見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2023年6-7月展覧会拾遺(その2)

2023-08-09 21:57:20 | 行ったもの(美術館・見仏)

静嘉堂文庫美術館 『サムライのおしゃれ-印籠・刀装具・風俗画-』(2023年6月17日〜7月30日)

 武家文化の日常生活の中で育まれたサムライの装身具である刀装具、印籠根付と併せて、おしゃれな人々を描いた近世初期風俗画なども展示する。『四条河原遊楽図屏風』と『鞨鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風』を見ることができて嬉しかったが、実は本筋以上に興味があったのは、静嘉堂で発見された「後藤象二郎が1868年に英国ビクトリア女王から拝領したサーベル」の初公開だった。

 1868年3月23日(慶応4年2月30日:旧暦)、駐日英国公使パークスは、京都御所に赴く途中で攘夷派の志士の襲撃を受けたが、護衛の後藤象二郎らに守られた(詳細は、外務省の「外交史料Q&A 幕末期」が参考になる。→こんなページがあるんだな!)。その後、英国ビクトリア女王から感謝のしるしとして贈られたのが、この『サーベル形儀仗刀』である。私は「サーベル」というものをほとんど知らなかったので、調べたら「騎兵が片手で扱えるように軽く、できるだけ長く作られた刀剣」だという(本件は総長95.7cm)。優雅な曲線を描く湾刀で、剣身の唐草模様、獅子を模した象牙の柄頭など、手の込んだ美術工芸品の趣きがある。関連の新聞記事によれば、長年行方不明だったが「書庫の整理中に発見された」というのに笑ってしまった。すごいな、静嘉堂文庫の「書庫」、まだまだお宝が隠れているのではないかしら。

 あと静嘉堂文庫が、原撫松の描いた『後藤象二郎像』(油彩画)を持っているのも初めて知った。まあ後藤の長女は岩崎彌之助に嫁いで、小彌太を産んだわけだから、後藤ゆかりの品が静嘉堂文庫にあることは、何も不思議ではないのだけれど。

三井記念美術館 越後屋開業350年記念特別展『三井高利と越後屋-三井家創業期の事業と文化-』(2023年6月28日~8月31日)

 三井越後屋が延宝元年(1673)に開店してから令和5年(2023)で350年を数えることを記念して、三井文庫と三井記念美術館が開催する特別展。展示資料のかなりの数が、三井文庫所蔵の文書資料なので、全体に地味な展示だが、歴史好きには楽しかった。

 創業期の事跡は、以前読んだ『三野村利左衛門と益田孝』の復習になった。三井の創業者と言われるのが三井高安、高安の長男が高俊、高俊の四男が高利と続く。この高利が三井の基礎を築いた傑物で「元祖」とも呼ばれる。ここまでは知っていたが、実は、高俊の妻で高利の母・殊法という女性が、優れた商売才覚の持ち主で、息子たちを立派な商人に育て上げたらしい。また高利の妻・かね(寿讃)も賢夫人であったという。文楽の世話物に出てくる、しっかりものの商家のおばあさんをイメージしていた。展示品では、ぶあつい帳簿や証文、法度集に混じって、高利愛用の足袋・足袋沓(防寒用のもこもこのスリッパみたい)・手袋なども出ていておもしろかった。

 創業期の人々は節約を重んじたが、次第に大店にふさわしい趣味を楽しむ余裕が生まれる。三井各家が収集した茶道具、大井戸茶碗、赤楽茶碗、青磁茶碗なども展示されていた。

 私が、おお~とのめり込むように眺めたのは『大元方勘定目録』(木箱入りの大部な資料)や『宗竺遺書』(和綴じ冊子、三井高平が定めた同苗結束の家法)である。ここで定められた組織のありかたが、近世における三井の繁栄を生み出したわけだが、次の時代(近代)に適応するには、根本から組織改革に取り組まなければならなかった。それを成し遂げたのが、三野村利左衛門と益田孝だと私は理解している。

 また、三井の人々が、恵比寿・大黒という福の神や、伊勢神宮を信仰していたのはよく分かるが、向島の三囲神社を信仰し、三越本店や支店では神社の分霊を祀っていることは知らなかった(三囲≒三井の縁らしい)。三囲神社の一角には、三井11家の当主夫妻の霊(ただし没後100年を経たものだけ)を祀る顕名霊社もあるそうだ。機会があったら、訪ねてみたい。


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