見もの・読みもの日記

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生活密着アート/世界の更紗(文化学園服飾博物館)

2010-09-14 23:20:20 | 行ったもの(美術館・見仏)
文化学園服飾博物館 『世界の更紗』(2010年7月6日~9月25日)

 更紗とは、「主に木綿布に手描きや型を使って文様を表したもの」を指す。インドを起源とし、16~17世紀の大航海時代に世界各地に広まった。本展では、インド、東南アジアをはじめ、ヨーロッパやロシア、アフリカなどのさまざまな更紗を紹介する。

 展示室1では、緻密な模様、金をあしらった豪華なジャワ更紗(バティック)に見とれる。中国で印花と呼ばれる更紗は藍染めが基本。陶磁器の青花好みに通じていて面白い。日本でも、鍋島更紗、天草更紗などと呼ばれる和更紗が試みられた。インドやジャワの更紗のような鮮やかな発色はないが、独特の渋味を好む人もいるという。なるほど。ものは言いよう。

 展示室2は、ヨーロッパの更紗を紹介。ヨーロッパでも中世以来、木版型染めが用いられてきたが、文様が単純で、発色も鈍く、堅牢性も低かった。17世紀以降、東インド会社交易により、インドの更紗がもたらされると、圧倒的な人気を博し、イギリスやフランス政府は、輸入の不均衡是正と本国の産業保護のため、更紗の輸入制限を設けなければならなかった。ヨーロッパって、ほんとに何も持たない文明後進地帯だったんだなあ、としみじみ…。

 しかし、19世紀初め、イギリスは銅板ローラーを用いた更紗の生産に成功すると、19世紀後半には、アメリカやヨーロッパ諸国に輸出するようになり、インドの更紗産業に大打撃を与える。アジアに学んだヨーロッパという点で、磁器をめぐる技術移植にも似ている。打撃を与えられたインドの状況はしばらく措き、イギリス国内では、鮮やかな銅板プリントの更紗が廉価で出回るようになったものの、大量生産品は独創性に欠け、その反動として、リバティ商会やウィリアム・モリスによるテキスタイル・アートが呼び覚まされる。これは意外な「因果関係」の指摘だった。

 日本では、室町~近世初期の茶人たちが更紗を珍重したことはよく知られている。三井家伝来の更紗帯は、数種類の更紗をパッチワークにしたもので、大胆なデザイン感覚に感心する。後ろ身頃に菖蒲(あやめ)の絵を配し、まわりを更紗のパッチワークで囲んだ着物も伝来しているらしいが、これは写真のみ展示。あと、更紗屏風というのは、更紗の端切れを貼り付けたもの…と思ったら、更紗の模様を描いた木綿を貼り付けてあった。こんな偏執狂的なことをするのは誰?と思ったら、円山応瑞の署名があり、父(応挙)の筆と極めていた。

 アフリカの更紗(アフリカン・プリント)は、ジャワ更紗の精緻な文様とは全く逆を行くものだが、思わず微笑みを誘われる、おおらかな味わいが好ましかった。更紗をめぐる「世界史」、奥が深そうである。

※参考:更紗今昔物語(みんぱく、2006年):今さらだけど、見逃して残念。

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1 コメント

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よく勉強になりました (浮き草)
2010-09-15 07:48:27
この日記を読んだら、本当によく勉強になりました。更紗から世界史を読むのは妙なことです。

お陰で、アートの門外漢の私ももっと知りたい気持ちを持っています。

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