「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

読書コーナー~本格ミステリ・フラッシュ・バック

2009年01月18日 | 読書コーナー

面白いミステリを手軽に、かつ効率的に読みたいとなるとどうしても紹介本が欠かせない。

「本格ミステリ・フラッシュ・バック」(2008.12、東京創元社)
    

本書はフラッシュ・バックとあるように、1957年~1987年に発刊された過去の日本の本格ミステリについて簡単な”あらすじ”と書評を加えた本で、著者は7人のミステリ専門家たち。

当時出版されたミステリがほとんど網羅されているといっていいが、なかなか的確な書評で信頼するに足る内容(と思う)。そこで、まだ自分が読んでいない本で書評が概ね「Good」だったものをピックアップして図書館からまとめて借りてきた。

「萩原朔太郎の亡霊」            内田 康夫  (徳間書店)
「りら荘事件」                 鮎川 哲也  (創元推理文庫)
「七人の証人」                西村京太郎  (講談社文庫)
「倫敦(ロンドン)暗殺塔           高橋 克彦  (講談社文庫)
「訃報は午後2時に届く」          夏樹 静子   (文春文庫)
「成吉思汗(ジンギスカン)の秘密」    高木 彬光   (光文社)
「破戒裁判」                  高木 彬光   (光文社)
「霧に溶ける」                 笹沢 左保   (春陽文庫)

いずれも古典とも言うべき作品ばかりで評価も定まっておりそれほどハズレがないだろうとの読みがズバリ的中。とりあえず5冊ほど一気呵成に読んでみたのでその読後感想を記載。音楽と違って本の方は人によって評価がそれほど大きく違わないように思う。

☆☆☆☆   「萩原朔太郎の亡霊」      

「浅見光彦シリーズ」で有名な著者だが、これはごく初期の作品。ミステリの紹介ではトリックを明かすような内容は「ご法度」(ごはっと)なのでごく手短に述べるが、復讐劇に見せかけた連続殺人の裏側に実は親子の断絶が遠因だったというのが真相で、途中からおおよその真犯人の見当がついたがなかなかの力作。萩原朔太郎のいくつかの詩に因んで殺人が展開されることもあって文学的な香りが全編に漂うのも捨てがたい。

☆☆☆☆   「りら荘事件」          

芸術家の卵である大学生たちが夏季休暇を過ごす避暑地の「りら荘」で起きる仲間内での連続殺人。死体の傍らに犯人が順番に置いていくスペードのトランプに大きな意味が隠されていることが最後に明かされるが思わず「うまい!」と唸ってしまった。惜しいことに犯人の動機がやや弱いし事件の現実性にも乏しいが、純粋に謎解きだけを楽しめばいい本で最後にすべての謎の種明かしでもまったく論理的に矛盾はない。

☆☆☆☆☆   「七人の証人」         

例によって「十津川警部シリーズ」の一編。帰宅途中を襲われ誘拐された「十津川警部」が目が覚めたのは奇怪な無人島。そこにはある町の殺人事件の現場となった一部分がそっくり再現されていた。そして次々に誘拐されてきたのはその殺人事件の目撃者として証人になった7人。そこは無実の罪をきせられ獄中死した息子の父親が仕組んだ真相究明のための狂気の舞台だったという筋書き。一つひとつの自信に満ち溢れた証言が、突き詰めていくと自己都合にすぎず、あやふやな記憶に左右されたものだったという展開。なかなか読ませるが最後に明かされる真犯人の動機が単純でやや弱すぎる。

☆☆☆☆☆    「倫敦(ロンドン)暗殺塔」      

著者のデビュー作「写楽殺人事件」は歴代の江戸川乱歩賞受賞作の中でも5指に入るほどの大傑作だったという。たしかに自分が読んだ限りでも謎の浮世絵師「写楽」の正体追求と殺人事件の解明とがうまく絡み合って未だに記憶に鮮明に残る作品。

本書は、注目のその第2作目で明治初期の文明開化の時代にロンドンを舞台にして起きた連続殺人事件が題材。井上馨や伊藤博文など明治の元勲たちが登場する壮大な仕掛けの歴史ミステリだが前半の滑り出しは読ませるものの途中からやや腰砕けの感あり。

舞台が大きすぎるせいもあって登場人物の人間像が真犯人も含めていまひとつ彫りが浅いし事件の真相も何か物足りない。トリック重視の展開ではないのでその点こそ肝心なのだが・・・。それにしても事件の発端となる維新時の会津での戦いは日本人同士なのにあんな鬼畜にも劣る所業があったのだろうか。史実か否かむしろそちらの方が印象に残った。

☆☆☆☆☆     「訃報は午後二時に届く」     

ゴルフ場経営をめぐる利権のからみで社長、副社長の連続殺人事件が発生。容疑者はゴルフ場造成に伴う代金の支払いを迫る造園会社の社長。そして容疑者の失踪から偽装自殺、逃亡へと展開。やがて留守宅を守る妻のもとに容疑者の「死後切断」(後に科学的に鑑定された)の「小指」が速達小包で午後2時に届く。

うーん、一言でいって非常に面白い。頁を開く手を休めるのがもったいないくらい。アリバイのトリックが巧妙だし、犯人の意外性もあるし、恋愛をからませたストーリーの展開力も読者を飽きさせない。

とりわけ著者が女性であるだけに女性の心理描写が丹念に描かれている。とにかく容疑者の「死後切断の小指」のトリックが明かされる巻末の3行にはすっかり兜を脱ぎました。週間読売が昭和60年に実施した「作者の自選する自作ミステリ」のアンケートで著者自身が本書を自選作に挙げていたというほどの快作である。


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