kenroのミニコミ

kenroが見た、読んだ、聞いた、感じた美術、映画、書籍、舞台、旅行先のことなどもろもろを書きなぐり。

歩くことで道は開ける  サン・ジャックへの道

2007-05-05 | 映画
コリーヌ・セローの社会風刺は厳しくシニカルであるが同時にとても面白い。出世作「赤ちゃんに乾杯!」(85年)で男性の育児というフェミニズムの主張をあたふたとする独身男性3人が次第に親性(父性ではない!?)に目覚めていく様をコミカルに描いて見せたし、ドラッグや売春で女性を食い物にする男や、家庭責任をすべて母・妻に押し付ける身勝手な男たちをぎゃふんと言わせた痛快物語「女はみんな生きている」(01年)もスリリングな展開ながら笑ってしまった。フェミニズムの旗手と呼ばれるセローの目は男に厳しいのではなく、人間に優しいのだと改めて感じ入ったのが本作。
無神論者のセローが選んだテーマは「巡礼」。それも差別的因習、旧弊の象徴とも目されるカソリックの3大聖地の一つサンティアゴ・デ・コンポステーラに仲の悪い兄弟と信仰とは無縁の人たちがツアーに参加するという物語。会社を経営、仕事仕事で財はなしたようだが妻がアルコール中毒で自身も服薬に頼る毎日の長男ピエール。失業中の夫を抱える教師の長女クララ。アルコール依存で一文無しの次男クロード。亡母の遺産相続のために嫌々巡礼の旅に出るがいがみ合ってばかり。3人に加え、お気楽気分で参加したティーンの女の子2人に、そのうちの一人に恋するアラブ系移民の子とその従兄弟ラムジィ。読み書きのできないラムジィはメッカに行けると信じている。抗がん剤の影響か髪がすべて抜け落ちてしまったのを隠すため終始ターバンやスカーフを巻いたマチルド。そして妻が友人と不倫中、病気がちの子どももいて家のことが気にかかりっぱなしのガイドのギイ。
仲違いしていた兄弟が和解、自分勝手だったピエールは他人に優しくなり、若いツーリストも自立していくロードムービーでお決まりの人間成長物語であるが、人間を中心に映していたのが、次第に雄大な自然にカメラが移っていくのも憎い演出。こわーい教師のクララがラムジィに読み書きを教え、修道院で「イスラムは泊まれない」と言う教会の人間に「おれたちは家族だ。」と啖呵を切ってみんなのホテル代を持つピエールもいい人になったものだ(バラドールが美しい!)。とてもわかりやすい。巡礼の合間にクララがカソリックの封建制、女性差別性、過去の侵略性を痛切に批判するが、一方で「巡礼」という宗教的行為を健康や物見遊山、他者からの見栄えなど自己目的に使う現代人への皮肉な視点もちらり。しかし、巡礼とは言わないまでも目的地まで歩き続けるという行為は誰にとっても誰がなしてもなにがしか神聖ではある。民主党の菅直人も四国八十八ヶ所巡りをしていたっけ。
歩くことが健康によいことは今更言うまでもないが(ウォーキング人口は確実に増えているそうな)、アスファルトやコンクリート地面よりやはり山を越え、丘を下り、時にはそこかしこにたむろする動物たち、移動することのない植物たちに包まれながら前に行くのは、精神衛生上もよいに違いない。そして一人より二人、背景の違った人たちと。
本稿を認めている時点ではまだフランス大統領選の結果は出ていないが、排外主義的な傾向のサルコジ氏よりフェミニストのロワイヤル氏の方が「違いに寛容」という点でよいだろう。しかし、そのロワイヤル氏は市場主義のブレア信奉者でもある。
スカーフを巻いた生徒は放校するという厳しい宗教政策を選んだフランス。セローの訴える違う人間同士がぶつかりあってこそ和が生まれるとするヒューマニズムは実を結ぶだろうか。
コメント
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