました。しかしながら、突然の電卓事業からの撤退と同時に、hp日本法人も電卓の扱いを中止。その後、hp本社では電卓の生産を再開したものの、何故か日本hpでの扱いは再開されず、途方に暮れていました。
それにしても、インターネットって偉大ですよね。ある日、何気なくhp電卓についてググってみると、日本のAmazonにまさかのヒット。輸入業者がAmazonを通じて販売していたのです。2ヶ月ほど悩みましたが、我慢しきれなくなって「HP 35s」をゲットしてしまいました。理由は、もっとも安価なRPN方式電卓だったから。電卓に再参入してからのhpは、世界市場を見据えての低価格な通常入力方式の関数電卓と、マニアックなRPN電卓に完全に二極化してしまい、手ごろな価格のヤツではRPN入力は出来なくなっています。別に安いヤツでも良かったんだけど・・・
それでも、長年夢見ていたhpのRPN電卓をようやく手にすることが出来て感無量です。複雑な計算をすることは今後皆無に近いけれど、ちょっとした括弧付き計算をする機会は結構多いので、家で職場で、末永く使っていきたいと思います。