見もの・読みもの日記

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辺境の公共圏/アジア海賊版文化(土佐昌樹)

2009-02-16 00:04:01 | 読んだもの(書籍)
○土佐昌樹『アジア海賊版文化:「辺境」から見るアメリカ化の現実』(光文社新書) 光文社 2008.12

 コカコーラ、マクドナルド、ハリウッド、マイクロソフトなどが代表するアメリカの文化的影響力はアジアの各地で見られる。今日、アメリカを軽視したあらゆるアジア論は単なる空論に過ぎない。辺境アジアにおけるアメリカ文化の浸透を支えているのは、実は海賊版文化である。その実態を、著者はミャンマーおよびミャンマーと国境を接する中国西南部のフィールドワークに基づいて紹介する。

 軍部の独裁政治が続くミャンマーでは、テレビ番組は全て検閲部の事前チェックを受け、不適切な箇所は容赦なくカットされる。けれども、衛星放送の受信と、海賊版のビデオやDVDは政府から黙認されており、ビデオショップは、一種の文化的サロンとして機能している。ハーバーマスのいう「公共圏」は、高い教養と内面的な自由を持つ市民によって作られるものだった。しかし、「ブルジョア的公共圏」から見て異質に見える光景でも、アジアにおいては(海賊版という、非合法な資源を用いることにより)一種の公共圏が成立しているのではないか、と著者は説く。

 以上の主旨にあまり異論はない。当たり前すぎて、つまらないくらい。貧しい国々で海賊版が果たす役割という点では、以前読んだ、遠藤誉『中国動漫新人類』のほうが納得できた。本書は、海賊版の諸相そのものを具体的に論じたものと思って読み始めたので、やや題名に騙された感じ。理念に走って、喰い足りない内容だった。
コメント
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