3/14毎日新聞福岡版が伝えております。
-てんこもり九州・山口:「火山国」九州の再生可能エネルギー 地熱発電に期待 /九州-
風力、太陽光、バイオマス……。昨年3月の東京電力福島第1原発事故を機に、再生可能な自然エネルギーへの関心が高まっている。地球の熱をエネルギー源として利用する「地熱発電」もその一つだ。安定電源として期待が高く、政府は利用促進に向けた規制緩和策の検討を進めている。火山の多い九州は、いわば「地熱王国」。だが、普及には壁もある。地熱が電気を生み出す現場を訪ね歩き、その将来性を探った。【阿部周一、黒澤敬太郎】
◇八丁原発電所、発電量年間平均約70%
大分道九重インターチェンジを降り、標高1700メートル級のくじゅう連山へ続く山道を車で約40分。前日の雪が残る阿蘇くじゅう国立公園で、ひときわ白く濃い蒸気が丘の向こうから顔をのぞかせた。九州電力八丁原発電所(大分県九重町)。総出力計11万キロワットを誇る、我が国最大の地熱発電所だ。
「去年から見学に来る方が多いんですよ」。秋好真人所長が出迎えてくれた。併設する展示館の来場者は10年に約3万3000人だったが、大震災があった昨年は4万人台に達したという。原発事故を機に高まる自然エネルギーへの関心が、ここにも表れている。
八丁原発電所は2基の発電機を持つ。1号機(5万5000キロワット)は全国で5番目に古い77年に運転を開始。90年に同じ出力の2号機が完成した。
発電所には稼働中の井戸が十数本ある。深さはいずれも約2000~2500メートル。その先は、マグマだまりで熱せられた300度近い高温の地下水の層「地熱貯留層」に達している。井戸を伝って噴き出す蒸気が発電用タービンを回している。発電の仕組みは基本的に火力と同じだが、違うのは、火力のボイラーに相当するのが、地熱の場合は「地球」というわけだ。
蒸気と一緒に噴き出す熱水からも、熱水の圧力を下げることでさらに蒸気を取り出し、発電に利用。余った熱水は再び井戸で地下へ戻している。
発電機が置かれた建屋は、天井が高い体育館のような建物。屋内をタービンの駆動音が包む。人の気配はほとんどない。運転管理は約2キロ離れた九電大岳地熱発電所から遠隔操作で行っている。
八丁原は全国の地熱発電所の中でも「優等生」と評価される。最大の理由はその利用率の高さ。北海道や東北には計画出力に比べて実際の発電量が20%台にとどまる地熱発電所もあるのに対し、八丁原は年間平均約70%。どの井戸からどれだけ蒸気を取り出し、余った熱水をどの位置にいくら戻すかという「地下のコントロール」(秋好所長)がうまくいっていることなどが勝因だ。そのために、九電は地下水温を各所でモニタリングして、直接見ることのできない地熱貯留層を三次元コンピューターグラフィックスで再現し、将来予測に役立てている。
八丁原の発電量を火力でまかなおうとすると年間21万キロリットルの石油が必要となる計算だ。巨大事故のリスクや二酸化炭素排出が少ない安定電源として期待は高まる。
◇中・小規模地熱が脚光、温泉地・霧島や小浜の取り組み
八丁原発電所に代表される大規模地熱は数万キロワットの出力が得られる一方、技術的にもコスト的にも開発に困難が伴う。そこで今、脚光を浴びているのが、数千~数百キロワット単位の中・小規模地熱だ。
日本有数の温泉地、霧島温泉郷(鹿児島県霧島市)の「霧島国際ホテル」は84年、地下400~250メートルから噴出する約140度の蒸気を利用した地熱発電設備を導入した。浴用に約40度まで冷まし、その際に発生する蒸気で発電タービンを回す。出力は20~50世帯分に相当する100キロワット。ホテルの電力の4分の1をまかなう。全国から見学者が訪れており、竹下卓・取締役営業部長は「設備費などのコストはかかるが、火山の恵みである地熱の力を知ってもらい、もっと普及してほしい」と語る。
「日本一熱量の多い温泉」をうたう長崎県小浜温泉郷では、100度近い国内有数の温泉熱を利用し、今までくみ上げながらも捨てていた「未利用湯」で発電する計画が進んでいる。新年度から2年間、温泉の熱で、沸点の低いアンモニア水などを蒸発させてタービンを回す「バイナリー発電」の実証実験が始まる予定だ。
この発電方式だと新たな井戸を掘る必要はなく、温泉が枯れる心配がない。地元の観光業者らは昨年、「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」を設立。温泉と地熱発電を一緒にPRし、地域づくりにもつながっている。
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■ことば
◇バイナリー発電
