見もの・読みもの日記

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南宋絵画から素朴絵まで/十王図(神奈川県立歴史博物館)

2021-08-12 21:31:36 | 行ったもの(美術館・見仏)

神奈川県立歴史博物館 特別展・重要文化財修理完成記念『十王図』(2021年7月17日~8月29日)

 同館所蔵の『十王図』(10幅、中国・南宋時代、国の重要文化財)を修理後初めて公開し、あわせて各地に伝わる『十王図』を紹介する。地味な企画だと思っていたが、行ってみたら面白かった。

 同館所蔵の『十王図』は、過去の複数回の修理が新たな保存上の問題を引き起こしている状態だったが、神奈川県と文化庁が共同で費用(3,300万円強)を負担することにより、平成24-28(2012-2016)年の5年間をかけて修理が完了した。図録に掲載されている同館元学芸員の方の回想によれば、2005年の『館蔵美術工芸名品展』で公開したのが最後で、2007年の特別展『宋元仏画』では出陳を断念したとのことである。私はどちらの展覧会も行っているので、2005年にこの『十王図』を見ているのかもしれないが、残念ながら全く印象に残っていない。

 今回の展示では、はじめに全10幅の高精細写真パネルがあり、じっくり舐めるように見た上で、ガラス越しの現物をしっかり見ることができた。劣化・損傷が激しくて、裁きの場に引き出された亡者や獄卒の様子はやや分かりにくいが、十王と侍者(男性官吏、だいたい2人ずついる)の部分はよく残っている。十王は、白目を大きく剥き、小さな黒目を点じて威嚇する表情が多い。侍者は全般にもう少し穏やかだが、細い釣り目が怖かったりする(五官王幅)。宋代の仏画は寒色系のイメージだったが、『十王図』では赤が目立つ。椅子や机のカバー(?)や十王の衣服(平等王幅)など、赤に金や白で細かな花模様が散っていて、美しく華やかである。

 本図が非常に珍しいのは、八王二使者で構成されていることだ。二使者とは「直符使者幅」と「監斎使者幅」。前者は、白いズボン(馬に乗るための格好?)に赤い頭巾の使者と、鬼面のような恐ろしげな侍者3人を描く。1人は黒馬の口を取り、1人は大きな旗を掲げる。後者は何か(ハンディな椅子のようなもの?)に腰を下ろした白衣・黒い冠のかなり偉そうな使者の背後に恐ろしげな侍者が4人。手前にも2人いて、1人は亡者(?)を引きずっているのではないかと思う。

 実は7月に京都の高麗美術館『朝鮮の仏さま』展で「直符使者」の図像を初めて見て、少し調べていたら、この展覧会の情報に行きあたり、慌てて見てきたのだ。高麗美術館の解説には「中国や日本の仏教にはない、朝鮮半島独特のもの」とあったが、この県博本のほかにも、小田原市の総世寺本(明時代)、滋賀県の西教寺本(高麗~朝鮮時代)に二使者の図があることを知った。

 本展には、神奈川県下を中心にさまざまな十王図が集められていて面白い。建長寺(室町時代)や称名寺(元時代、落款:陸信忠筆)のものは、たぶん別の機会に見たことがあるかな。横浜・宝生寺(室町時代)は十王の本地仏が円光に浮かぶ姿を描き込み、十王の前で地獄の責め苦が展開されるなど、「和様」の展開を見せている。

 川崎・明長寺の『地蔵十王図』(江戸時代)は十王の顔が大きくて、表情が分かりやすい。地獄の様子もマンガちっくで、ところどころ笑える。これは見たことあるかも?と思ったら、日本民藝館で聴いた矢島新先生の講演で触れられているので、その後の『日本の素朴絵』展に出ていたのではないかと思う(図録未確認)。逗子・神武寺の『十王図』(江戸時代)は、さらに素朴度がアップしていて、ぐふぐふ笑ってしまった。図録には特に笑える箇所(イモリの黒焼きみたいになった亡者とか)が拡大で掲載されていて、編集者も楽しんでいそう。

 重文の南宋絵画から素朴絵までを一気に楽しめるお得な展覧会。なかなかないと思う。

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