見もの・読みもの日記

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鳥好き三井家の人々/国宝雪松図と花鳥(三井記念美術館)

2018-02-04 23:06:15 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 『国宝 雪松図と花鳥-美術館でバードウォッチング-』(2017年12月9日~2018年2月4日)

 恒例の『雪松図屏風』の新春公開に合わせて、今年は館蔵品の中から花鳥、なかでも「鳥」に焦点をあてた展覧会。あまり期待していなかったので、会期最期の週末になってしまったが、行ってみたら意外と面白かった。まず展示室の前屋に花鳥をモチーフにした衝立3点が置かれていた。『牡丹孔雀図剪綵衝立』は、三井家8代・高福(たかよし、1808-1885)76歳のときの作で、丸山派ふうの牡丹孔雀図だが、刺繍と細い布の重ね貼りで、呆れるほど豪華な尾羽を表現している。剪綵(せんさい)というのは、中国の工芸を源流とし、紙、布、金箔などを用いてつくる貼り絵の一種だが、高福はこれを極めて「高福剪綵」という流派(?)を創り出したそうだ。金と暇のある老人でなければできない趣味だなあ、と感心しながら、本展の「ごあいさつ」パネルを眺めると、これらの剪綵衝立は三井家の「鳥好み」を示すものと書かれていた。へえ、三井家って「鳥好み」(英文パネルでは true bird lovers)だったの?と驚きつつも、まだ入口では半信半疑だった。

 展示室1は、三井家ゆかりの茶道具に「花鳥」を探す。江戸~明治・大正・昭和の茶道具が混ざっているのが面白い。『鳥地文切合釜』(大正時代)は大きな鳥の姿が表裏に浮かび上がっていてかわいい。赤楽茶碗があると思ったら道入の『鵺(ぬえ)』だった。ちょっと苦しいが、これも花鳥のうちかな。左入の『小鳥』は小ぶりで品のある黒茶碗で、黒釉の色が美しい。茶碗で鳥に関する銘を持つものは少ないそうだ。

 展示室4は国宝『雪松図屏風』が見ものだが、珍しい絵画作品をいくつか見た。狩野栄信(伊川院)の『四季山水図』4幅は、中国の自然を描いたもので、人の姿が多く、風俗描写も楽しめる。第2幅の鷹に注意が促されていたが、耳の垂れた羊かあるいは洋犬(?)の姿があったり、狆のような犬がいたり、面白かった。沈南蘋の『花鳥動物図』は11幅のうち6幅を展示。沈南蘋にしては、ちょっとおとなしい感じ。描かれた鳥や植物の細部は濃密なのだが、画面全体では余白が目立つのである。

 そしてこの部屋の片面を全部使って、渡辺始興筆『鳥類真写図巻』が広げられていた(2012年にも一度見ている)。同定された鳥類の実物写真を添えてあるのが嬉しかった。鳥によって、正面顔や上から見た図、足先や羽根のアップなど、いろいろな写生を試みているのが面白い。この図巻を収集したのは新町三井家の三井高遂(たかなる、1896-1986)で、東京帝国大学で動物学(遺伝学)を学んだ人物である。あとのほうにもう一度、高遂の著書(共著)『家禽図譜』を展示し、鳥小屋のニワトリと一緒の写真が展示されていた。高遂は小さい頃からニワトリが好きで、大学でもニワトリを研究し、全日本チャボ保存協会の会長を務めたそうだ。そういえば、秋篠宮さまもニワトリ研究で博士号を取られたことを思い出した。

 再び茶道具・工芸品など。『月宮殿蒔絵水晶台』にも驚いた。リンゴ大の水晶玉を飾るために、文机ほどもある飾り台をつくってしまう。月宮殿をモチーフにし、三井鉱山で産出したさまざまな鉱石を用いているのが洒落ている。小さな青花陶器の『阿蘭陀孔雀筆架』はオランダ製だというけど、中国っぽい感じもした。

 最後の展示室7は、狩野派・丸山派の書画のほか、三井家の人々の「鳥好き」をあらためて振り返る。三井家9代・高朗(たかあき、1837-1894)は400羽以上の鳥を飼っていたといわれ、明治4年(1871)の京都博覧会にめずらしい飼鳥の数々を出品したことが『京都博覧会諸鳥出品目録』から分かる。殿様の道楽といえばそれまでだが、なぜ鳥だったのか、興味がつきない。
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