Cafe de Kerm ~毒味ブログ~

物言いにも、珈琲にも、もれなく毒が混入している可能性が無いこともないです。

ローマ字についてのちょっとしたコラム

2008-11-12 19:58:52 | Thinkings

 日本語と言えば、仮名漢字交じりの、今まさにここにあるような表記方法が一般的。しかしながら、キーボードから入力する場合、この表記方法を”直接”書き表そうとするとそれなりに手間がかかります。そのために使われるのがカナ入力、そしてローマ字入力となります。元々プログラム目的でPCを使い出した私にとっては選択肢なんて無いに等しかったですが、覚えるキーが少なくてすむローマ字入力は、非常にスタンダードな入力方法になっています。 

 ローマ字でもカナでもいいですが、ひらがなをそのまま入力していくこの方式に無くてはならないものが「変換」という作業。日本語には1,945字の常用漢字がありますが、JISコードによって規定されているのは6,355字。つまり、日常的に目にするものだけで2,000字を超える漢字があり、その他を含めれば、整理されたとはいえ6,000文字以上の漢字を目にする機会があると言うことです。
 アルファベットの26文字に比べればとんでもなく多い漢字ですが、日本語を簡潔に、意味を損なわずに書き記すためには無くてはならないものです。

 しかしながら、昔の人の中にはそう思わなかった人もいるんですよねぇ・・・

 明治のはじめ、そしてGHQの占領政策のさなか、「漢字を廃止してローマ字(カタカナ)をつかおう」という一派が結構な勢力を持っていたのです。明治初頭は、国全体が「西洋かぶれ」になっていた時代でして、

「国際化の波に乗り遅れないよう、習得の困難な漢字を廃止してローマ字にしよう」

という運動が起こりました。矢田部良吉、外山正一といった人が作った「羅馬字会」というところが最大勢力だったようですね。しかしながら、ローマ字を制定していく過程で生まれた「ヘボン式ローマ字」と「日本式ローマ字」の二つの綴り方双方の支持者が分かれることで、会は分裂。その後、ローマ字表記について内閣から「訓令式ローマ字」と呼ばれる新たな表記が出されるも、二つの会派は歩み寄ろうとしません。そんなことでは普及も進むはずもなく、新たな動きとしては戦後を待たなくてはなりませんでした。

 というのも、戦後、GHQは占領政策の一環として

「識字率を向上させ、民主化を進めるために、習得の困難な漢字を廃止してローマ字にしよう」

という政策をとりかけたのです。そのときにローマ字論者の歓喜はいかばかりか想像に難くありませんが、その後の調査で日本人の識字率が高いことがわかり、この政策を撤回しています。
 その後、二つの会派は融和に転じ、今に至りますが・・・まあ、ローマ字が漢字に取って代わることが無かったのは現状の通りです。

 ちなみに、「漢字を廃止してカタカナをつかおう」という「カナモジカイ」なる団体もそれなりに大きな勢力を誇っていました。戦後の国語改革において国語審議会での一大勢力となっており、先に出てきた常用漢字の前進である「当用漢字」も、漢字を全廃する前段階として同審議会が制定したものだったのです。

 しかしながら、ローマ字論、カナモジ論双方に対する議論はあっけないほど簡単に終演を迎えます。

 1966年、中村梅吉文部大臣は

「今後のご審議にあたりましては、当然のことながら国語の表記は、漢字かなまじり文によることを前提とし、……」

と、双方の思想家たちをばっさり切り捨ててしまったのです。「当然」とまで言っていますしね。これにより、ローマ字、カナモジ両論の研究は一気に熱が冷めていきました。日本の漢字表記は夢想家たちの手から守られることとなったのです。

 しかしながら、ローマ字論者の研究は無駄ではありません。彼らの研究により、今PCで使われているローマ字入力の規格の礎ができたわけですからね。えーと、カナモジカイは・・・

 さて、二つに分かれたローマ字論者は今も二つの団体として残っていますが、その中の「財団法人日本ローマ字社」という団体のホームページにおいて、「もし日本語がローマ字表記になっていたら」というif体験をすることができます。要するに、全部ローマ字で書かれているんですね。
 一度そのホームページを訪れてみるとよくわかると思いますが、まだ英語であった方が読みやすいんじゃないでしょうか。読んでいくのにとんでもなく時間がかかりますし、意味をとるのも一苦労です。これが採用されていたらと思うと正直ぞっとしませんが・・・1966年で駆逐されていて本当によかったと思いますよ、個人的には。

Zaidan- hôzin Nippon-no-Rômazi-Sya (NRS)