見もの・読みもの日記

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「公共」をめぐるてんやわんや/映画・ようこそ、アムステルダム国立美術館へ

2010-09-13 23:55:53 | 見たもの(Webサイト・TV)
○ウケ・ホーヘンダイク監督 映画『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(ユーロスペース)

 めったにないテーマの映画なので、一部では極端に盛り上がっている(?)気がする。オランダのアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum Amsterdam, 国立博物館とも)で、2004年、大規模改修プロジェクトが始まった。コンペの結果、スペインの建築家コンビの改修プランが採択されたが、これまで市民に開放されていた「通り抜け」通路が狭くなることについて、市民団体から反対の声が上がり、プラン変更を余儀なくされる。さらに、研究センターの規模をめぐって、教育文化科学省からも横槍が。

 度重なる変更要請に、怒りを抑えきれない建築家。調整に苦慮する館長。一方、新美術館で始まる展示に夢を描く学芸員たち。静かに日々の仕事を積み重ねる修復家、装飾家。孤高のポジションを貫く警備員。ようやく建築許可が下りるが、入札の結果、業者は1社しか現れず、見込みよりかなり高い金額に。2008年新春、ドナルド・デ・レーウ館長は退任を発表。同年秋、館長のお別れパーティを以って映画は終わるが、改修プロジェクトは、まだ終わらない…。

 映画はドキュメンタリーを標榜している。しかし、何だろう、この違和感。撮り方が巧すぎるし、登場人物がカッコよすぎる。再現フィルムは含んでいないの? (ジャ・ジャンクー監督の『四川のうた』みたいに)プロの俳優さんは混じっていないの? あと、ちょっと不思議だったのは、美術館の「取り壊し」映像から始まるのに、あとから入札と施工業者の決定が描かれていたこと。解体工事と新築工事は別件だから、後者の入札前に前者が始まっていてもおかしくないのかなあ?

 疑り深い私は、アムステルダム国立美術館の改修に関する、信頼できる情報を集めてみようと試みた。しかし、日本語で検索すると、ほとんどこの映画の「あらすじ」の引き写し情報しかヒットしない。駄目だなあ。そこで英語で検索をかけてみると、本家・アムステルダム国立美術館の公式サイト(英語版※音が出ます)がヒットした。左下に「renovation(改修)」というメニューがある。これは映画が面白かったと思う人には必見のアーカイブだ。

 「Progress and timeline of the renovation」によって、改修プロジェクトの沿革を整理することができ、映画の中でも使われていた完成予想図のアニメーション、外観(exterior)と内装(interior)を見ることもできる(ダウンロードすると、かなり重いけど)。楽しいのは「Renovation special(Watch video interviews on renovation)」のページ。関係者20人以上のインタビュー映像(ただし、オランダ語)が掲載されており、その中には、映画に登場した警備員のレオさんもいる。よくできたサイトだなあ。

 トップページに戻って、別メニューの「News」からアーカイブをたどると、2007年には「ドナルド・デ・レーウ館長、2008年に退任」の記事があり、2008年には「ヴィム・パイベス新館長」の記事も。もちろん顔写真付き。おお、その下にイケメン学芸員のタコ・ディビッツ氏の写真もある。あまりによくできたフィルムだったので、「作品」と「現実」が混乱してしまう。いや、ドキュメンタリーなのだから、作品=現実であっていいのだが、あえて「混乱」と呼びたいほど、登場人物の個性が際立ち、演技(?)が冴えているのである。

 私が身悶えして笑ったのは、長引く美術館の休館について、教育文化科学省の責任を追及する各党議員の声の調子が、こういうときの日本の政党政治家と瓜二つだったこと。自分は「政治的正しさ」にのっとっていると信じ(または、信じていると見せかけ)相手を糾弾する人間って、おんなじ喋り方になるんだなあと思った。ついでに、対応に困っている大臣の目の泳ぎ方も、日本の役人にそっくりだと思った。

 市民のための「改修プラン変更」を勝ち取ったサイクリスト協会代表の満足気な表情も、日本のどこかで見たことがある。うんざり顔の建築家は、市民団体の強硬ぶりを非難して「これは民主主義の悪用だよ」とつぶやく。制作者は、ひそかに建築家に共感を寄せているように感じるのは、私の欲目だろうか。直観的だが、いかにもオランダらしい(リベラルすぎ、議論が多すぎて無駄も多い)という感じもした。

 それから、ドナルド・デ・レーウ館長。経歴を読むと、美術館のファンド獲得に大きな功績があり、経営者として「やり手」だったと分かるが、映画の中では、さまざまな利害関係者の間に立って、苦悩する姿が中心に描かれており、こういう役職(官僚組織のトップ)に求められるリーダーシップって何なんだろうなあ、と考えてしまう。

 私は、美術館の経営にかかわったことはないが、類似の公共組織で働く者として、たぶん一般の視聴者以上に、この映画の可笑しさを味わえたように思う。続編も撮影されているらしいので、楽しみ。

アムステルダム国立美術館見学の記(2008/3/15)
オランダ出張の折、空き時間に訪ねた。正面玄関は工事中で、ぐるりと歩かされて、仮設の入口から入った記憶がある。このとき、既にデ・レーウ館長は退任を発表し、後任待ちだったのね。

オランダのプラステルク教育文化科学相が来日(2009/10/27)
長引く閉館の責任を追及されて目が泳いでいたのは、このひと。

産経ニュース:メンノ・フィツキ学芸員インタビュー(2010/8/20)
新しいアジア館での展示のため、日本で金剛力士(仁王)像を買いつけ、到着に目を輝かせていた"仏像男子"はこのひと。デ・レーウ館長の退任を聞いたときは、ライデン大学で読書に専念して、ショックを乗り切った、と答えていたのが印象的だった。たばこと塩の博物館で行われていた『阿蘭陀とNippon』展の関係でも来日されていたようだ。

建築家、クルス&オルティス(Cruz y Ortiz)(スペイン語Wiki)
スペインの公共建築(駅、スタジアム、図書館等)を多数設計。

映画公式サイト(音が出ます)

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