見もの・読みもの日記

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明るい未来へ/デモクラシーの冒険

2004-12-16 23:55:04 | 読んだもの(書籍)
○姜尚中、テッサ・モーリス-スズキ『デモクラシーの冒険』(集英社新書)集英社 2004.11

 なんだか、とても楽しい気分になる1冊だった。不思議なことに。昨今、デモクラシーについて真面目に語ろうとすれば、憤懣、愚痴、倦怠、笑止あるいは悲壮な雰囲気が漂わざるを得ないところ、本書には、南国の青空のような明るい光が満ちている。

 多忙を極める姜尚中を、旧知のテッサさんが、オーストラリアのリゾート地に連れ出すという設定がいいのかも知れない。そうね。なんだか、プラトンの対話編みたいである。楽しいミュージカルが始まるような幕開け。美しい舞台、気のおけない友人、ふんだんな美味、そして知性を刺激する絶好の話題としての「デモクラシー」。

 デモクラシーについて語ること、最も端的な文中の表現で置き換えれば「すべての人間は、自分たちの暮らしをより良い方向に変えられるボタンを持つ」と信じて、そのために、何ができるかを考えること、それは、こんなふうに楽しく昂揚する作業だったのか、と思って、しみじみ、びっくりした。

 本書には、イラク派兵とか北朝鮮とか、マスコミを熱くにぎわせている政治問題も取り上げられているけれど、それらはひとまず措いて、もっと自分たちの生活実感を大事にしながら、かつ、デモクラシーの理念に立ち返って考えようというのが基本姿勢である。

 その結果、普通なら、デモクラシーの装置と考えられている制度・現象に対しても、深く内省的な疑問が投げかけられている。たとえば「民営化」には、国家と私企業の癒着、公領域と私領域の曖昧化を生むという暗黒面があるのではないか。「政党」、特に二大政党制は、決定の効率化を求めるあまり、マルティチュード<多様性>を抑圧するために機能しているのではないか。それから、我々の想像力を奪い、「この退屈な日常はずっと続く」というメッセージを流し続けるマスメディア、特にテレビに、どう抗していくべきか、など。

 お二人とも、現実にはもっと不愉快な話題で、不愉快な論客と渡り合うことも多いんだろうになあ。一場の夢をぜひご一緒に。

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