150度に満たない比較的低温の蒸気・熱水でペンタン(沸点36度)やアンモニア(マイナス33度)など沸点の低い液体を加熱し、その蒸気でタービンを回す発電方式。通常の地熱発電は地下の蒸気で直接タービンを回すが、この方式は地下の蒸気で媒体を熱して別に蒸気を取り出すため「バイナリー」(「二つの」という意味)の名が付いている。九電八丁原発電所では04年2月に実証試験を始め、06年から営業運転(出力2000キロワット)している。
◇再生可能エネルギー固定価格買い取り法
太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及を促進するため、再生エネルギーによる発電分をすべて電力会社が決まった価格で買い取るよう義務づける法律。菅直人前首相の「退陣3条件」の一つであることから注目され、昨年8月に成立した。7月の施行に向けて、現在各電源の価格が協議されているが、買い取り価格が高く設定されれば、再生エネルギー普及に役立つ半面、電気料金の引き上げにつながる可能性もある。
◇発電電力量の構成比率
経済産業省の「エネルギー白書」によると、国内の10年度の発電電力量(一般電気事業用)に占める各電源の割合は、火力(LNG、石炭、石油)58.3%▽原子力30.8%▽水力8.7%▽新エネルギー1.2%--となっている。停滞が目立つ新エネルギーのうち、地熱はわずか0.3%に過ぎない。ただし、全国の大半の原発が運転停止した11年度は比率が大きく変わるとみられる。
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◇九州の主な地熱発電所
【九州電力】 場所 出力 運転開始
大岳 大分県九重町 1.25万キロワット 67年 8月
八丁原1号 〃 5.5万キロワット 77年 6月
八丁原2号 〃 5.5万キロワット 90年 6月
八丁原バイナリー 〃 2000キロワット 06年 4月
滝上 〃 2.75万キロワット 96年11月
山川 鹿児島県指宿市 3万キロワット 95年 3月
大霧 鹿児島県霧島市
同県湧水町 3万キロワット 96年 3月
【温泉ホテル】
別府杉乃井 大分県別府市 1900キロワット 81年 3月
霧島国際 鹿児島県霧島市 100キロワット 84年 2月
-引用終わり-
-てんこもり九州・山口:「火山国」九州の再生可能エネルギー 地熱発電に期待 /九州-
風力、太陽光、バイオマス……。昨年3月の東京電力福島第1原発事故を機に、再生可能な自然エネルギーへの関心が高まっている。地球の熱をエネルギー源として利用する「地熱発電」もその一つだ。安定電源として期待が高く、政府は利用促進に向けた規制緩和策の検討を進めている。火山の多い九州は、いわば「地熱王国」。だが、普及には壁もある。地熱が電気を生み出す現場を訪ね歩き、その将来性を探った。【阿部周一、黒澤敬太郎】
◇八丁原発電所、発電量年間平均約70%
大分道九重インターチェンジを降り、標高1700メートル級のくじゅう連山へ続く山道を車で約40分。前日の雪が残る阿蘇くじゅう国立公園で、ひときわ白く濃い蒸気が丘の向こうから顔をのぞかせた。九州電力八丁原発電所(大分県九重町)。総出力計11万キロワットを誇る、我が国最大の地熱発電所だ。
「去年から見学に来る方が多いんですよ」。秋好真人所長が出迎えてくれた。併設する展示館の来場者は10年に約3万3000人だったが、大震災があった昨年は4万人台に達したという。原発事故を機に高まる自然エネルギーへの関心が、ここにも表れている。
八丁原発電所は2基の発電機を持つ。1号機(5万5000キロワット)は全国で5番目に古い77年に運転を開始。90年に同じ出力の2号機が完成した。
発電所には稼働中の井戸が十数本ある。深さはいずれも約2000~2500メートル。その先は、マグマだまりで熱せられた300度近い高温の地下水の層「地熱貯留層」に達している。井戸を伝って噴き出す蒸気が発電用タービンを回している。発電の仕組みは基本的に火力と同じだが、違うのは、火力のボイラーに相当するのが、地熱の場合は「地球」というわけだ。
蒸気と一緒に噴き出す熱水からも、熱水の圧力を下げることでさらに蒸気を取り出し、発電に利用。余った熱水は再び井戸で地下へ戻している。
発電機が置かれた建屋は、天井が高い体育館のような建物。屋内をタービンの駆動音が包む。人の気配はほとんどない。運転管理は約2キロ離れた九電大岳地熱発電所から遠隔操作で行っている。
