「春の江戸絵画まつり」の二大イベント、どちらも後期をリピートしてきた。
■板橋区立美術館 『椿椿山展:軽妙淡麗な色彩と筆あと』(2023年3月18日~4月16日)
図書館勤めの友人から貰った招待券で入場。花鳥画は『玉堂富貴・遊蝶・藻魚図』が退場して、金地墨画の『蘭竹図屏風』がメインになっていた。これは大倉集古館所蔵だそうだが、あまり見た記憶がない。『花卉図屏風』(田原市博物館)は墨画と淡彩画を交互に貼り交ぜているので、眺める角度によっては、墨画だけに見えたり、淡彩画だけに見えたりする。椿山の墨画は、墨の濃淡が個性的で、たとえば風に揺れる竹の葉の一部だけが濃く、あとは薄墨で背景に沈んでいるような感じがおもしろかった。『蕃殖図』は、草の生い茂る庭をフラットにスケッチしたような作品で、東洋絵画のお約束みたいな余白がないのが新鮮だった。
人物画は渡辺崋山関係以外は入れ替わり。『佐藤一斎夫妻像』(2種類、東博)と『佐藤一斎像画稿』(東京藝大)を見ることができた。そして楽しかったのは山水図。大好きな『久能山真景図』(山種美術館)に加えて、この作品のもとになったと思われる、久能山のスケッチを含む『山海奇賞図稿』(巴江神社※田原市博物館の隣りにあるらしい)と『山海奇賞図巻』(静岡県立美術館)が出ていた。前者には白描で、後者には着彩で、松並木の上り坂が描かれている。どちらも旅の手控え帳なので小さな横長の画面だが、作品にする際は、縦長の大画面に再構成し、坂道に二人の人物(赤い衣の僧侶と青い衣の従者)を配している。
■府中市美術館 企画展・春の江戸絵画まつり『江戸絵画お絵かき教室』(2023年3月11日~5月7日)
本展は観覧券に半額割引券が付いているので、2回目は半額(350円)で鑑賞できた。むちゃくちゃお得でありがたい。作品は大幅な入れ替わりがあり、個人的には後期のほうが楽しかったように思う。応挙の『狗子図屏風』(個人蔵、安永7年)は、応挙にしては「うるうる」の少ない、ディズニー映画のような元気な子犬たちで私の好み。芳中の『狗子図』は昭和のマンガみたいな顔で笑ってしまった。
「花を描く」では多様な牡丹の描きかたを学ぶ。これ、菖蒲や朝顔みたいに花の姿がパターン化しないので難しいと思う。水墨、蘆雪の『寒山図』(個人蔵)は長く伸びたトラがかわいい。若冲の『雨竜図』や菅井梅関『蛸図』には不意を打たれて笑ってしまった。応挙の『猿図』は、雪の積もった枝の上で白色のサルが薄墨色のサルにマウンティングしているように見える。応挙の水墨画は「緻密な作品制作で溜まったうっぷんでも晴らすかのように、大胆で大ぶりで、『本当に同じ画家?』と思うほど」と解説にあった。私は応挙のこういう作品も好き。
墨画の「付け立て」の例として、後期は亜欧堂田善の『山水人物図押絵貼屏風』が来ていた。これ千葉市美の『亜欧堂田善』展でも見たはずだが、第二扇の人物図で、高士(?)に従う従者の背中の荷物に地球儀が載っている。あと第五扇に鷹匠らしき人物がいて、その鷹が頬かむり(目隠し?)していることにも初めて気づいた。
「中国に学ぶ」には、伝・徽宗筆『狗子図』(嵯峨美術大学・同短大附属博物館)が出ていた。茶色いふかふかした子犬が体をひねって背を向けている。短い尻尾がかわいい。「輸入された中国の絵を日本の画家が写したものかもしれない」というのは、まあそうだろう。この子犬のポーズが、狩野派や森狙仙にもしっかり受け継がれている。
「虎の研究」では、岸駒『猛虎図』(本間美術館)を見た小学生くらいの男の子が「こわい!カッコイイ!」と大興奮だった。その気持ちはよく分かるが、同時に私は、与謝蕪村の『豊干経行図』にもやられた。これ、ほとんど人面虎である。「あえて拙く、たどたどしく描いているのに妙に自信に満ちた蕪村の絵は(略)ディープな魅惑に満ちている」という図録の解説がたいへんよい。林十江『唐人物図』もカッコよかった。最後は上様・家光の『兎図』で〆め。これもだんだん不気味にも見えてくる、不思議な絵だ。
展示室の外には「お絵描き」体験コーナーが設けられていて、好きなワークシート(お手本と簡単な解説つき)と必要な画材セットを借りて、模写してみることができる。展覧会が始まってすぐに来たときは、あまり人の姿がなかったが、今回はかなり席が埋まっていた。
これは大好きな「蘆雪の雀」の模写。筆ペンの扱いが思った以上に難しかった。
「描く」ことに焦点をあてた展覧会、ありそうでなかったので、大成功ではないかと思う。子どもも大人も、みんな楽しそうだった。