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少女たちの時間/中華ドラマ『八角亭謎霧』

2022-02-04 19:59:17 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『八角亭謎霧』全12集(愛奇藝、2021)

 2020年に『隠秘的角落』『沈黙的真相』などで話題をさらった「愛奇藝・迷霧劇場」シリーズの新作であるが、残念ながら、出来はいまひとつだった。舞台は江南地方の小鎮・紹武(ロケ地は紹興)。女子高生の玄念玫は、チンピラの朱勝輝につきまとわれていた。あるとき、朱勝輝の遺体が運河で発見される。

 玄念玫は祖母と両親の四人暮らし。父親の玄梁には3人の妹がいた。すぐ下の妹・玄敏は、玄梁とも親しい刑事の袁飛と結婚している。その下の双子の姉妹のうち、妹の玄珍は、18歳のとき何者かに殺害され、公園にある八角亭近くの水辺で遺体が見つかった。19年経っても犯人は不明のままである。事件後、姉の玄珠は家を出て、遠くの都会で暮らしていた。玄梁は、妹を守れなかった自責の念に苛まれ、次第に玄珍そっくりに育っていく娘の念玫を過剰に束縛していた。

 念玫の祖母が倒れ、入院したのをきっかけに、玄珠が帰宅する。念玫は叔母から、自分とそっくりだったという玄珍についての話を聞く。美人で、誰からも愛されることが当然と思っていた玄珍の存在は、地味で控えめな玄珠にとって、好ましい思い出ばかりではなかった。高校時代、玄珠は親しくなった男子の影響を受けて崑劇を習い始めたが、それを知った玄珍は、自分も同じ劇団に入門し、瞬く間に劇団長の寵愛を奪ってしまう。玄珍が殺害されたのは、それからまもなくのことだった。

 【ネタバレ】19年前の事件では、崑劇団の主宰者である丁団長が玄珍に異常な執着を抱き、誘拐して殺害したことが判明する。丁団長の妻の周亜梅が遺体遺棄を手伝っていた。丁団長は、玄珍そっくりの念玫を見かけて、再び魅入られ、彼女につきまとっていた朱勝輝を殺害したのだった。

 あらすじは以上のとおりである。19年前の事件の目撃証言で、容疑者が男性か女性かはっきりしなかったのは、丁団長が女装愛好者だったためとか、序盤のミスリードを誘う、念玫の担任で写真オタクの田老師とか、細かい仕掛けはあるのだが、あまり感心しない。すでに頭脳の働きが明晰でない丁団長の自白を引き出すため、念玫が玄珍の扮装をしてオトリになるというのも、警察が考える策としては現実的でない(ドラマの中でも批判されているが)。

 本作は、ミステリーとしては評価できないが、ミステリー風の味付けをした心理小説だと思えば許せる面もある。見た目も性格も正反対の双子姉妹、玄珠と玄珍の葛藤の描き方には、古い少女マンガの佳作、たとえば萩尾望都を思わせる味わいがあった。生き残った玄珠は、妹からあれほど残酷な仕打ちを受けたにもかかわらず、姉として妹を守れなかったことを悔やんでいる。ずっと玄珍と比べられてきた念玫は、自分も18歳で死ぬ運命ではないかと考えていたが、玄珠は、たとえ外見がそっくりでも人間の内面はひとりひとり違う、と語ってきかせる。念玫は叔母の言葉に勇気づけられ、成長期のアイデンティティの不安を抜け出す。また、他人に愛されることを諦めていた節のある玄珠も、最後は、自分の生活を立て直そうと旅立つ。

 念玫と玄珍の二役を演じた米拉(Mira)ちゃんは、この年頃の少女らしい自然な表情がよかった。少女時代の玄珠を演じた謝卓妮ちゃんも好き。ああ、どこかで見たことがあると思ったら『開封府』の健気な小青女だ。謎解きの主役は袁刑事(段奕宏)のはずだが、あまり見せ場はなく、新人刑事の劉新力(白宇帆)のほうが印象に残る。水路に囲まれた江南古鎮の風情と、崑劇の音曲は楽しめた。


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