八丁原は全国の地熱発電所の中でも「優等生」と評価される。最大の理由はその利用率の高さ。北海道や東北には計画出力に比べて実際の発電量が20%台にとどまる地熱発電所もあるのに対し、八丁原は年間平均約70%。どの井戸からどれだけ蒸気を取り出し、余った熱水をどの位置にいくら戻すかという「地下のコントロール」(秋好所長)がうまくいっていることなどが勝因だ。そのために、九電は地下水温を各所でモニタリングして、直接見ることのできない地熱貯留層を三次元コンピューターグラフィックスで再現し、将来予測に役立てている。
八丁原の発電量を火力でまかなおうとすると年間21万キロリットルの石油が必要となる計算だ。巨大事故のリスクや二酸化炭素排出が少ない安定電源として期待は高まる。
◇中・小規模地熱が脚光、温泉地・霧島や小浜の取り組み
八丁原発電所に代表される大規模地熱は数万キロワットの出力が得られる一方、技術的にもコスト的にも開発に困難が伴う。そこで今、脚光を浴びているのが、数千~数百キロワット単位の中・小規模地熱だ。
日本有数の温泉地、霧島温泉郷(鹿児島県霧島市)の「霧島国際ホテル」は84年、地下400~250メートルから噴出する約140度の蒸気を利用した地熱発電設備を導入した。浴用に約40度まで冷まし、その際に発生する蒸気で発電タービンを回す。出力は20~50世帯分に相当する100キロワット。ホテルの電力の4分の1をまかなう。全国から見学者が訪れており、竹下卓・取締役営業部長は「設備費などのコストはかかるが、火山の恵みである地熱の力を知ってもらい、もっと普及してほしい」と語る。
「日本一熱量の多い温泉」をうたう長崎県小浜温泉郷では、100度近い国内有数の温泉熱を利用し、今までくみ上げながらも捨てていた「未利用湯」で発電する計画が進んでいる。新年度から2年間、温泉の熱で、沸点の低いアンモニア水などを蒸発させてタービンを回す「バイナリー発電」の実証実験が始まる予定だ。
この発電方式だと新たな井戸を掘る必要はなく、温泉が枯れる心配がない。地元の観光業者らは昨年、「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」を設立。温泉と地熱発電を一緒にPRし、地域づくりにもつながっている。
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■ことば
◇バイナリー発電
150度に満たない比較的低温の蒸気・熱水でペンタン(沸点36度)やアンモニア(マイナス33度)など沸点の低い液体を加熱し、その蒸気でタービンを回す発電方式。通常の地熱発電は地下の蒸気で直接タービンを回すが、この方式は地下の蒸気で媒体を熱して別に蒸気を取り出すため「バイナリー」(「二つの」という意味)の名が付いている。九電八丁原発電所では04年2月に実証試験を始め、06年から営業運転(出力2000キロワット)している。
◇再生可能エネルギー固定価格買い取り法
太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及を促進するため、再生エネルギーによる発電分をすべて電力会社が決まった価格で買い取るよう義務づける法律。菅直人前首相の「退陣3条件」の一つであることから注目され、昨年8月に成立した。7月の施行に向けて、現在各電源の価格が協議されているが、買い取り価格が高く設定されれば、再生エネルギー普及に役立つ半面、電気料金の引き上げにつながる可能性もある。
◇発電電力量の構成比率
経済産業省の「エネルギー白書」によると、国内の10年度の発電電力量(一般電気事業用)に占める各電源の割合は、火力(LNG、石炭、石油)58.3%▽原子力30.8%▽水力8.7%▽新エネルギー1.2%--となっている。停滞が目立つ新エネルギーのうち、地熱はわずか0.3%に過ぎない。ただし、全国の大半の原発が運転停止した11年度は比率が大きく変わるとみられる。
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◇九州の主な地熱発電所
【九州電力】 場所 出力 運転開始
大岳 大分県九重町 1.25万キロワット 67年 8月
八丁原1号 〃 5.5万キロワット 77年 6月
八丁原2号 〃 5.5万キロワット 90年 6月
八丁原バイナリー 〃 2000キロワット 06年 4月
滝上 〃 2.75万キロワット 96年11月
山川 鹿児島県指宿市 3万キロワット 95年 3月
大霧 鹿児島県霧島市
同県湧水町 3万キロワット 96年 3月
【温泉ホテル】
別府杉乃井 大分県別府市 1900キロワット 81年 3月
霧島国際 鹿児島県霧島市 100キロワット 84年 2月
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