たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

2015年の読書記録

2015年12月11日 19時52分50秒 | 文学作品

年明け、(1)木村友佑『聖地Cs』から読み始めた。放射能を浴びた牛の世話のボランティアをめぐる話で、考えさせられた。で、読書会で読んだ(2)モーパッサン『脂肪の塊・テリエの館』。人間の美徳と醜悪さの見事な記述。芥川賞の(3)小野正嗣『九年前の祈り』の後に、(4)スウィフト『ガリヴァー旅行記』は、小人の国から巨人の国、空飛ぶラピュタの国、馬と人間がコミュニケーションして暮らす国などへの旅行記。痛快だった。(5)(6)ゲーテ『ファウスト』。悪魔メフィストフェレスと手を組んだファウストをめぐる戯曲。(7)モーパッサン『女の一生』は、希望と絶望が交差する女の物語。(8)足立陽『島と人類』は、ある意味、人類学小説。ヌーディズムと進化の話で、印象深く残っている。読書会で読んだ(9)ジョン・ボールドウィン『ジョヴァンニの部屋』。同性愛をめぐるアメリカ黒人文学。(10)中野重治『菜の花』。北陸に生まれ育った少年から見た世の中が描かれる、明治から大正にかけての物語。深い味わいのある小説だった。それから、犬の小説を読み始めた。(11)コナン・ドイル『パスカヴィル家の犬』、(12)川端康成『禽獣』、(13)ウィーダ『フランダースの犬』、(14)安岡章太郎『犬をえらばば』、(15)中勘助『犬』、(16)馳星周『走ろうぜ、マージ』、(17)小林多喜二『人を殺す犬』が、犬関連の、どちらかというと研究も視野に入れて読んだ文学だが、とりわけ、(15)が凄かった。インド僧が慾にとりつかれて、女ともども犬になって、獣慾の限りを尽くすという話。(18)小沼丹『椋鳥日記』は、ゆる~い感じのロンドンの散歩のエッセイ。(19)深沢七郎『楢山節考』は、ゼミで読んだ。個人的には、4回目か5回目。読書メモを取りながら。このプナン版が書きたい。書けないだろうな・・・読書会で読んだ(20)タブッキ『供述によるとペレイラは…』は、中年で病気を患った新聞記者が、ファシズム的な政治背景の中で、一組のカップルに出会うことによって、大きく変容する物語。面白い。つづいて、(21)(22)タブッキ『インド夜想曲』『レクイエム』も読んだ。うまい書き手だ。同じイタリア作家で、(23)イタノ・カルヴィーノ『木のぼり男爵』は、父親に反抗して一生を木の上で暮らした男爵の話。この自然児の話には唸った。で、(24)ヘミングウェイ『老人と海』(25)原田ひ香『東京ロンダリング』。東京で、人が死んだアパートのロンダリングの話。このあたりから、研究との関連で、だんだんと鳥ものにシフトしていった。(26)梨木香歩『渡りの足跡』。鳥に対するこの作家のまなざしは、冴えている。(27)加藤幸子『心ヲナクセ体ヲ残セ』には、驚いた。「ジーンとともに」は、鳥の視点からの小説、脱人間主義なのである。(28)戸川幸夫『爪王』は、鷹と狐の対決の物語。(29)大岡昇平『武蔵野夫人』は、人間模様だけでなく、自然描写が印象に残っている。(30)梨木香歩『家守譚』は、人間や自然、この世やあの世が交差する物語。(31)丸山健二『夏の流れ』は、イヌワシを描いた「稲妻の鳥」を目当てに読んだのだが、全編を通じて秀作だった。芥川賞を取った(32)又吉直樹『火花』を読んだが、文章がうまい。(33)ブルック・ニューマン『リトル・ターン』は、ターン(コアジサジ)の物語。(34)シェリー『フランケンシュタイン』は、読書会で読んだ。ロボット以前の時代の間の物語。(35)大岡昇平『野火』は、戦時の人食いとともに、克明な自然描写が印象に残っている。読み疲れた時には、西村賢太か(36)長嶋有『パラレル』。友とひっついたり離れたりする、同時代的な「私」の話。(37)出久根達郎(選)『犬のはなし 古犬どら犬悪たれ犬』。これは、全編、犬の物語。小諸に行くのに合わせて、(38)島崎藤村『千曲川のスケッチ』を読み、(39)柳田國男『野鳥雑記』は、味わい深い民俗学。次の二冊は、間のうちのアンドロイドについて。まずは、(40)カレル・チャペック『ロボット』。ロボットという語は、チャペックから来ているらしい。(41)フィリップ・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を読んだが、たんなるSFではない。未来社会の人間とアンドロイドが混淆する世界の物語で、文学性が高い。(42)梨木香歩『ぐるりのこと』は、境界をめぐるエッセイ。(43)稲見一良『ダック・コール』は、素晴らしかった。こんな作家がいるとは、迂闊にも、まったく知らなかった。石に鳥の絵を描く男との出会いの後に見た、鳥をめぐる6つの夢の物語。(44)井上ひさし『東慶寺花だより』は、肥大化した江戸のアジールの物語。読書会で読んだ。(45)遠藤周作『海と毒薬』は、ゼミで読んだ。捕虜の生体解剖をめぐる日本人。読ませる。(46)梨木香歩『ピスタチオ』は、主人公の女性の日常からウガンダへ飛んで憑霊信仰の奥深くへと旅する話。梨木香歩、恐るべし。(47)ポール・ギャリコ『スノー・グース』では、孤独な男と少女の交流が描かれる。(48)大江健三郎『個人的な経験』は、バードという主人公の男の個的な経験と心情の吐露なのだが、これがなかなかいい。今さらながら、(49)ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』を読んだが、ある種の幻幽譚だ。(50)ブッツァーティ『神を見た犬』。玉石あるが、短篇の名手だ。病院をテーマにした「七階」とホテルを扱った「グランドホテルの廊下」が最高。読書会に出された(51)ケストナー『飛ぶ教室』(52)倉狩聡『かにみそ』は、人間と蟹という捕食者と餌食が反転するホラー小説。年末までに、もう2冊くらい読めるかもしれない。