じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

石持浅海「心臓と左手」

2021-03-03 22:36:22 | Weblog
★ 石持浅海さんの連作短編集「心臓と左手」(光文社文庫)から表題作と「貧者の軍隊」を読んだ。どちらもパターンは同じながら、ひとひねりある。

★ まずは「心臓と左手」。近隣から「例の家」と呼ばれる住居。そこには新興宗教の「教祖」が住んでいた。「教祖」が秘術で病を治すと言った、ありふれた宗教だが、医師から見放された「信者」は「教祖」の教え通り生活を改善することによって、病を克服していた。

★ 「信者」はそこそこ集まっているようだが、強引な勧誘をするでもなし、派手な宣伝をするでもなし、奇妙な服装や言動をするでもなし、ましてや高額な寄付を求めたり、世直しなどと言うでもない。地味な活動を行っていた。そのためか、奇妙がられてはいたが、住民からの苦情もなかった。

★ ところがその「例の家」で悲惨な殺人事件が起こった。教団幹部3人と損壊された教祖の遺体。教祖は胸を開かれ、左腕を切断されていた。

★ 「貧者の軍隊」も、これもある住居で起こった殺人事件。その住居には4人のサラリーマンが同居していたが、実は彼らはテロ集団だったという話。

★ 「心臓と左手」など大見え切って「勧善懲悪」とならないところが面白い。確かに人は死んでいるが、果たして誰を裁けばよいのかと迷う。

★ イカサマ宗教でも(実際の「宗教」と言われるものも似たようなものだが)病を治し、人々を苦しみから救えば、それはそれで有意義なことだ。それでいくらかの布施(寄付)を得たとしても法的に問題があるわけではない。

★ どちらのエピソードも警視庁の大迫警視が沖縄の事件で知り合った「座間味くん」と話をする趣向で真相が明らかとなる。この二人のやりとりが面白い。

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