見もの・読みもの日記

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『築嶋物語』に再会/日本の民画(日本民藝館)

2009-01-28 23:42:08 | 行ったもの(美術館・見仏)
○日本民藝館 特別展『日本の民画-大津絵と泥絵-』(2009年1月6日~3月22日)

http://www.mingeikan.or.jp/home.html

 松濤美術館から井の頭線で1駅、展覧会をハシゴ。滋賀県大津の名物「大津絵」と、安価な泥絵の具で描かれた「泥絵」を特集する。どちらも民衆のたのしみとして作られ、消費されたものだ。2階に上がると、大階段を取り巻く展示ケースには、多数の大津絵を展示。私は、素朴な信仰心のうかがえる初期の作品が好きだ。だんだん商品化し、画題が固定化するとつまらなくなる。

 いちばん大きい展示室に入ると雰囲気が一変、ここは泥絵で統一されていた。多くは風景画で、視点を大きく引いたパノラマ風景に、人物は皆無か、極端に小さく配されている。深い青色の空が画面の半分以上を占め、野山の緑か、なまこ壁の白と黒、まれにわずかな赤(神社の鳥居など)が配されるくらいなので、展示室全体に静謐な空気が漂っていた。アメリカ開拓時代のナイーブ・ペインティングに、少し似ていると思う(絵本『ちいさいおうち』とか)。

 稀少な人物画の1例、だぼっとした縞ズボンに帽子・マントの西洋人全身図を描いた『紅毛人図』は(私の好きな)亜欧堂田善の作。いかつい鼻が、やや日本人離れしているが、黒目・直毛で、あまりバタ臭くない。他にも西洋人の肖像画が2点あったが、いずれも写実的で、対象の個性に肉薄しようという画家の真摯な姿勢がうかがえる。錦絵に描かれたステレオタイプな洋人図とは、ずいぶん違うと思った。

 六曲屏風『江戸湾御固メ図』は歴史資料として面白かった。嘉永7年(1854)ペリー2度目の来航を描いたものらしい。ちなみに画中の洋船は8隻。手前の伊豆下田から画面奥の房総半島まで旗指物が並び、「大森、井伊掃部頭」「鮫洲、松平土佐守」などの注釈が添えられている。

 常設展示では、江戸時代の和時計が面白かったり、壬生狂言の木彫の面が愛らしかったり(いちばん小さいのは犬?)、日本の陶器・古丹波の魅力に開眼したりした(大きいのも小さいのも、黒いのも白いのも、いいなあ)。そして、「日本の民画(大津絵)」の部屋で、ふと平ケースを覗き込んで、驚愕。『築嶋物語』ではないか~! ついさっき、松濤美術館『素朴美の系譜』の会場で南伸坊氏が「築嶋物語ってあるでしょ」と話題にされていた、まさにその作品である。うわ~「今、公開中ですよ」と教えて差し上げたかった。私は、2007年の『日本美術が笑う』展で見たのが唯一で、所蔵館である日本民藝館で見るのは初めてのことだ。

 今回は、上下2巻が、それぞれ1メートルくらいずつ開けてある。上巻は評議の場と、人夫たちが山を崩して水辺に築嶋をつくろうとしているところ(多分)。下巻は鳥籠のようなものに囚われた男女が(坊主から姫君まで)数名。そのまわりで悲しむ人々の姿も見える。人柱にされるところだろうか? つぶれたオニギリに頭を載せたような表現なのに、うなだれて悲しむ様子だと分かるのは、この絵師、実は巧いのかもしれない。

 同展は3月まで。前庭の梅が咲く頃に訪ねるのも一興である。


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