じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

吉村昭「梅の蕾」

2021-02-12 16:55:18 | Weblog
★ 吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から表題作と「梅の蕾」を読んだ。

★ 「梅の蕾」は岩手県の寒村の村長の話。彼は村長に就任以来、新たな産業を興し、道路や鉄道整備に尽力し、三陸海岸の絶景を生かした観光業にも成功をおさめてきた。残る課題は、診療所の医師の確保であった。

★ 八方手を尽くし探しては見たものの、東北の寒村に腰を落ち着けてくれる医師は見つからず、半ばあきらめていた。そんなとき、千葉の癌センターで主要なメンバーとして勤務する医師が、赴任してくれるというのだ。

★ 反対する妻の説得、まだ小学生の子どもの教育のことなど、課題はあったものの、医師の赴任に村長は天にも舞い上がる気分だった。

★ しかし、医師がこの地に勤務するにはある事情があったのだ。

★ 終盤のシーン(医師夫人の葬儀の場面)で胸が熱くなった。人の心の温かみが伝わってきた。


★ 表題作は、戦争が激しくなる昭和15年夏ごろの出来事を回想している話。出征兵士を見送る家族を急行列車がはねたといううろ覚えな記憶を探っていく。記憶が薄れるように、戦争もまた「遠い幻影」になっていくようだった。
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