たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

道具としてのペニス・ピン

2008年06月14日 22時52分25秒 | 性の人類学

はたして、どこまで考えていたのやら憶えていないが、とにかく、ペニス・ピンについて書いておきたい。

霊長類学は、近年、ボノボやゴリラなどにおいて、同性愛やマスターベーションなどの性行動が見られることを報告している。それに対して、初期人類の段階で、どのような性行動が行われていたのかは、ほとんど分かっていない。

新石器革命以前の主生業であった狩猟採集を生業とする社会は、地球上に現存する。プナン社会もその一つである。現代の狩猟採集民の性行動のパターンが人類の初期形態だということはできないが、それは、狩猟採集の社会形態と性行動の関係を考えるための手がかりとなるのではないだろうか。

しかしながら、狩猟採集民の性行動の研究蓄積はきわめて少ない。カラハリの女性ニサのライフヒストリーのなかで語られる性経験や、カラハリのグイ社会において行われている夫婦交換をめぐる研究などに限られている。

狩猟民たちは、どのように、性的な欲望と快楽を、暮らしのなかに埋め込み、文化のうちにおさめようとしたのだろうか。それは、ヒトの性行動を、人類の起源にまで遡って考えるための出発点である。

ところで、ヒトは、手づかみで食べることから、箸やスプーンなどの道具を用いることへと移行・進化したとされる。道具使用については、そのように考えるのが適当であるように思われる。

しかし、狩猟民プナンは、主食のアメ状のサゴ澱粉を食べるときに、箸状のもの(pit)を用いてきた。1960年代以降、米を食べるようになっても、周辺の焼畑民のように手づかみではなく、逸早くスプーンを用いるようになった。プナンは、サゴヤシを食べ物として採集し始めた時期に、食事のさいに道具を用い始めたのではあるまいか。

そのようにして、周囲の環境に合わせて道具を製作し、使用することは、道具使用を行うようになった
人類の最初期からの顕著な特徴だったのではないだろうか。ペニス・ピンについてもまた、そのような道具の一つとして考察することができるのではないだろうか。

しかし、問題は、石器などの道具使用ではなく、より進んだ認知をベースとして生み出されたと考えられる道具が、どのようにして、ヒトの社会において生み出されたのかを考える手がかりを探すのが、一般に、難しいことである。
性的快楽を高める道具としてのペニス・ピンは、どのように、ボルネオ島の人びとの間で、生み出されて、広まったのだろうか。いまのところ、謎は謎として残る。

(写真は、淵野辺駅前キャンパスに掛かる「セックスの人類学」の懸垂幕)