およそ50年近い我が家のオーディオの歴史を冷静に辿ってみると、自分の耳を頼りにしながら取り組んできたというよりもその当時のお付き合いのあった仲間たちの影響を色濃く反映しながら今日に至った感がいつもしている。
つまり、オーディオの歴史とは、お付き合いの歴史であり、「井の中の蛙」になることを少しでも防止できたという意味で(関係の方々に)感謝の念が堪えないが、その一方では「お前にはそもそも主体性ってものがないのか」と読者から軽蔑されそうな気もするので痛しかゆし(笑)。
「学ぶ」という言葉の語源は「真似ぶ」から来たという有力な説もあるので何ら臆することもないのだが、実は今回(4月28日)愛知県から我が家に試聴にお見えになったSさんとの試聴会でそのことを改めて痛切に感じたので縷々述べてみよう。
Sさんは半年ごとに実家(福岡県)に帰省されており、その都度足を延ばされて我が家を覗かれるのが通例になっているが、今回も半年ぶりの再会だった。
「いやあ、お元気でしたか。半年間でどのくらいシステムが変わったのかワクワクして来ましたよ。お宅のシステムはとても澄んだ音がしますからね~。」と仰るSさん。
「どうもありがとうございます。想像される以上に変わったと思いますよ。ただし、音が良くなったかどうかは別問題ですが。」と苦笑しながらの返答。
すると「音の変化を楽しむのがオーディオですから音が良くなろうと悪くなろうと構わないと思いますよ。要は楽しめばいいんですよ。」とSさん。
この言葉を聞いて、まるで百万の味方を得たような思いがした(笑)。
はじめに聴いていただいたのは「長時間聴いても疲れない音」としてお気に入りの「JBL+グッドマン」の変則2ウェイシステムだった。
「長時間聴いても疲れない音」を言い換えると「周波数レンジを欲張らず気に障るような刺激的な音を出さない音」ともいえるが、Sさんによると「とてもバランスがいい音ですねえ」で、まずはひと安心。
次に聴いていただいたのがワーフェデールの2ウェイシステムだったが、これがまあ絶賛、また絶賛。
「ヴァイオリンの音色がまるでむせび泣くような響きでとても魅力的ですね。スピーカーの後方にきれいに音が広がって、控えめな佇まいが何とも言えません、何だか胸が切なくなるような響きですよ。」
これはクラシックファンならお分かりのとおり最上級の理想的な誉め言葉である。
駆動したパワーアンプは我が家のお宝「PX25シングル」(前段管は超希少な「GX-112」のトリタン・フィラメントでインターステージ゙・トランス内蔵)だったが、ひとしきり聴いていただいた後で今度は「WE300Bシングル」アンプに切り替えて聴いていただいた。
この300Bアンプの概要は、厚さ2.5ミリの銅板シャーシ、前段管は「371」(トリタン・フィラメント)、出力管は「WE300B」(1951年製のオールド)、整流管は「4274A」(STC)、入力トランス(HA-100X)、インターステージトランス(HA-106)ともにUTC(アメリカ)、出力トランスはベテラン(個人)の手巻きによるもの。
持ち主が言うのも何だが、真空管、トランスとも「おいそれ」とは手に入らないものばかりだし、さらに前段管と出力管のヒーター回路はそれぞれ別々になっているという、たいへん凝った代物である。
しかも最終的な製作責任者は古典管の泰山北斗「北国の真空管博士」と役者がそろっている。もし我が家のオーディオ機器をすべてオークションに出したと仮定すると一番高値がつきそうなのがこのアンプだろう(笑)。
ちなみに、両方のアンプとも前段管は「トリタン・フィラメント仕様」を使っているが、通常のフィラメント仕様と違って情報量が段違いなので愛用している。
さあ、イギリスを代表する出力管とアメリカを代表する出力管の一騎打ちの結果は、はたしていかに・・・。
以下、続く。