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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

人麻呂と歌人たちの肖像/歌仙と古筆(出光美術館)

2018-06-22 22:32:56 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 人麿影供900年『歌仙と古筆』(2018年6月16日~7月22日)

 「人麻呂影供900年」と聞いて、そんな記録が残っているのかと感心した。元永元年(1118)、藤原顕季が、源俊頼、藤原顕仲らを招き、歌聖・柿本人麻呂の像を懸けて歌会を行ったのが始まりだという。今年はそれから900年に当たることから、人麻呂像と多数の歌仙絵、歌仙の名歌を記した名筆を展示する。

 「歌仙(絵)」と「古筆」の比重は半々くらいかと思ったら、意外と歌仙絵が多かった。冒頭に佐竹本三十六歌仙絵の「柿本人麻呂」(出光美術館所蔵)と「山辺赤人」(個人蔵)。どちらも特定のモデルがいたのじゃないかと思われる、なかなか個性的な肖像である。人麻呂のほうが福々しい老人像で、赤人は皺が多く骨ばった顔立ちである。ポーズは違うが、どちらも筆と紙を持っている。佐竹本はもう1点「僧正遍照」も。贅沢そうなオレンジ色の衣に埋もれ、同色の袈裟をつけている。手には数珠と大きな五鈷杵。赤い唇が若々しい。

 人麻呂像は、少し上体を反らせて斜め上を仰ぐような佐竹本のポーズが、少しずつバリエーションを加えながら、基本的には近世まで受け継がれていく。ずらり並んだ人麻呂像を見比べるのは、とても面白かった。出光美術館は、以前も人麻呂像の特集をしたことがあった。2006年の『古今和歌集1100年記念祭-歌仙の饗宴』ではないかと思う。

 屏風も多数。伝・宗達筆『扇面散図屏風』は「単調」「ダイナミックさに欠ける」と評判がよくないが、扇面の中に歌仙絵らしきものが8面あり、明らかに人麻呂像を意識した男性像もある。というか、王朝装束の男女を単独で描くと、基本「歌仙絵」に見えてしまうのだな。

 伝・岩佐又兵衛筆『三十六歌仙・和漢故事説話図屏風』は久しぶりに見た。遡ってみたら、2010年の出光美術館『屏風の世界』展の感想に『三十六歌仙屏風』の名前でメモを書いている。画面の上の方、長い上げ畳(?)に三十六歌仙が一列に並んで座っているのが面白いと思っていたが、屏風の中央、金雲と藍色を背景に団扇のような楕円形が散らしてあり、それぞれに「和漢故事説話図」が描かれている。「和」は源氏物語や平家物語、「漢」は仏教説話や史書の一場面らしいものが見える。又兵衛の工房作らしいが、実にバリエーション豊かな引き出しを持っていたんだなあと感じる。後半にも伝・岩佐又兵衛筆『三十六歌仙図屏風』あり。金地の屏風に36人の歌人を群像的に配置し、和歌色紙を貼る。歌人の顔立ちに又兵衛ふうの特徴は薄い。なお、なぜか斎宮女御が重複していて、小野小町がいない。

 あと面白かったのは、白描の『時代不同歌合絵』の「藤原顕季」と「九条兼実」。顕季は恰幅がいいなあ。横顔の兼実は線が細そうな感じ。同じく白描『中殿御会図』(室町時代)も面白い。出光美術館で何度か見ているが、忘れていた。今回は冷泉為恭による模写本も並べて展示。『西行物語絵巻』(江戸時代、宗達筆)は、さりげなく西行(1118-1190)生誕900年を記念して(※つまり西行の生年と人麻呂影供の開始年は同じ)第1巻をほぼ全面的に開いている。出家に至るまでの物語だが、解説も丁寧でしみじみ味わい深い。

 古筆は『継色紙』の「むめのかの」と「あめにより」、高野切第1種、石山切(貫之集、伊勢集)、古筆手鑑『見努世友』と、数は少なめだったが名品揃いで満足。最後は鈴木其一のカラフルで祝祭的な『三十六歌仙図』。軸物しか知らなかったが、金地屏風もあるのだな。其一の描く三十六歌仙図はすごく魅力的だ。なにげに注意深く、年齢や性格、武官と文官を描き分けている。男女のごたまぜ感もよい。一人ずつフィギュアにしてくれたら、絶対集めてしまうだろう。

 なお余談だが、藤原顕季(1055-1123、六条修理大夫)が人麻呂影供を行った記録は『十訓抄』(説話集)にあり、元永元年(1118)6月16日のことだという。なんと奇遇なことに、この展覧会の初日、私が見に行った日と同じではないか(もちろん当時は旧暦であるが)。また、元来は藤原兼房(1001-1069、後拾遺歌人)が夢に見た人麻呂の姿を絵師に描かせ、礼拝したもので、兼房臨終に際して、白河院に献上され、「鳥羽の宝蔵」に収められた。その後、顕季がその絵像を借り出して、写し描かせたという。歌人が神様になってしまうというこの国の文化、嫌いじゃない。
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