たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

新刊『来るべき人類学1 セックスの人類学』

2009年04月04日 08時22分13秒 | 性の人類学

ちょうど2年前の4月に、Nさんと飲みに行った。1年間のフィールドワークから帰国してすぐのことだった。人類学は、このところ外から見ていると元気がない。そのあたりを意識しながら、本をつくろうということになった。テーマは、性。わたしには手に余るといった。Nさんは、一人で作れないならだれかパワフルな人を連れてきたらいいと言った。わたしは、即座に、Sさんに話をした。本づくりの方向を打ち出し、Sさんの大活躍で、若手&中堅で、人材を集めた。広義の人類学としての霊長類学、動物行動学からも。そのうちに、性を含めて、人類学のクラシックなテーマを、人間探究の線に沿って、シリーズ化しようという話になった。人類学の学問の歴史性という内部の問題に閉じこもったきり、マスターベーションで快感を得ているだけのようなポストモダン人類学、同時代的には示唆的であるかもしれないが、現代の価値観に従属していることを起点にする、むなしいだけの応用人類学という、今日の人類学の流れを断ち切り、それらとははっきりと一線を画するような、人間探究をベースにおく人類学を発信しようと。来るべき人類学の展望を示すようなシリーズをつくろうと。性はやがて、セックスということばに置き換わり、グロテスクなまでにセックスの民族誌記述を追い求めるなかで、一冊の本ができ上がった。来るべき人類学の第一巻として、『セックスの人類学』が、4月15日に刊行される。

目次
序 「セックスの人類学」手ほどき 奥野克巳
第I部 セックスの霊長類学/人類学
1 ニホンザルのセックス~同性愛行動から見えてくる「能動的受容性」 竹ノ下祐二
2 ケニア・ルオ社会の「儀礼的」セックスとは 椎野若菜
第II部 セックスと社会
3 セックスをめぐる葛藤~オランウータンを中心に 久世濃子
4 セックスをめぐる男性の「不安」~パプアニューギニア・テワーダ社会から
5 男が戦いに行くように女は愛人をもつ~
  南部エチオピアの父系ボラナの結婚と紺外のセックス 田川玄(←タイトル長すぎ!)
第III部 生殖から遠いセックス
6 ヒジュラとセックス~去勢した者たちの情交のありかた 國弘暁子
7 「遊び」としてのSMプレイ~「おんなのこ」の視点から 熊田陽子
第Ⅳ部 セックスと身体
8 性器の正規利用とは?~鯨類のセックスのユニークさを概観しつつ 篠原正典
9 セックスと性具~プナンのペニス・ピン 奥野克巳
10 越境としての「性転換」~「性同一性障害者」による身体変工 市野澤潤平

奥野克巳・椎野若菜・竹ノ下祐二<共編>『セックスの人類学』春風社、2009年。

(写真;矢萩多聞さんが、谷中安規の版画を、天才的な直観で表紙にしてくれた;手にとってみれば、分かると思う、この方の装丁にかけるパッションが。矢萩さんは、いうならば、本は読むものではなく、触れて味わうものだという、未開人的な思考を、本の装丁に導入した。)


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