見もの・読みもの日記

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ひらく、流す/扇の国、日本(サントリー美術館)

2018-12-17 23:48:41 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『扇の国、日本』(2018年11月28日~2019年1月20日)

 タイトルを聞いても、よく趣旨が分からない展覧会だと思ったが、見に行ったら面白かった。「扇」は、日本で生まれ発展したものだという。10世紀末には中国や朝鮮半島に特産品としてもたらされ、中国では、それまで一般的だった団扇と区別して「倭扇」とも呼ばれた。本展は、宗教祭祀や日常生活の用具として、贈答品として、工芸品として、日本人が愛した「扇」をめぐる美の世界を幅広い時代と視点から紹介する。

 冒頭には、明治11年(1878)明治政府がパリ万国博覧会に出品した百本の「扇」から3点、狩野探幽画『山水図扇面』、長沢芦雪画『雀図扇面』、歌川豊国画『遊女図扇面』が出ていた。知らなかったけれど、それぞれ絵柄の異なる百本の扇を出すという明治政府の文化的センスが心憎い。今の日本政府とはまるで比較にならない。そして百本全てが東京国立博物館に現存しているというのも素晴らしい。

 ここから一気に時代をさかのぼり、しばらく美術品というより歴史資料的な逸品が並ぶ。島根・佐太神社の『彩絵檜扇』は12世紀の作。表と裏にやわらかな色使いで素朴な花鳥を描く。扇を開いた状態で収納する箱も伝来。MIHOミュージアム所蔵の檜扇(南北朝時代)は熊野速玉大社から流出した可能性があるという。伊勢国朝熊山経ケ峯経塚から出土した檜扇残欠(12世紀頃)は、形の揃った橋(ほね)の断片が動物の遺骸のようにも見える。たいへん興味深いものを見ることができた。次に扇の使用法について、和歌を記して贈答に用いた例、メモ帳代わりに使われた例、勝機を招く呪術的な意味も込めて用いられた軍扇などを紹介する。「扇の骨の間から見る」の紹介がないなあと思ったが、図録巻頭の文章には取り上げられていた。

 続いて「流れゆく扇」。中世から近世初期の絵画や文献資料には、水面に扇を投じて「扇流し」を楽しむ人々の姿を見ることができるという。この源流として紹介されているのが『長谷寺験記』に載る高光少将の「扇流し」の伝説。同じ話が室町期の御伽草子にもあるというが、この話、平安・鎌倉期の説話にもあっただろうか? ここで『後撰和歌集』の離別羇旅歌が紹介されているが、平安文学的に「扇」は「あふ」「かぜ」「そら」「くもゐ」につながっていくのは自然だが、「水」「流れ」に関わるのは唐突な気がする。そんな縁語あったっけ?という疑問を残しつつ、確かに絵画作品には「流れゆく扇」をモチーフにしたものが多数あることを確認した。

 見慣れない作品が多くて驚き続けた中でも、大作『大織冠図屛風』(個人蔵、17世紀前半)には感嘆した。初見だと思う。金雲の占める比率が高いが、描かれた空間の密度がおそろしく高い。ちなみに金雲の中にエンボス加工ふうに扇流し文が組み込まれている。図録の写真が小さすぎるのが許せない~。大好きな『舞踊図』も出ていたが、前後期3面ずつってセコくないだろうか。

 次に扇の流通についてあたらめて考える。明国に渡って、扇と交換で漢籍を購入した話など面白いなあ。『扇屋軒先図』(大阪市立美術館)も艶やかで楽しい。中世から近世にかけて、さらに多様な扇絵と扇面貼交屏風が登場する。『京名所図扇面』(元秀印)のような定番はもとより、知らない作品をたくさん見せてもらえて嬉しかった。川面を飛ぶ千鳥?雀の大群を背景にした『京洛月次風俗図扇面流屏風』は沈んだ金色を基調にした色味がおしゃれ。扇面に板摺りの『阿弥陀聖衆来迎図』(日本民藝館)は他にほとんど例のない珍しいもの。和泉市久保惣記念美術館の『源氏物語「朝顔」図扇面』もいいなあ。扇形の空間をかなり意識的に使っている。『酒呑童子絵扇面』(個人蔵)も、扇に仕立てたら、あまり趣味がよくないと思うが、この図形に構図を収めることが面白いのだろうな。

 扇モチーフを取り入れた漆器・磁器・染織もいろいろ。特に大胆な着物の柄として扇は外せない。終盤の展示室で海北友雪の『一の谷合戦図屏風』を(右隻・左隻同時に!)見ることができたのは嬉しかった。六曲屏風いちめんに巨大な扇絵が出現した趣き。最後は扇型をした長崎出島の地図で終わる。扇にさまざまな楽しみ方を見出した過去の日本人に負けないくらい、機知に富んだ構成で楽しい展覧会だった。

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