落葉松亭日記

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台湾・蔡英文新総統

2016年05月24日 | 政治・外交
5月20日、台湾総統に女性初の蔡英文氏が就任した。
台湾、蔡英文新総統が就任 女性初 2016年05月20日 11:43 発信地:台北/台湾
http://www.afpbb.com/articles/-/3087702

【5月20日 AFP】(写真追加)台湾で20日、民進党の蔡英文(Tsai Ing-wen)氏が総統に就任した。女性総統は台湾で初めて。中国と距離を置く蔡政権の誕生により中国との関係が急激に冷え込んでいる。

 蔡氏は台北(Taipei)市内の総統府で就任宣誓を行った。同氏は1月の台湾総統選で圧勝。国民党の馬英九(Ma Ying-jeou)前政権が8年にわたって進めてきた対中融和路線から転換する方針を示していた。

 馬氏は有権者の間で中国に接近し過ぎているとみられ、支持が急落していた。中国は現在も台湾を自国の領土の一部とみなしている。(c)AFP

西村眞悟の時事通信 平成28年5月23日(月)
http://www.n-shingo.com/

西の蔡英文と東のトランプ

台湾の総統に民進党の蔡英文氏が就任した。

これは、李登輝元総統が、 一九九六年(平成八年)に初めて台湾国民の直接選挙による台湾総統システムを実践して総統に就任し、 四年後の二〇〇〇年の任期満了を以て総統を辞任して、 次の総統も国民の直接選挙によって選ばれるという 「民主主義のサイクル」を完結させたこと。

その結果として、
二〇〇〇年(平成十二年)の総統選挙によって民進党の陳水扁が総統に選ばれ、
二〇〇八年(平成二十年)陳水扁総統の任期満了によって国民党の馬英九が総統に選ばれ、
二〇一六年(平成二十八年)馬英九総統の任期満了によって民進党の蔡英文が総統に選ばれて、
この度の総統就任式に至ったのだ。

一九四九年十月一日、中国共産党の毛沢東は中華人民共和国政府樹立を宣言した。
是によって、大陸での拠点を名実ともに喪失した中国国民党の蒋介石は、 南京の国民党政府を台湾に移転させて中華民国とした。
そして、蒋介石の国民党政府は、一九八九年(平成元年)までの約四十年間、 台湾に戒厳令を布く「白色テロ」による強権によって台湾を支配した。

蒋介石は一九七五年(昭和五十年)四月に死去して息子の蒋経國が総統を引き継ぎ、 一九八八年(昭和六十三年)、蒋経國の死去により副総統の李登輝が総統に就任する。
そして、李登輝は、戒厳令を廃止して、台湾で初めての総統直接選挙実施に向かってゆく。

前記の通り、 総統の直接選挙は、八年後の一九九六年に実施されるのであるが、 この直接選挙によって選ばれた総統は何処の総統なのかといえば、 それはまさしく、「台湾の総統」である。
もはや、蒋介石および蒋経國時代の「大陸を含む中国の総統」ではない。
この時、台湾はまさに中国(支那)とは別個の存在となり、 両者は「一つの中国」と「一つの台湾」の関係に入ったのである。
これが台湾史および国際政治史における李登輝の最大の功績である。

李登輝は、 総統就任中も、台湾と中国との関係を「特殊な国と国との関係」としていたが、 総統退任以降は、「台湾」という呼び名の普及に努め、 台湾は中国ではない「台湾という独立国家」であるという主張を明確に展開して 国民意識の覚醒を促し続ける国家的指導者となった。
これが李登輝のアジア史における偉大な足跡である。

この結果、かつて四十年間の戒厳令を布いて台湾を支配していた国民党も、 二〇〇八年に権力に復帰しても馬英九の総統の任期満了に伴って、 次の総統を国民の投票に委ねるほかなく、 本年一月、民進党の蔡英文に敗北してゆくのである。

なお、李登輝氏の総統時の中国との関係を 「特殊な国と国との関係」とした表明は 蔡英文氏の助言によるものと言われている。

五月二十日の、蔡英文新総統の総統就任演説は、 この台湾の歴史の流れを背景にして行われたのだ。
この歴史の流れとは、 「中華世界との訣別」であり「支那的文明の崩壊」である。
従って、その就任演説の最大の特徴は、 台湾は中国の一部とする「一つの中国」原則に言及しなかったことである。
何故なら、台湾は中国(支那)ではないからである。

