○田中宇、大門小百合『ハーバードで語られる世界戦略』(光文社新書) 光文社 2001.11
出張が近いので、新しい本に手を出すことを自らに禁じて、古い本棚から、アメリカの大学に関係したものを拾い読みしている。いや、ホントは古い本を読んでいる時間もないのだけれど。
本書は、フリーの国際情勢解説者、田中宇(さかい)氏と、その妻で新聞記者の大門小百合氏のハーバード大学留学記である。実際に留学の権利(ニーマン・フェローシップ)を獲得したのは大門氏だが、ハーバード大学の方針で、フェロー(研究員)の配偶者は、フェローのように大学の授業をとることができる(むろん、強制ではない)。
そこで、夫婦2人でアメリカに出かけ、約1年間の留学生活を送った。最初は2人とも感心することばかりだったが、夫のほうは、次第に「おかしいぞ」と思うことが増えてくる。一方、妻のほうは、どちらかといえば前向きな視点を、最後まで保ち続けた。本書は、2人がそれぞれ異なる視点で執筆した章が、交互に現れるかたちで構成されており、その結果、「アメリカの大学」というものが、立体的に示される。なかなか興味深い留学記である。
田中宇氏が「おかしいぞ」と指摘するのは、日本の大学ではちょっと考えられない、ハーバード大学教授陣の「生臭さ」である。ハーバードといえば、保守/リベラルで言えば、圧倒的に民主党支持が多いことで知られているが、これは日本の万年野党支持層とは全く性質の違うものだ。
ハーバードでは、多くの愛国的な研究者が、武器の開発や戦略立案に関わってきた。冷戦中には、さまざまな「秘密研究」に応じることで、国防省やCIAから多額の予算を得ている。現在は「秘密研究」は禁止されているが、1985年に至っても、サミュエル・ハンチントンがCIAの資金で秘密研究を続けていることが新聞にすっぱ抜かれたそうだ。
帰国して、著者の田中宇氏は思う。世界を支配するシステムを一から考えることができるのが、ハーバードのエリートたちである。一方、日本人は、システム創造よりも、雑学的で庶民的なパワーに長けている。日本人は、アメリカの真似をせず、日本の長所を維持していけばいいのではないか(そのほうが、世界に迷惑をかける点が少ないのではなかろうか)。はからずも、最近読んだ松岡正剛さんの『日本という方法』とよく似た結論であるが、私も、基本的にはこっち路線を支持したいと思った。
出張が近いので、新しい本に手を出すことを自らに禁じて、古い本棚から、アメリカの大学に関係したものを拾い読みしている。いや、ホントは古い本を読んでいる時間もないのだけれど。
本書は、フリーの国際情勢解説者、田中宇(さかい)氏と、その妻で新聞記者の大門小百合氏のハーバード大学留学記である。実際に留学の権利(ニーマン・フェローシップ)を獲得したのは大門氏だが、ハーバード大学の方針で、フェロー(研究員)の配偶者は、フェローのように大学の授業をとることができる(むろん、強制ではない)。
そこで、夫婦2人でアメリカに出かけ、約1年間の留学生活を送った。最初は2人とも感心することばかりだったが、夫のほうは、次第に「おかしいぞ」と思うことが増えてくる。一方、妻のほうは、どちらかといえば前向きな視点を、最後まで保ち続けた。本書は、2人がそれぞれ異なる視点で執筆した章が、交互に現れるかたちで構成されており、その結果、「アメリカの大学」というものが、立体的に示される。なかなか興味深い留学記である。
田中宇氏が「おかしいぞ」と指摘するのは、日本の大学ではちょっと考えられない、ハーバード大学教授陣の「生臭さ」である。ハーバードといえば、保守/リベラルで言えば、圧倒的に民主党支持が多いことで知られているが、これは日本の万年野党支持層とは全く性質の違うものだ。
ハーバードでは、多くの愛国的な研究者が、武器の開発や戦略立案に関わってきた。冷戦中には、さまざまな「秘密研究」に応じることで、国防省やCIAから多額の予算を得ている。現在は「秘密研究」は禁止されているが、1985年に至っても、サミュエル・ハンチントンがCIAの資金で秘密研究を続けていることが新聞にすっぱ抜かれたそうだ。
帰国して、著者の田中宇氏は思う。世界を支配するシステムを一から考えることができるのが、ハーバードのエリートたちである。一方、日本人は、システム創造よりも、雑学的で庶民的なパワーに長けている。日本人は、アメリカの真似をせず、日本の長所を維持していけばいいのではないか(そのほうが、世界に迷惑をかける点が少ないのではなかろうか)。はからずも、最近読んだ松岡正剛さんの『日本という方法』とよく似た結論であるが、私も、基本的にはこっち路線を支持したいと思った。