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世界最大人口国の歪みを撃つ女性たち  「燃え上がる女性記者たち」

2023-10-21 | 映画

記者クラブに入れない報道関係者は排除され、政権をヨイショ発言する記者も混じる。首相をはじめ、政府側の会見ではひたすらパソコンに向かい、二の矢、三の矢も継がない迫力のない質問。よく見られる日本のメディア状況だ。それと同列には論じられないことはもちろん分かる。しかし、記者自身がインド社会でカーストの最下層のダリトで女性ばかりの「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」記者たちの奮闘ぶりはどうだ。

冒頭、ダリト女性への度重なるレイプ事件を記者のリーダー格であるミーラが取材するシーン。警察に訴えても相手にしてもらえないと泣き寝入りする被害者と家族。ミーラ自身、妻が働くことに必ずしも理解があるわけではない夫がいる。子どもの世話をはじめ、家事に追われ、暗い狭い路地を通うミーラに危険がないわけではない。違法鉱山で児童労働者として働いて育ったスニータ。違法鉱山はマフィアが牛耳っている。その実態を果敢に取材、地元政治家の腐敗も明らかにしていく。彼女らの取材で活躍する強力なアイテムがスマホである。

英語もできない、今まで周囲になかったデジタル機器は不安という記者らの懸念をよそに「私が教えるから大丈夫」と熱心に教えるミーラ。そして、記者らが取材先で動画を撮り、すぐに編集、動画サイトで配信。瞬く間にフォロアーは100万超えに。関心を寄せる層が全国に広がれば、対応を余儀なくされる地域もある。報道から15日で電気が通った、渋々ながら動く警察当局など。

突撃取材とも思える手法とともに、警察内部での取材や地方の行政幹部の執務室での取材などが許されている現状も驚きだ。そして軽くあしらわれても諦めないしつこい取材も。ダリト、女性と蔑まされてきた者たちが、自己の生存意義と社会改革のために小さな力を集合させて前進するエネルギーが美しい。

しかし、「世界最大の民主主義国」と自称するインドは、今や中国を凌ぐ世界一の人口国となり、英語の語学力を背景にITの世界で急成長を遂げている。先ほど開催されたG20では、グローバルサウスの盟主と振る舞い、G7先進国を出し抜いた声明を発表するほどの「イケイケ」である。そしてその歪み、裏面も大きくドス黒い。

「民主主義国」と言いながら、実態はモディ政権の人民党一党独裁である。14億もの人口を抱え、隣国パキスタンや中国との軍事衝突もある。カーストをはじめ深刻な格差と、化学工場事故に代表されるような公害、ダム工事などに伴う強制移住もあるが、これら差別や環境破壊について、国民を徹底的に弾圧している現実がある。モディ政権の手法は「服従の政治」と言われるが、その実態は何の根回し、国民への説明もなく大々的に打ち上げた政策について有無を言わせず断行し、既成事実を積み上げていく恐怖政治である。映画ではモディが主導するヒンズー至上主義の危うい熱狂も描かれる。

ジャーナリズムが第4の権力としてその存在意義をあらしめるのは、この「服従の政治」を地方の一つひとつの事件、事態を丹念に暴くことにより、頂点たる政権の腐敗を撃つことだ。そしてその根底にはカーストと女性への差別を温存するインドという国そのものが内包する反民主主義の様相を少しずつ崩していこうとするメディアが本来持つべき信念がある。国民への説明もなく大々的に打ち上げて既成事実化していく手法は、自公の安倍政権や大阪での維新政治を彷彿させる。日本にもミーラらが活躍する「カバル・ラハリヤ」が必要だ。

女たちは気づいている……

“専門家”に任せてはおけないことに (『誇りと抵抗』アルンダティ・ロイ)

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