昨年の年末に久しぶりにオーディオ専門誌を購入してみた。
専門誌といってもいろいろあるが、そのうちの「季刊・オーディオアクセサリー」~2008 WINTER 131~(音元出版)という本。
主な中身は「オーディオ銘機賞2009発表」とあって、昨年登場したオーディオ機器あるいは今後ベストセラー、ロングセラーが予想される機器についてオーディオ評論家10名、販売店9名の合わせて19名の審査委員の合議制によって選出とある。
ひと昔前には、この種の本をせっせと読んでいたのだが近年は「もう、だまされないぞ」という猜疑心のもと、やや依怙地になって書店での「立ち読み」すら遠ざけていたのだが、日進月歩の時代にあまり取り残されてもと久しぶりに手にとって見る気になったもの。
よく考えてみると、自分が現在使っている機器はずっとずっと昔の製品ばかり。たとえば中高域用スピーカーの「アキシオム80」は1950年代の製品だし、アンプの真空管のWE300Bもそう、比較的新しいデジタル機器のワディアのDAコンバーター(27ixVer3.0)だって購入してから既に10年以上にもなる。
別に古い製品だけを愛する懐古趣味にこだわっているわけでもないのだが、自然に音楽に浸れる音づくりを目指してきた結果が以上のような選択となったものの、もちろん予算的な制約の支配下にあるのは当然で、「値段の割りに音がいい」(主観的なものだが・・)というのが第一基準。
オーディオ機器はとにかく値段が高すぎる。ちょっと音質のいいものになると法外の値段になるがこれは昔からそう。マイナーな趣味人相手なので大量生産がきかないなんて理屈は何とかならないものだろうか。
たとえば別のオーディオ季刊誌「ステレオ・サウンド」なんか見てみると、相変わらず外国製のオーディオ機器、それも500万円ぐらいは当たり前のような高級機器群がズラリと紹介してあるが所詮、当方はそういうものとは「縁なき衆生」である。
欲しいことは欲しいがそういう機器はどこかの金持ちさんにお任せしようというわけで、「宝くじ」でも当たらなければとても無理。昨年末の「年末ジャンボ」では自分、カミさん、娘でお金を出し合って購入した(○○○枚)もののやっぱりダメだった~。
話は戻って、とにかくまったく新しい発想の機器はないかということでページをめくっていくと、何とそれがあったのである。
名前は「エヴァヌイ・シグネイチャー(evanui signature)」(以下「エヴァヌイ」)というスピーカー。
上記右の写真だが、まるで骨董品の大きな陶器みたいでたいへん変わった形。
もちろん形ばかりではなく、理論も機能もユニークというか画期的である。そっくり「受け売り」でざっと紹介してみるが、決してメーカーや雑誌社の宣伝の片棒をかつぐつもりは毛頭なく、単なる興味本位の結果に過ぎないので念のため。
≪SPEC≫
方 式 : シングルユニット、ショートバックロードホーン
ユ ニ ッ ト : 8cmFDMドライバー(漆塗りマグネシウム振動板、エッジレス、
ダンパーレス
インピーダンス : 6Ω
周 波 数特性 : 50Hz~30KHz
能 率 : 87dB(2.83V/1m)
定 格 入 力 : 50W
瞬間最大入力 : 100W
サ イ ズ : 1380H×600W×680Dmm
質 量 : 約70Kg
取 り 扱 い : ViV laboratory
スピーカーはユニットからキャビネットまで実にさまざまの種類があるが理想がフルレンジであることは論をまたないところ。
「ユニット1個で人間の可聴帯域(20Hz~2万Hzといったところ)をきちんと再生できればそれが一番いい」というのが昔からいわれてきたことだが、残念なことに小口径の場合には低音が出ない、それかといって大口径にした場合には高域特性が劣化するというのが現実的な問題。
そこで、一般的にはしかたなく可聴帯域を分割して2ウェイとか3ウェイなどにして複数のユニットを使っているわけだが、自分の場合もやむなく3ウェイにしていて低域、中域、高域のクロスを300Hzと1万Hz前後にして一応手をうってはいるが、そのクロス付近の音のブレンド具合がなかなか微妙なところがあって、ソースの録音状況によっては透明感の欠如とか、あるいは複数ユニットのせいで音像定位の不自然さを感じるときがたびたびで、いわゆる我慢の世界である。
フルレンジにするとそういう悩みからまったく解放されるというわけで、「シンプル・イズ・ベスト」にこだわって推し進めるとすれば技術的には、
1 大口径のユニットで低域特性を確保した上で高域特性を改善する
2 中口径のユニットで低域~高域特性をそこそこに確保する
3 小口径のユニットで高域特性を確保した上で低域特性を改善する
と三つのアプローチがあるが、まず3が一番現実的。
この「エヴァヌイ」はまさにそのやり方で、振動板のサイズをわずか8cmにしたうえで、低域特性を確保する手段として振動の制約要因になるダンパーやエッジなどのサスペンションを取り除き、そのかわりに「特殊な液体」を使って無制限にそれを振動させるという画期的な方法を用いている。
それにキャビネットも実にユニーク。樽型スピーカーに似た形でバックロードホーンも兼ねている。
まったく新しい理論によるハイエンドスピーカーの誕生である。開発者は日本人だそうで秋元浩一郎さんという人。
最後に本誌の試聴結果を引用しておこう。
初めて聴く人は、これが本当にわずか8cmのフルレンジかと疑うに違いない。しかし、確かにそうなのである。そして低域から高域までレスポンスとエネルギーにまったく不足がない。実に滑らかな音調は、スピーカーの一つの理想を指し示している。この方向は絶対に正しい。驚異的なユニットが出現したものである。
以上のようにベタ褒めだが、残念なことに価格もいい。1台210万円ということでどっちみち2台いるから420万円!
どうせ買える身分ではないが、あえて言わせてもらうと最大のネックは「オーケストラのファンダメンタルな部分の再生」だと思うので、いかほどの量感と解像力なのか一度試聴してみたいもの。