「球転がし」といっても、何も「ボーリング」のことではありませんよ(笑)。
これは真空管アンプ愛好家の間の隠語で「ほぼ同等の規格の球を製造ブランドごとに差し換えて音の変化を楽しむこと」を指します。
先日、大分市にお住いのNさんからお電話があって「明日(27日)お伺いしたいのですがご都合はいかがでしょうか。委託されてオークションに出品した代金が溜まっていますし、久しぶりに音も聴かせてください。Mさんと二人になります」
「ハイ、OKですよ~」
3年ほど前からNさんに我が家で不要になったオーディオ機器をコツコツとオークションに出品してもらっている。何よりも部屋のスペースが確保できるし、新たなオーディオ機器の購入財源になるので大助かり。
それに今回は新たなスピーカー(JBLのD123)を聴いていただくのに絶好のチャンス。「3人寄れば文殊の知恵」という言葉があるように、オーディオの試聴は「3人」が一番いいように思う。
オーディオはそれぞれの感性の違いから「百人百様」で、その在り様にいいも悪いもないが、出てくる音質に対しても「肯定派 対 否定派」に分けられる。その場合「3対0」「2対1」「1対2」「0対3」と、白黒がハッキリつけられるのが好ましい。
二人で試聴するときのように「1対1」ということが無い。自分などは意見が対立したときに、気が弱いものだからつい相手の自信に気押されてしまい、いつも煮え湯を呑まされている(笑)。
このように今日は絶好の機会ということなので、新しい組み合わせの「D123+075」(JBL)の試聴とともに駆動するアンプを「WE300Bシングル」にして、「球転がし」をやってみることにした。まず当然のことながら第一弾として300B真空管を俎上に上げた。
現在、手持ちの300Bは下記の画像のように左から本家本元の「WE300B」(1951年製オールド)、同じく「1988年製」、ロシア製の「エレクトロハーモニクス」(以下「エレハモ」)、中国製の「ゴールデンドラゴン」(GD)の4種類。
お値段のことを持ち出すのはあまり品が良くないことを十分承知しているが、話の行きがかり上、仕方がないのであえて記載しておこう。
オークション相場でいくと、まず「WE300B」の1951年製の良品が50万円前後、1988年製が30万円前後、中国製並びにエレハモが2万円前後である。(いずれもペアの値段)
ご覧のとおりまったく雲泥の差がある。ただし我が家の1951年製は寄る年波には勝てず、何しろ65年も経過しているのでややヘタリ気味でお値段はぐっと下がるだろうが(笑)、それでも高価であることには間違いない。1988年製はまっさらに近いので相場どおりだろう。
「はたして音質にお値段ほどの違いがあるのだろうか」、今回の「球転がし」の興味はこの一点に絞られる。
まずエレハモから試聴してみると「JBLらしくて元気のいい音ですね~。これで十分な気がしますよ。エレハモはなかなかいいじゃないですか!」と「3対0」で衆議一決。
次に1951年製のWE300Bを挿し代えてみた。
「ウ~ン、まったく音楽の雰囲気が一変しましたね。とても渋い感じがするのですが、そこはかとなく色気が漂ってきてとてもいいですね。惚れ惚れします。振るい付きたくなるような音とはこういう音なんですね。悲しいことにエレハモとの差は歴然としています。この音なら50万円以上の差があっても当然ですよ!」と、これは「2対1」。否定派は自分だけ(笑)。
総じてやはりお値段ほどの音質の差はあるようで、オリジナルのWE300Bをお持ちの方は絶対手放してはいけませんよ~(笑)。ただし1990年代以降製造のWE300Bは故障がやたらに多いので買うと後悔することが多いと聞いている。ご用心!
この日は時間切れで、「WE300B」の1988年製と中国製の比較は次回へと持越し。おそらくエレハモと中国製は似たり寄ったりだろうが、WE300Bの1951年物と1988年物との差はぜひ確かめてみたい。
予想だが、1988年製の方が元気のいい音が出るだろうが、1950年代の黄金期のクラシックやジャズを聴くのならやはり1951年製に軍配が上がることだろう。
そして、「球転がし」の第2弾に移ろう。
今日は丁度いい機会とばかり、登場させたのがもう1セットの「WE300Bシングル」(モノ×2)。
この前段管にはこれまで「AC/HL」(英国マツダ)を使っていたのだが、どうも音がイマイチ冴えない。1枚ベールが被ったような音なので諦め気味だったが、もしかしてとワラにもすがる思いで「MH4」(マルコーニ:メッシュプレート)に代えてみた。μ(ミュー=増幅率)は同じ30前後なので差し換えが利く。
画像の左が「AC/HL」(メタルコート)、右が「MH4」でプレート部分がメッシュ(網の目状)になっているのがお分かりだろうか。
20年近く真空管オークションをやってきたが、見かけたのはこの1本だけという稀少管である。ペアになる片方は「北国の真空管博士」に無理を言って譲っていただいたもの。
差し替えると驚くほどの豹変ぶりだった。
「これはいいですね!まるで別のアンプを聴いているみたいです。音がメチャくっきり爽やかになりました。前段管ひとつでこれほど激変するんですから真空管アンプは奥が深いですねえ。それにしてもメッシュプレートはダントツの性能を発揮しますから、オークションで見かけたら絶対に買いですね。」
これは「3対0」で異論なし(笑)。
今日の「球転がし」は大きな実りをもたらした。「WE300B」アンプ(モノ×2台)の復活はことのほかの朗報である。
これで我が家の真空管アンプ群は「WE300Bシングル」が2セット、「PX25シングル」、「2A3シングル」、「171シングル」「71Aプッシュプル」となり、これで十分。以後、オークションへの手出し無用(笑)。
最後に、肝心のスピーカー「D123+075」(JBL)の試聴結果だが、JBLの口径30センチのユニットの「低音域の量感とスピード感」のバランスの良さに一同満足のご様子で、これも「3対0」。
この日はやたらに衆議一決が多かった(笑)。
それにしても、この日はとうとう「聴かせてくれ」という要望が無いままに、真打ちの「AXIOM80」の出番が無かった。
何だか今後の方向性を暗示しているみたいで、はたしてこれでいいんだろうか!?