そして、翌二十一日、蔡政権は、 馬前政権が改訂した「中国色」の強い学習指導要領を廃止すると発表した。
また、蔡政権は、馬政権が対中宥和を進めたために低下した国防力を、 これから増強して「国防自主」の方向に進み始める。
馬政権は、中国の南シナ海におけるスプラットリー諸島埋め立てと軍事基地化の 軍事拡張路線に異議を唱えず、アメリカの「航行の自由作戦」に理解を表明しなかったが、 蔡政権は、国際法の重視を表明しており、 中国の露骨な覇権拡張路線に馬政権のように追随する気配はない。

これに対して中国共産党政府も、 理想的な対応をしている。
即ち、台湾との対話・連絡メカニズムの停止である。
中国政府は、台湾への制裁措置として、台湾からの輸入の制限や、 中国人観光客の台湾渡航制限や他の経済制裁に踏み込むらしい。

そんなこと、どうでもいいではないか。
もともと中国経済は成長の鈍化が激しく、もはや未来はない。 ほっといても輸入は減少している。
また、あのイナゴのような中国人観光客が減少すれば、 台湾人は改めて「台湾人の台湾」のすばらしさを知るであろう。

さて、 以上が我が国とは一衣帯水の西にある海洋国家の台湾で起こっている情勢である。
これから台湾は「国防自主」の方向に向かう。
当然、東シナ海と南シナ海を暴力的に支配下に置こうとする中国と緊張が高まってゆく。
この台湾と我が国の共通の原則と国家戦略は、 自由と民主の原則であり支那に対する自主独立による繁栄の確保である。
ここにおいて、敵の敵は味方であるという言葉を思い起こすまでもなく、 我が国は、この国際状況から、 「国防自主」の努力を続けながら、 台湾と連携して自国の安泰と東アジアの安定を確保することを迫られている。

そのことを確認のうえで、 太平洋の東を眺めれば、 アメリカには、日本や台湾や韓国に対して、 今までのようにただで艦隊や航空機や海兵隊を派遣するのはいやじゃ、 俺たちが必要ならカネを払えと、 非常に分かり易いことを言って大統領候補になった男トランプが出てきた。

しかも、このトランプがモグラのように勝手に出てきたのではない、 あの自分や身内が何をしているのか不明の習近平なら絶対に耐えられない つまりすぐ化けの皮が剥がされる数々の予備選挙をくぐって出てきたのだ。

このように、 西には蔡英文、東にはドナルド・トランプ、 太平洋の西からと東から、 我が国に、「戦後からの脱却」による自主独立と日台米の連携を促す強い動きが胎動し始めたのだ。
後に振りかえれば、 この度の蔡英文の台湾総統就任が、 中国共産党政権の崩壊と東アジアの新時代の幕を開けたものと位置付けられるような気がする。

お問い合わせ:西村眞悟事務所
TEL:072-277-4140 E-mail:sakaioffice@n-shingo.com
http://www.n-shingo.com/

[AC通信:No.592 Andy Chang (2016/05/21)
http://www.melma.com/backnumber_53999

蔡英文総統の就任演説

5月20日に台湾の新政権の式典で蔡英文総統が就任演説をした。新 政権の政策や抱負を述べたものだが、総体的に好意を持って迎えら れ、一般民衆や外国の参加者、メディアから好意的な評価を受けた。 反対や批判はもちろんあったが、中国は台湾統一を主張しているの で台湾人政権に圧力を加えるのは当然で、国内でも國民黨系、急激 独立派などの批判は当然のことだ。

蔡英文はまず最初に台湾の諸問題を挙げて、これらの問題解決に向 けての綱要を発表した。台湾の直面している諸問題とは、年金改革、 教育改革、資源とエネルギー問題、老年層の増加、環境汚染、国家 財政の不足、司法改革、食品安全、貧富格差の増大、社会安全など である。

これら諸問題の解決について蔡英文は新政権の「五大主軸」を述べ た。五大主軸とは、
1.経済構造改革、
2.社会安全網の強化、
3. 社会の公平正義、
4.区域の和平と発展と対中国関係、
5.主軸外 交と世界進出、
である。
安倍政権の「三つの矢」に似た蔡英文の「五 つの主軸」である。

メディアが特に注目したのは対中国関係で、就任前から度々あった 中国の圧力、蔡英文が「一つの中国」と「92共識」に言及するかだ った。だが蔡英文は「中台関係の過去と将来の発展」について述べ ただけであったので直ちに中国と国民党から批判があった。中国は 台湾統一の野心があり、蔡英文の就任で台湾の独立意識が高まるこ とを憂慮しているので、「92共識」と「台湾は中国の一部」を演説 に入れるよう圧力を加えていた。だから中国が不満を表明すること は予期していたことである。

