じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

桐野夏生「日没」

2021-03-05 10:00:19 | Weblog
★ 中学1、2年生の学年末テストが終わった。テスト対策が終わり、ホッとしたので、桐野夏生さんの「日没」(岩波書店)を読んだ。

★ 総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会という聞き慣れない役所から、小説家「マッツ夢井」に召喚状が届く。読者からの提訴があったので、事情聴取の上、宿泊研修を受けてもらうというのだ。

★ 「強制」とは書いていなかったが、それを匂わす文面。彼女は、そこへ向かうことにした。しかし、そこは「療養所」と呼ばれる「収容所」だった。政府にとって不都合な作家や風俗を紊乱する過激な性表現を用いた作家、創作上の設定とはいえ差別的発言を描いた作家たちが収容されているという。

★ 最小限の職員との接触以外、人との交流を断たれ、孤独と不安の中で療養という名の「洗脳」が行われる。抗議も抵抗も許されない。それは「反抗」とみなされ拘束という懲罰を受ける。精神疾患と診断され、薬漬けの拘束。自ら死を選ぶか、それとも転向するか。極限状態の中で、終盤を迎える。

★ 「収容所」での生活場面は少々退屈だが、それは読者を作品に引き入れるトリックなのかも知れない。

★ 表現の自由が「自主規制」される時代、危機感を感じる表現者ならではの作品だ。ふと気づけばいつしか戦前の「検閲」が復活しているなんてことになりかねない。

★ スターリン時代の強制収容所を描いたソルジェニーツィンの「イワン・デニーソヴィッチの一日」(木村浩訳、新潮文庫)。主人公は最後の場面で、懲罰を受けず、重労働にも回されず、食事を食べ、病気にもならなかった1日に満ち足りた幸福感を感じている。極限状態にあるにもかかわらず。生きる強さなのか、それともそのささやかなプラス思考こそが生を留める方策なのか。

★ より大きな視点で見れば、人はみな「シャバ」という収容所の住人なのかも知れない。
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