見もの・読みもの日記

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延安の味/京劇・三打祝家荘(中国国家京劇院)

2009-09-27 10:32:31 | 行ったもの2(講演・公演)
○東京芸術劇場 TOKYO京劇フェスティバル2009『水滸伝「三打祝家荘」(すいこでん さんだしゅくかそう)』

 中国から「国家重点級」の4つの劇団が来日し、それぞれ得意の演目を披露するという、信じられないような豪華絢爛の京劇フェスティバルが、いま、東京で開かれている。演目は以下のとおり。

湖北省京劇院 「徐九経昇官記」
中国国家京劇院 水滸伝「三打祝家荘」        
上海京劇院 水滸伝「烏龍院」
北京京劇院 三国志「呂布と貂蝉」

 さて、何を見に行こう? 4つの演目はどれも知らない。そこで、公演事務局のホームページを見て、「英雄たちの勢ぞろいに血沸き肉踊る、豪華絵巻」という文句に惹かれ、この『三打祝家荘』に即決してしまった。

 当日、プログラムを買って読んでみたら、びっくりすることが書いてあった。「建国前、共産党の本拠地であった延安には、延安劇研究院があり、人民の教育手段としての京劇を重視して集団創作や上演が行われていたが、中でも『三打祝家荘』は毛沢東の意見を容れゲリラ戦の実践者も参加して戦闘のリアルさを追求し、1945年に初演された記念碑的作品である」という。国家的な大イベントで上演されることが多く、国外で上演されるのは今回が初めてだそうだ。へえー。でも、京劇って、多くの日本人がイメージしているよりも、”近代演劇”の要素が強いのである。

 結論をいえば面白かった。繊細な所作や超絶的な歌唱で登場人物の内面を感じさせる演目ではないが、その分、俳優たちは実にのびやかに動く。京劇は一般にチャイニーズ・オペラと呼ばれているが、これはチャイニーズ・バレエではないかと思った。ただ、西洋のバレエとは、少し異なる”身体美”を追求しているようにも感じた。主人公の石秀を演じた趙永偉さん、よかったなあ。見栄えのする大柄な肢体を、常にやわらかく使っている。優雅で、品があって、男ぶりがいい。この控え目な”男人味”は、中国文化の粋のひとつだと思う。

 石秀を助ける鐘離老人を演じた甄建華、笑われ役の祝小三(司騂)、祝小五(黄占生)、二混子(金星)、表情豊かでお茶目な顧大嫂(唐禾香)など、いずれも巧かった。見せ場の立ち回りは、動きが速い上に、ものすごく高い位置でトンボを切る。あと、将軍の扮装で、昆虫の触覚みたいに左右に張り出した飾りが、所作に伴って、先端まできれいに揺れるのも初めて見た。身体の微細な動きまで計算し尽くされているのだろう。さすがは国家京劇院! ちょっと残念だったのは、会場のお客さんが静か過ぎたこと。笑ったり、声を出したりしてはいけないと思っているのかなあ、西洋のオペラとは違うのに。

 ところで、「水滸伝」の石秀って、あまり印象がないが、どんなキャラクターだっけ?と思って調べてみたら「拼命三郎(命知らずの三郎)」と呼ばれる一本気で無鉄砲な性格らしい(→Wiki石秀)。しかし、「命知らず」だけではゲリラ戦に勝てず、革命は成らない、というのが、毛沢東の教育メッセージなのだろう。重要なのは、機転と智謀と慎重さ。人民は、石秀と梁山泊の英雄たちの活躍を楽しみながら、ちゃんとそのことを学ぶ仕掛けになっている。

※追伸。9/15~9/24の中国旅行の記事は、順次掲載中。読んでね。

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