蔡英文が92年から続いて中国との外交交渉についていた真実を述 べたのは正しい歴史である。
台湾は中国の領土ではないが現政権は 中華民国であって台湾ではない。
蔡英文が台湾政府とか、台湾の総 統と述べたら間違いである。

一部の台湾人は蔡英文が台湾政府と言えば独立の表現だと期待して いたが事実は曲げられない。但し蔡英文が南アジア諸国との経済合 作(南進政策)や自主外交の発展を述べ、中国と対話を続けると述べ たのは中国の恫喝を怖れぬと言う態度の表明である。

●経済改革について

台湾の経済は馬英九政権の8年で急激に悪化した。馬英九の親中路 線、ECFA(経済合作協定)などの結果、資本が中国に投入され台湾 が空洞化したのである。蔡英文は新南向政策と貿易の多元性を主張 し、馬政権の単一市場(中国)政策から離脱すると述べた。

また台湾経済の主体性と諸国間の共同と平等性を強調したのは中国 の併呑型経済から抜け出す「脱シナ経済」の主張である。

蔡英文は過去の経済は諸国の技術に頼る代理生産だったが今では限 界に達しているので、以後は自主技術の発展と生産で永続性のある 経済を強調し、限りある資源の保持と環境汚染の防止に努力すると 述べた。

●社会安全問題

社会問題の要点は年金改革、犯罪率の増加、少子化と老人化社会の 問題である。世界諸国も同じような問題を抱えている。これらはい ずれも解決の難しい問題だが、台湾の年金問題は既に破産寸前と伝 えられている。年金問題の解決は焦眉の問題である。

次にあげられるのは犯罪防止と社会安全の強化についてである。凶 悪犯罪の発生は社会の不安を増加させる。民衆の道徳教育、民衆と 警察の関係、民衆と独裁政治の関係、司法不信など、馬政権の放漫 を改善強化することである。

●社会の公平と正義について

台湾の社会問題で特筆すべきは「転型正義」、つまり独裁時代の暴政 や政治犯罪の歴史真相の摘発と解明である。蒋介石政権の特権階級 の略奪、無辜な人民の殺害事件などの解明、証拠隠滅など、真相の 解明、処罰と賠償である。

真相を解明で何が出来るか。処罰と賠償と和解、国民が満足するま で行えるか。複雑で困難な問題であり、長期の調査と正義の執行が 必要である。。特権階級の略奪、警察の横暴、司法の不正など多くの 難問を抱えている。これは台湾人民が新政権に最も期待しているこ とだ。蔡英文が就任演説で社会の公平と正義、転型正義を述べたこ とに期待したい。

●区域の和平と発展

区域とは東南アジアのことである。中国の横暴な侵略がアジア諸国 の不満を募らせているが、馬英九は親中路線で中国の覇権について 或は沈黙し或は加担していた。中国は台湾人の敵であるが在台中国 人は中国に加担していた。中国は台湾独立に反対、武力攻撃で恫喝 している。「現状維持」とは台湾が中国と交渉を続けると同時に平和 と自由民主を主張し、アメリカが中国の侵略防止を表明している状 態のことである。独立を表明しないことが現状維持なのである。

蔡英文の「区域の平和」とは東南アジア諸国と連合して中国の覇権 に対応する、経済と政治で中国に対抗する連合である。
つまり現状 維持とは独立を言わない独立で徐々に台湾の自主性を確立する長期 戦のことだ。

「区域の平和」とは嘗ての大東亜共栄圏と同じである。
蔡英文は「和平の擁護者」と「領土の主権」を主張したのである。

●自主外交の発展

中国は世界各国が中華民国と断交して台湾を孤立させることを強要 してきた。蔡英文の自主外交の発展とは積極的に諸国との外交関係 を回復させることで台湾が中国とは違う国と言う主張である。だが この主張は台湾が中華民国を名乗る限り無効である。

台湾の自主発展は中華民国ではなく台湾国でなければならない。だ が蔡英文が自主外交を主張したことは中華民国を捨てて台湾国に変 身する決心の表明かもしれない。自主発展で正名制憲を実施し、中 華民国から台湾国に変わることが可能か、何時になるかは不明であ る。それでも蔡英文が就任演説で自主外交を表明したことは台湾の 独立願望の表れであると思って見守っていきたい。

AC通信バックナンバーは:http://www.melma.com/backnumber_53999