見もの・読みもの日記

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和漢の美学/書跡の美(五島美術館)

2010-05-27 23:31:07 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館 開館50周年記念名品展II『書跡の美-古写経・古筆・墨跡』(2010年5月15日~6月20日)

 名品展第2弾は書跡。会場に入るとすぐ、壁沿いの展示ケースに3種の軸が並んでいる。伝・小野道風筆「継色紙」(重文)、伝・藤原行成筆「升色紙」、伝・紀貫之筆「寸松庵色紙」(重文)。至高の古筆と称えられる三色紙(→Wiki)である。

 三色紙が並んだところを見るのは、意識している限り、三度目だ。2009年、三井記念美術館の『三井家伝来 茶の湯の名品』。それから、レポートを書いていないのだが、この連休、大阪で見てきた藤田美術館の『歴史を彩る 教科書に載る名品』展にも三色紙が出ていた。三井家の三色紙は、作品とともに表具の美しさにも目を奪われた。藤田美術館は、せっかくの三色紙の距離が近すぎて、しかも他の作品と一緒の展示ケースに入っていたので、印象散漫で残念な感じがした。五島美術館の場合は、ほどよい配置と薄暗さで、作品に集中できるのがよい。控えめな表具は、書跡の引き立て役に徹している。

 私が、総体的にいちばん好きなのは継色紙だ。これまで、畠山記念館(きみをおきて)、三井(くるるかと)、出光(あめにより)、MOA(わたつみの)、東博(よしのかは)、藤田(つくばねの)を見てきた。五島のは「めづらし/き こゑなら/なくに ほ/ととぎ/す ここらのとしの/あかずも/あるか/な」。この不思議な改行のリズムが好きなのだ。ただ、本作品は、ちょっと文字が集中し過ぎて、おおらかさに欠ける。五島の三色紙では、升色紙がいい。どの行も直線的で、左右に流れない。墨つきの濃淡が極端で、半分枯れかけた(半分は生きている)蔓草が垂下しているようだ。解説は「現存する仮名筆跡の中で最も優美な筆致を示す」と絶賛していたけど、Wikiを見ると、他の二色紙に劣る、という評価もある。好みかなあ、これは。寸松庵色紙は、華やいで愛らしい雰囲気。三点とも、展覧会の公式サイトで画像を確認できるのがありがたい。

 続いて、これも有名な「高野切」は三種の書風が確認されており、まず、「仮名文字の完成」と言われる第一種書風の巻と、これに類似する書風の古筆(関戸本古今集切、亀山切)を展示する。次に連綿体が特徴的な第二種書風とその類似品。私は、この第二種がけっこう好きだ。筆者は貫之や行成に擬せられているが(古筆の「伝○○筆」って無視したほうがいいみたい)、現在は源兼行筆が定説化している。高野切第三種は所蔵していないので、同系統の書風(蓬莱切、伊予切第一種)を展示。軽快・明解で、近代の初学者用の仮名手本によく用いられるそうだ。納得。この展示方法は、とても分かりやすかった。

 途中をとばして、墨跡も紹介しておこう。ちょうど、三色紙と向き合う壁の展示ケースには、宋元の中国僧の墨跡が並んでいる。無準師範の「山門疏」は、字形も字の大きさも楷行草も不揃いなのに、のびのびした美しさを感じる。しかも、のびのび書こうなんて全く思っていない、無心の闊達さがよい。無学祖元のやわらかで穏やかな墨跡も好きだ。解説に「黄山谷の書風」とあって、分からなかったが、黄庭堅のことか。会場の中央に立って、右に古筆、左に墨跡の名品(あるいはその逆)を見比べてみるのも一興である。

 中央の平ケースの列は古写経。五島慶太のコレクションは、古写経に始まり、次に禅宗僧侶の墨跡に惹かれ、茶の湯、書画…と拡がっていったのだそうだ。なんだか一般人とは逆コースのようで面白い。

 さて、芸術新潮2006年2月号「特集・古今和歌集1100年」で復習しながら寝ることにしよう。

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