見もの・読みもの日記

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仮面とともに/鎌倉ゆかりの芸能と儀礼(神奈川県立歴史博物館)

2018-10-28 22:27:26 | 行ったもの(美術館・見仏)

神奈川県立歴史博物館 特別展『鎌倉ゆかりの芸能と儀礼』(2018年10月27日~12月9日)

 横浜・馬車道の神奈川県立歴史博物館に久しぶりに行ってきた。2015年の『一遍聖絵』連携企画展以来である。同館は、2016年6月から改修工事のため休館し、今年4月に再オープンしたのだが、私にとってはリニューアル後の初訪問になる。館の雰囲気はあまり変わっていなかった。

 本展は、鎌倉に伝わる祭礼と中世とのつながり、芸能を通して伝えられる中世の宗教儀礼に注目し、祭礼に用いられる調度や道具、古面、儀式を伝える古文書などを展示する。展覧会タイトルは「鎌倉ゆかりの」とあるが、鎌倉に残るものだけでなく、かながわの芸能と儀礼を広く扱う。とはいえ、最初は鎌倉から。頼朝が幕府を開いた鎌倉には、中央からさまざまな宗教儀礼が政策的かつ組織的に移植されたことを、鶴岡八幡宮や極楽寺に伝わる舞楽面、相撲職(すまいしき)に関する文書などで確認する。おお、袖判下文!など文書の形式に反応してしまうのは、前日に佐倉の歴博の『日本の中世文書』を見てきたため。

 鎌倉では複数の印象的な「行道芸能」が今も行われている。本展の印象的なポスターは、鎌倉・坂ノ下の御霊神社で毎年9月18日に行われる面掛行列の1コマで、私も2004年に一度だけ見たことがある。行道面の数々や衣装のほか、平成29年、30年の面掛行列の写真(おかめ役の男性が着付けてもらっているところも)に加え、昭和37年の白黒写真(鎌倉市中央図書館所蔵)もあって興味深かった。

 八雲神社の行道面及び写真も出ていた。北鎌倉の山ノ内八雲神社のことで、7月中旬に例大祭が行われる。昭和30年代には面掛行列が行われており、面をつけて扮装をした白黒写真が残っているが、現在は面の展示だけが行われているそうだ。面には天保11年(1840)の銘があり、御霊神社の面と似ているが、恐ろしさが希薄で、全体に脱力した感じで可愛い。

 それから円覚寺弁天堂の洪鐘(おほかね)祭行列。円覚寺が所蔵する『洪鐘祭行列絵巻』(明治35年の行列を描いたもの)は宝物風入れで何度か見たことがあるが、本展にはその模写(江島神社所蔵)が出ていた。冒頭の唐人行列が印象的で、会場には明治35年に使われた真っ赤な唐人衣装も出ていた。参考として「江の島囃子」(江の島天王祭で聴ける)で使われる華麗なチャルメラも展示されていた。『板絵・円覚寺弁天堂洪鐘祭行列図』は4枚の横長の板に行列の様子を描いたもの。豊かな色彩に金銀を散らし、華やかな出来上がりになっている。神輿や山車、唐人行列などに加え、面掛けの一行も見える。桃太郎と犬・猿・雉に仮装した子どもたちもいて楽しい。現在の展示は写真パネルのみで、「11月の宝物風入れが終わると本物が来る」とボランティアのおじさんが話していたけど、この板絵も風入れに出るのだったかしら。あまり記憶にない。なお、昭和40年(1960)の祭りの写真は初めて見たような気がする。61年ごとなので、次回は2021年になるはずだが…見られたらうれしいなあ。

 金沢八景の瀬戸神社にも獅子面・舞楽面・神楽面などが伝わるが、興味深く思ったのは、湯立神楽(ゆだてかぐら)が今も行われていること。神職が釜の湯を御幣の串でかき回し、吉兆を占い、笹を湯にひたし、参列者に振りかけるのだという。え~体験してみたい!と思ったら、会場には「神奈川県湯立神楽一覧表」というのがあった(図録にも収録)。私が知らないだけで、横須賀、横浜、葉山など、さまざまな神社で今も行われているそうだ。

 山岳地帯である神奈川県中央部には神仏の混淆した修験の信仰と儀礼が残る。大山阿夫利神社、宝戒坊は知っていたけど、高部屋神社(伊勢原)や八菅(はすげ)神社(愛甲郡)は全く名前も知らなかった。修験道って、出羽とか吉野とか特別な地域の宗教のように思っていたが、もっと身近だったのだな。

 最後になぜか寺社の什物帳の類と、称名寺金沢文庫や大須観音真福寺の所蔵文書の整理状況を紹介するパネルがあった。本展が、人間文化研究機構の「博物館・展示を活用した最先端研究の可視化・高度化事業」の一環であることと関連するのかもしれない。展示図録は読みごたえがありそうでよいのだが、正誤表が多すぎることに苦言を呈しておく。しかし、ハロウェインのこの時期に行くにはぴったりの展覧会である。


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