見もの・読みもの日記

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ウサギとカエルと明恵さん/雑誌・芸術新潮「謎解き鳥獣戯画」

2020-07-14 21:56:52 | 読んだもの(書籍)

〇雑誌『芸術新潮』2020年7月号「特集・謎解き鳥獣戯画」 新潮社 2020.7

 本来であれば、今年7月14日から東京国立博物館で開催されていたはずの『国宝 鳥獣戯画のすべて』展に合わせて計画された特集である。展覧会は、残念ながら来年春に延期になってしまった。しかし、おかげで本特集によって、あらかじめ『鳥獣戯画』の見どころを予習しておけるのはありがたいことだと思う。

 表紙に「全巻全場面、一挙掲載!」というキャッチコピーがさりげなく配されていたので、これは買い!と意気込んだ。横の長さが5ページ弱ある折り込みページが途中にあって、その上下裏表に、甲乙丙丁の4巻の全体図が、それぞれ2段組で掲載されている。縦が3.5センチくらいの極小図版で老眼にはつらいが、とにかく「全巻全場面」の掲載はウソではない。もちろん名場面は見開きページの拡大図版でも取り上げている。

 「ここまでわかった鳥獣戯画」というタイトルで、各巻の特色や見どころを語っているのは土屋貴裕さん。甲巻は、前半(10紙まで)と後半(11紙以降)で微妙に手が違うという指摘が興味深かった。確かに前半のウサギはもっさりして着ぐるみっぽく、後半のほうが俊敏な感じがする。ただ別人かどうかはよく分からない。マンガの連載でも、だんだん絵が変わっていくことがあるし。

 乙巻については、甲巻の後半と同一の描き手ではないか。和歌集や説話集と同様、動物の「アンソロジー」を作ろうとする志向があったのではないか。作者が宮廷絵師か絵仏師かはよく分からない、など。『年中行事絵巻(摸本)』に描かれた風流傘の上に「鳥獣戯画」のサルとウサギの競べ馬の場面が、つくりものとして載っている(図版あり)というのは、超気になる!

 丙巻の前半は人物戯画、後半は動物戯画。もとは同じ紙の表裏に描かれていたものを「相剥ぎ」して継ぎ合わせたと考えられている。この巻は人物図(首引きとか)が展示されることが多い気がする。今回初めて後半の動物戯画を拡大図版でじっくり見て、すごく気に入ってしまった! 牛が引く山車のまわりで狂喜乱舞するカエルとサル、そこはかとない狂気が見えて、いいなあ。

 丁巻について、土屋さんが「丁巻をあまりディスらないで下さい」と言っているけど、のびのびとユーモラスな描線が私は大好き。「下手な人にはこれ程のスピード感では描けません」という解説に納得する。最後に「鳥獣戯画」成立の背景について、料紙が、通常絵巻に用いる紙でなく、寺院でふだん使いする紙であること、作者は「宗教界と宮廷界の画事に接し得る立場」の人物で、仁和寺に関係するのではないかという推理が、とても面白いと思った。

 関連記事として、冒頭には「小説・鳥獣戯画縁起」を冠した創作「彼女たちのやりたいこと会議」(藤野可織)。宮廷の女房たちが、自由に川に飛び込んだり、相撲をとったり、田楽をしたりする自分たちの姿を想像して絵巻を描かせる物語。でも「鳥獣戯画」のカエルやウサギの多くは、やっぱり男子だと思うなあ。

 金子信久さんの「その後のカエルとサルとウサギたち」は、作品のセレクションもよく、文章にも考えさせられた。若冲の『象と鯨図屏風』に先んずる、真正極楽寺の『仏涅槃図』には、白象と鯨がいるのか! 金子さんは若冲の『象と鯨図屏風』に楽しさや元気さよりも、深い静けさ、悲しみを感ずるという。国芳の『猫のすずみ』の解説もよい。

 高山寺の明恵上人に関する記事も充実。紀行エッセイストの宮田珠己さんの記事で、明恵さんが島を愛して、苅藻島(和歌山県)に宛てて手紙を書いたエピソードを知って、また明恵さんが好きになった。高山寺に伝わる白光神立像が、天竺の「雪山」すなわちヒマラヤ山脈を神格化したものだというのも素敵だ。伊野孝行さんのマンガによる「『夢記』ビジュアルガイド」は最高。明恵という人、実際にそばにいたら、かなり面倒臭いだろうが、時を隔てて向き合うと実に魅力的だ。早くまた高山寺に行きたい。


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