見もの・読みもの日記

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雪の近畿周遊(2):大和文華館~伊丹市立美術館

2008-02-12 23:12:04 | 行ったもの(美術館・見仏)
 収穫の多い関西遊だったので、取り急ぎ。

■大和文華館 『宋元と高麗-東洋古典美の誕生-』

http://www.kintetsu.jp/kouhou/yamato/index.html

 今回の目的はこれだった。李迪筆『雪中帰牧図』が出るのね!と思ったら、どうしても行きたくなってしまったのだ。しかし(ちゃんと出陳目録を見ておけばよかったのだが)思ったより絵画は少なくて、ちょっと落胆。

 その代わり、陶磁器は堪能した。入ってすぐの『青磁雕花蓮華文瓶』は、私の好きな耀州窯である。北方の青磁は皿・鉢が多く、瓶・壺・水注などの袋物(この用語、初めて覚えた!)はなぜか遺例が少ないのだそうだ。なるほど、言われてみればそうかもしれない。耀州窯の袋物といえば、安宅コレクションの吐魯瓶が思い浮かぶが、あれとはまた違って、色も描線も軽やかで、程よい”いい加減さ”が感じられた。「心にしみ入るような美しい釉色」のうつわの列は、インスタレーションのような愛らしさ。並べていて、楽しかっただろうなあと想像する。

 『文姫帰漢画巻』は明代の作だが、宋代の原本の雰囲気をよく伝えているということで、出陳されていた。匈奴の王族に嫁した蔡文姫の物語を詠った『胡笳十八拍』に絵を付けたもの。右端から、絵→文→絵→文の順で展開する。つねに挿絵が先で文(七言律詩)が後。中国にも、ストーリー展開を持つ絵巻物ってあるんだなあ。初めて見た。元代の絹本着色『六道図』は、生前の罪を裁かれる亡者と地獄・極楽の見慣れた図様だが、景教(ネストリウス派)の聖像の可能性がある山梨県・栖雲寺蔵『虚空蔵菩薩』に酷似するとも、マニ教の図ではないかともいう。どこで分かるんだろう。気になる。

 変な褒め方になるが、この展覧会、会場に配された解説の文章がものすごく良かった。平明で無駄がなく、限られた字数で、私の知りたいこと(伝来など)が全て書かれていた。特に、宋代の芸術は「東アジアにとっての古典主義」であり、元代、高麗、そして日本に伝えられて「ダイナミックな美の変容」を生み出したという歴史の見取り図は、とても分かり易かった。

↓誰がこしらえたのか、玄関で出迎えてくれた小さな雪だるま。




■伊丹市立美術館 開館20周年記念事業『外骨-稀代のジャーナリスト』

http://www.artmuseum-itami.jp/

 午後は大阪に足を伸ばした。伊丹市立美術館は2005年の『笑いの奇才・耳鳥斎』以来である。会場には、外骨が刊行した数々の雑誌が、おもちゃ箱をひっくり返したように並べられていて(というより、散らかされていて)実に楽しかった。とりわけ、1部屋まるまる使った『滑稽新聞』の展示は、思わずニヤニヤしてしまうアイディアばかりで見飽きなかった。Wikipediaに「各種ウェブサイトで一般化した技法(アスキーアートや縦読みなど)の原形も見られる」とあるのは、言われてみれば、本当にそのとおりだ。

 『滑稽新聞』の挿絵は、実力派の絵師(山本永暉、前野春亭)が変名で描いていたらしいが、不明なものも多いそうだ。同紙が大阪で創刊されたものであることや、梅田駅の達磨屋を取り次ぎとして、弁当や牛乳と一緒に駅売りされていたというのは初めて知った。

 会場には、着物と羽織(葡萄色=えびいろというのかなあ)をはじめ、外骨の遺品や関係資料も展示されていた。思わず見入ってしまったのは、昭和3年12月、東京大学明治新聞雑誌文庫の主任だった外骨が「後継者を求む」と題した求人広告。自分はもう老齢なので後継者がほしいのです、という前書きに始まる。9時から4時の勤務で日曜休、土曜半休。初任給50円に相当の手当あり。大卒30歳以下で「終身勤務の決意ある方に限ります」という。「双方ともいそがないでユックリ精査考慮の上決定したい」というのが、のんびりした時代を思わせて、微笑を誘われる。名刺大の、東京帝国大学附属図書館證票(利用者カード)には「B423 法学部嘱託 宮武外骨」とあり(名前は自著)。

 明治新聞雑誌文庫は、何度か前を通ったことがあるのだが、不幸にして、一度も中に入ったことがない。今後、一度くらい入れる機会はあるかしら。

 会場は、意外なほど熱心な観客が多かった。東京から来ておいてナンだが、外骨ってファン多いんだなあ。併設の所蔵品展『花開く風刺画-フランス』『風刺雑誌の誕生-日本』も面白くて、特に大阪の錦絵新聞を多数見られたのはよかった。大阪の錦絵新聞は、東京ものの半分ほどの小型版で、価格も半分、地元発行の新聞が少なかったため、独自取材ネタが多いそうである。明治の初めは、まだ東京文化と大阪文化に差異があったことをあらためて発見。

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1 コメント

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やはり見たかった・・・ (meme)
2008-02-18 20:39:00
外骨展は、泣く泣く諦めた展覧会。
先日やっと赤瀬川原平の「外骨という人がいた」を
読了したばかり。
滑稽新聞の現物等々やはり、本物をこの眼で確かめたかったです。
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