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成田 正の楽屋入り口 by STHILA COMMUNICATIONS

ビル・チャーラップ

2007-07-16 23:45:52 | ●Weblog
 今月発売のピアノ・トリオ盤の中では、ビル・チャーラップのヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ『オータム・イン・ニューヨーク』(Blue Note/EMIミュージック・ジャパン)が抜群に良かった。なにしろ、プロデューサー&エンジニアのジョエル・モスが継投したのが良かった。ジャンルを超えた広角打法でグラミーを獲得し、映画やミュージカルなどでエミー・ノミネートを積み重ねてきたこの才人の音に対するこだわりは、Blue Noteでは前作に当たる『プレイズ・ジョージ・ガーシュイン』のインナー・フォトで痛いほど分かった。ピアノ・トリオと4管ホーンズをふた部屋で録音するのは合理や功利とは別のところにある、ライヴの音調や位相最優先の気概を忘れないでいるからに違いない。ヴィーナス盤の音を決定づけるキャサリン・ミラーとの違いはどうやらそこにありそうだと、スティーヴ・キューンのバードランド・ライヴと聴き比べたら疑問符が吹っ飛んだ。ヴァンガード・ライヴに名盤が多いのは衆知のこと。では、何がそうならしめるかというと、あのクラブがよく言われるところの「聖域」ではなく、むしろ「梁山泊」と呼ぶのがお似合いの性を育んできたからだ。ジョエル・モスの録音は、最新の技術と古来の取材術で、その波動をつかんでいる。03年9月録音が今出てくることにあれっと思ったものの、聴き終えればどうだろう、ひと口に言えば蒸らしに蒸らした感じ、達成感満点の創作原稿なら、寝かせる限り寝かせて出稿した、そんなテイストに喉が渇いて張り付きそうになった。中でもとりわけ、「ザ・レイディ・イズ・ア・トランプ」での尻テーマに、「ネフェルティティ」の一節をひょいと引用するところ。これは実にカッコいい。ライナー・ノーツも、既出の専門誌レヴューも、そのことにノータッチとはいただけないなあ、チャーラップ当人にも重箱の隅の出来事じゃあないと思えるんだけど。8月7日から、この録音メンバーのふたりのワシントンと丸の内Cotton Clubに4日間シットイン。これは聴き逃せない。