CD番号 EMI CHS 5 65356 2(3枚組)
収録年 1951年
評 価(A+、A-、B、C、Dの5段階評価)
総 合 A-
指揮者 A+ ウィルヘルム・フルトヴェングラー(1886~1954)
管弦楽団 A+ ウィーン・フィルハーモニー
合唱団 A- ウィーン国立歌劇場合唱団
ザラストロ A+ ヨーゼフ・グラインドル
夜の女王 B ウィルマ・リップ
タミーノ A+ アントン・デルモータ
パミーナ A+ イルムガルド・シーフリード
パパゲーノ A- エリッヒ・クンツ
音 質 C
私 見
♯3の1949年盤(旧盤という)と同様にザルツブルク音楽祭でのライブ録音である。主役クラスの歌手はタミーノ役とパパゲーノ役が変わっただけだが、旧盤とはえらい違いである。断然こちらの方が良い。
まず、どっしりとした重量感と密度の濃さと熱気を感じる。全編を通じて、まぎれもなく、フルトヴェングラー独特の情念といったものが渦巻いていて何だかあの名盤の誉れ高い「ドン・ジョバンニ」と同じ世界を髣髴とさせるものがある。
そのほか旧盤と比べて目立ったことは、オーケストラが非常にのっていることで、切れ味、スケール感、歌声への追随性いずれをとっても指揮者との絶妙の一体感を感じる。
歌手陣の出来もいい。タミーノ役のデルモータはやはり図抜けているし、パミーナ役との呼吸もピッタリだ。
夜の女王役のリップもいいのだが、いつも最高音のところで余裕が無い感じがしてBにとどまってしまう。
この盤は魔笛独特の架空のおとぎ話の世界とは随分縁遠い感じがするが、その反面で生身の人間を感じさせるような強い印象を受ける。ライブで真価を発揮するフルトヴェングラーならではの個性を色濃く反映した魔笛ではなかろうか。
音楽は一過性のものとよくいわれるが、上出来のライブは録音の良し悪しにかかわらずスタジオ録音では絶対に味わえない世界があり、その意味でこの盤の価値は大きい。
さて、盲目、蛇に怖じずの感があるが、♯1のトスカニーニ盤と、このフルトヴェングラー盤の両巨匠の魔笛を同じライブ盤ということで俎上に上げてみたい。。
それぞれ一長一短でまず好みの世界であることを前提にしていえば、この魔笛に限ってはじぶんはトスカニーニ盤の方により深い感動と魅力を覚えた。
イタリア人の指揮者らしく歌手に朗々と豊麗な歌い方をさせているのが何よりの特徴で、したがってクライマックスへの盛り上がりが一段と効果的になっており、オペラはその辺が一番の生命線だと思うからである。
それに加えて、魔笛らしさというべきか、何だかわけの分らない広大なイメージを持たせてくれるところが気に入っている。
フルトヴェングラーはどちらかといえば「ドン・ジョバンニ」のような物凄く人間臭い世界がマッチしているように思う。